Sonar Members Club No.4

日: 2014年4月30日

道元流 鬼谷子の帝王学 Ⅱ

2014 APR 30 9:09:37 am by 神山 道元

  さてリーダーたる者、過去の実績を良く把握することは勿論、変化(今日では危機と言った方が現実的でしょうか)に当たっては速やかに行動を起こし、困難を解決しなければなりません。鬼谷子の教えでは吉凶を知らねば、となります。吉凶を知り未来を予知する、と言う表現になります。古代に於いては天災といった自然現象を危機としたのですが、現代ではそれどころではありません。厳しい競争社会であり、同じ組織内の権力闘争もあるでしょう。これを乗り越えて行かなければ優れた指導者とは言えません。ネットも発達している日本には様々な落とし穴があります。今回は、言ってみればカウンター・インテリジェンスの話をします。
 インテリジェンスという言葉は最近一般的に使われるようになりましたが、古代のこれに当たる中国語は計謀です。計には正計と奇計とあり、『正』の方は王道を行くといいますか、真面目にコツコツやると言うことで、このブログを読む人達は既に実践されているのではないでしょうか。問題は『奇』の方で言ってみれば、目的の為には手段を選ばず、といった策です。もう一つ、臨機応変の意味も込められています。そして実行するに当たって張り巡らされるのが『謀』であります。
 鬼谷子はこの『謀』について、特に漏洩することを戒めています。組織内ではここに気を配らねばなりません。ある組織ユニットで、全員一致団結して作戦を練る。これはダメだと言っています。同志的結束のある者が集まって「謀討方案(謀をめぐらす)」しなければ秘密が漏れる。一番いいのは最も重要な人物唯一人に相談し、心を合わせてて謀る事だとしています。更に、その計謀を謀る者は君主にのみその奇計を授け、大臣には話さず、と言うのです。古代に於いては君主さえ抑えておけば事が足りたのでしょうが、複雑な今日の組織ではそうも行きません。特に日本の調和社会では、「報・連・相」と言われるように上をすっ飛ばして動き回ることはご法度でしょう。私なりにアドバイスするとしたら、領袖を目指すのであれば度量の広い「親分」のような上司も選ぶべきなのです。この場合の大臣に当たるのは、その「親分」との間にいる直属の上司と言えるでしょう。勿論、直属上司が「親分」であれば一番いいのですが、世の中そんなに人材はいないでしょう。
 又、謀を巡らす同志・仲間も選ぶ必要があります。鬼谷子は秘密の漏洩についてくどいほど警鐘を鳴らしていて、無関係な第三者から忠告を受けるようでは事は非常に危険だ、更に仲間への押し付けもいけない、同志の良いところを誉めろ、と言い切っています。
 同志は呼んで字の如し、志を同じくするものですが、信頼できる人の傾向については『中庸』であることを薦めています。感情の起伏が大きくない、好きなものにさほど執着せず、嫌いなものを見ても激しく排す事のない人。ただこんな完璧な人は滅多にいない。補助線を引きましょう。簡単に言えば『明るい』人、話を良く聞く人がいいでしょう。マキャベリが『君主論』に記述していますが、優れた指導者には『ヴィルトゥ』が必要だと言っています。『ヴィルトゥ』は中国語で『徳』に当たるイタリア語ですが、私は、鬼谷子はこれを『明るい』と表現したものと解釈しました。
 吉凶変化を『明るく』乗り越える。近代史で見られるのは毛沢東の例かと思います。言うところの長征は紅軍(共産党軍)にとって危機存亡の時で、要するに負けて逃げ回っていた訳です。しかし正面対決を巧みに避けつつ、全軍にマルクス・レーニン主義の思想を叩き込む好機と捉え、学習しつつ内部を固め(ライバルも蹴落とし)、『長征は大勝利に終わった。』と高らかに宣言しました。この『明るさ』です。数に勝っていた国民党軍に勝利したのはその後の歴史で明らかです。

 さて、同志を得る為には人を見極めなければなりません。話を聞く訳です。目は心の窓、口は心の門、です。唯の世間話ではなく、相手をとことん知るための極意を考えてみます。
 まずは自分の心を平らにしなければなりません。自分を捨て、相手に話させる。己を量り、同時に相手を知る。相手の過去を観察し、周囲の状況を考察してやる。直ぐに反論するのではなく、適切な質問をする。
 会話の内容は、最近の言い方によれば、場の空気を読む訳です。相手が分かってきて、盛り上がる場合は『陽』の話法、長生・富貴・愛好の話で相手を解放し取り込む。相手が奸・愚であり不実ならば『陰』の話法、羅患・貧賤・棄損・亡利・失意といった話で終わらせる、陰陽二つを使い分ける。
 鬼谷子は相手の状況を分類してみせます。まずその性、善にしても流暢でないケースを5つあげます。
1.体力虚弱に陥れば、集中して話せない。
2.恐怖を抱けば、見解がまとまらない。
3.憂いあれば、閉塞的にある。
4.怒りあれば、理論的でなくなる。
5.喜びに溢れていては、要領をえない。
こういった場合には正確に相手をみることは適わないので、陰陽を用いて別の機会を作るのです。
 そしていよいよ話が弾んで盛り上がります。ここで注意しなければならない警句をそっと挙げましょう。
1.内容を装飾する、借り物の文章を使う人は、重要なことは言わない。警戒をすべし。
2.こちらの難しい質問に軽率に答える人は、信用してはならない。
3.密告してくる人は、自分の欲望のために忠実なふりをしている。
4.話を博大にする人は、相手に自分を誉めて欲しいだけである。
5.自分が重要に扱われないと嘆く人は、権力の欲しい人である。
どうです。上の言葉はひっくり返せばそのまま”同志”たるべき人物が浮かび上がるでしょう。要は『平然と利筋道立てて話す』ことのできる人です。

今日はここまでにします。

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