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ナパ・バレー ケンゾーエステート再訪問記

先週の金曜日に再度ケンゾーエステートを訪問してきました。 1ヶ月前の6月14日に行ったばかりでしたが、シアトルとSFに出張が入り、ケンゾーエステートの幹部の方に連絡を取ったところ会って頂けると言う事で再訪問の運びと成った次第です。 この幹部の方は、数年前まで私の上司だった方で、一度ゆっくりとケンゾーエステートのお話を聞きたいと思っておりました。 大変幸運に恵まれた今回の訪問だったと思います。
この幹部の方のお話を約2時間聞かせて頂きましたが、当ワイナリーのオーナーの並々ならぬコミットメント、非常に緻密に立てられた今後20年に及ぶ経営計画、そして当ワイナリーと生産するワインを世界最高のものにしたいと言うビジョンと言いますかロマンを熱く語って頂き、こちらも大変啓蒙されました。
ナパバレーにはロバートモンダヴィを始めとする所謂エスタブリッシュメントがいて、ナパを世界最高のワイナリーが集まる場所にしようと言う意気込みが大変強く、それを成しえる為の厳しい掟のようなものがあるそうです。 土地所有者と言えども乱開発は許されません。 あくまで自然の良さを凝縮したのがワインであり、人工的に作られるものを最小限にすると言う基本精神があるそうです。 又、訪問客が多くなり環境の変化をもたらすような事は避けたいと思っており、各ワイナリーでは、訪問者は予約者のみで人数制限をしており、訪問時間も最後の予約は3時まで等事細かに決めているそうです。
ナパの一般的なワイナリーの純資産は約2Milから$10Milらしいのですが、ケンゾーエステートは後発と言う事もありかなりの投資をしたようです、又、本格的にワインを生産し始めたのは未だ数年前であり、現在の期間収益は赤字ながら2~3年後には黒字転換する予定との事です。先程の掟にある様に、大量の資本を投入しての乱開発を規制しており、その掟の範囲内での開発と言う事になれば、経営が軌道に乗るには時間が掛かりそうです。
何でも現在使用している敷地はたったの3%だけで、それが20年後には7~8%にする計画だそうです。 それも、敷地内で葡萄を育てるのに一番適している場所を選び、選りすぐりの場所にのみ最適の葡萄の品種を栽培して最高のワイン用の葡萄を生産する計画だそうで、20年後には現在の8万本のワインの生産を約10倍近くにしたいと仰っていました。
当幹部の方曰く、オーナーは決して金持ちの道楽でこのワイナリーを経営しているのでは無く、先程の様々な縛りの中で、最高の物を生産しながら経営としても安定した黒字経営に持っていくべく毎日心血を注いでいる様です。 現在では、日々の葡萄の生育状況、ワインの販売からあらゆる経費に至るまで全てその日の内に計上し、明日、来週の経営を調整しているそうです。短期ではその様な緻密なコントロールをしつつも、1年先、5年先、10年先、20年先の目標と課題をハッキリと明示しており、その計画と現在の乖離に関しての分析等にも神経を尖らせているそうです。
当幹部は金融出身の方ですが、ケンゾーに来てここまで数字等に緻密に神経を注がなければならないとは夢にも思わなかったと言っていました。お陰で、ここで余生を送ってのんびり半引退生活などといった夢話はすっとび、金融の世界にいる時よりも毎日の緊張感は高いといみじくも仰っていたのが非常に印象的でした。
又、オーナーとワイン製造の責任者との価格設定のやり取りの中に、オーナーのビジネスマンとしてのセンスの良さを見出し、大変勉強になったとも言っていました。全くの異業種に参入し、多くの事は専門家に任せるのですが、いざ商売と言う事になると商人としてのセンスと知恵を出し問題解決に当てた様です。 例えば、当ワイナリーの一番安い銘柄はRindoで現地では$100で販売しています。 この価格に関して、製造責任者のハイジ・バレット氏は怒ったそうです。 「私はそんな安いワインを作っているのではない。 最低でも$300はするであろうワインを作っているのだ」と。 しかし、オーナーはそのワインの実力は完全に認めたものの、後発である事等でその値段では買わないポテンシャルの顧客が多い事を憂慮する。 この様なポテンシャルの顧客に先ずは味わって頂き、評価して頂く為には安いと言うお値打ち感を与える事が大事である。一定の支持層が出来て来た所で値を上げていく事を提案し、お互いに納得したと言う経緯があるそうです。従って、このRindo(紫鈴)は買いです。 因みにランクが上の紫、藍は共に$250のプライスが付いていました。 
何の世界もそうでしょうが、一流になると言う事はそれなりの努力が無ければ絶対になれないと言う当たり前の事が改めて教えられました。
この美しい葡萄畑と景観、自然の美しさに尊敬の念を抱きながらそこからの命の雫を頂くのがワインだそうですが、そこに至るには見えない所で相当な努力がなされていると言う事を知りながら味わうワインは又格別の味わいがする様に思えました。
以上
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  1. 東 賢太郎

