Sonar Members Club No.7

月別: 2014年5月

米国の大学卒業式 日本では見られない光景

2014 MAY 26 1:01:27 am by 安岡 佳一

昨日、レンセラー工科大学の卒業式の模様をお伝え致しましたが、日本の皆様に日本の大学の卒業式では見られない光景がありましたので追加報告させて頂ます。それは、アメリカの軍隊の予備軍に所属しながら大学を卒業する人達についてです。折りしも明日は戦没将兵追悼記念日で時宜に合っているかも知れませんのでお伝え致します。

現在アメリカには徴兵制度は無く、軍隊に入隊したい人は全て自分の意思で入っています。隊員の資格は幾通りかあるようですが、その中の一つに予備兵(Reserve)制度と言うのがあります。この制度は、いざ何かあった時には戦場に駆り出される事を義務とする制度で、日頃は一般人の生活をしていますが週末等は訓練に参加する事が必要です。この制度に参加する事で手当てを受けたり、健康保険等の補助を受ける事も出来るようです。他には大学に行きたいが経済的に厳しいと思われる方がこの予備兵になる事により学費と最低限の生活費を払って貰える制度があります。しかし、卒業後はフルタイムの軍人になると言う契約になっている様です。

卒業式にはこの制度に則った予備兵の卒業生はフルタイムの軍人になるので全て軍服で出席します。学校によっては彼らは特別待遇で教授陣と同様に壇上に座って卒業式を迎えるケースもあるようです。昨日のレンセラー工科大学では、一般の卒業生に混じって式典に臨んでいました。何れにせよ、彼らは学長から先ず最初に特別に祝辞を贈られ一人一人名前を呼ばれ栄誉を称えられます。それだけ彼らは尊敬され尊重されていると言う事です。

私の娘の同級生の中にこの制度で卒業した人がいます。彼は海軍の予備兵でしたが、あの精鋭部隊「シールズ」に合格したツワモノです。大学時代の4年間は傍から見ていて本当に大変だった様で、予備兵とは言え殆ど毎日朝の5時から2時間ほど訓練し、週末は殆ど訓練の日々だった様です。彼の場合、父親が職を無くし家族全員が経済的に危機に陥り、自宅も手放さざるを得ない状況でしたが、必死に頑張って大学を卒業したそうです。卒業と同時に、彼は海軍の士官としてサンディエゴの第七艦隊に所属し、そこで数ヶ月訓練を受けた後横須賀に配属になるとの事です。士官になった事で本当の意味で国に仕える事が出来ると喜んでいたそうです。又、待遇が格段に良くなり、家族に仕送りが出来る事が有難いと言っていたそうです。

この様に経済的に困難な若者にとって国としては選択肢の一つとして道を開いています。この制度を使って成功した人を私は何人