    7/15/2013 | 1:39 PM Permalink

    大変すばらしいブログ有難うございます。ハイジ・バレット氏の怒り、製造責任者の鑑ですね。手抜きや偽表示でごまかすような工場長とは品質以前に人間の質において雲泥の差です。Rindo、きっといいワインでしょう。京都のある部品会社社長が「もっと売ろうと思ってはいけない。もっといいものを作ることです。いいものは必ずいい値がつくんです。」と言っていたのを思い出しました。品質へのこだわりは日本のお家芸と思ってしまいますが、実は欧米にも中国にも同じぐらいありますね。多少の国民性による差は存在しても。最後はある人にはあるしない人にはないという所に落ち着くと思います。

    • 7/16/2013 | 12:44 PM Permalink

      一流の世界には国境が無いのだと言う事が少々理解出来たような気がしました。このケンゾーエステートは、その地域の秀でている所、ご当地のリソースを最大限活用し、最高の物を作ろうと言う意気込みが感じられます。確かに地元の掟には従うのですが、盲目的に従属するのでは無く、従いながらもより良いものを目指す姿勢は地元で評価されているようです。確りとしたアイデンティテイーを持ちながらも周りとのハーモニーを崩さないバランス感覚には脱帽です。これが真の一流と言われるグルーバル企業のあり方ではないかと思った次第です。

  2. 安岡さん、感動的なお話を有り難うございます。「長続きする、真のビジネスとは」というテーマでの、正にお手本としたいような、教訓が満載されているように思います。製造責任者バレット氏の怒りは、もっとも至極当然ですし、仕事に対する熱意や並々ならぬ自信にも感動しますが、後発者であることのデメリットを打ち消す為に、敢えて100ドルの値付けを決心した、オーナーのビジネス感覚や勇気にも感動いたします。仕事に対する拘りや執念、長期的なビジョンや見通し、そして数字に対する研ぎすまされた感性、全てが勉強になります。花崎洋

  3. 7/16/2013 | 12:58 PM Permalink

    日本人の方にはもっとどんどん世界に出て、ケンゾーエステートの様に挑戦して頂きたいと思います。 唯、日本式のやり方をごり押しするのでは無く、現地の良さを栄養として更なる発展系にして頂けたらと思います。考えて見れば、「カイゼン」は日本人の最も得意とする分野です。しかし、只単に工場内でのカイゼン運動に限定せず、人とのインターアクション、地域とのインターアクション、そして市場とのインターアクションに対してもカイゼン運動を行えば、まだまだ日本人や日本企業の比較優位性はどこの地域でも発揮されるのではないかと信じております。明るい話題として、その様な挑戦をしようと言う若い経営者の方々が最近NYに来られたり、NYに拠点を置かれるケースが増えている事は、シンプルに嬉しく思います。

  4. 東 賢太郎

    7/16/2013 | 1:58 PM Permalink

    「一流の世界には国境が無い」、まさにそう思います。それを求める人はそれが何国製でも構いません。80年代に日本製の車や電子部品が世界で売れ始めたのも量産のために一流の品質を譲らなかったからです。グローバル化というとすぐ英語力やらプレゼン力やらチャラチャラした話になりますが、本当の一級品は英語で説明しなくても世界で売れます。一級品でないから英語のセールストークが必要なんです。日本には一級品がたくさんありますね。物質だけでなく武士道のような精神文明もそうです。

  5. 工場内の改善に留まらず、人や地域や市場とのインターアクションに於いて、「カイゼン」を考え、実行するという、ご発想、多くの日本人が気付いていないように思います。とても刺激になりました。有り難うございます。花崎洋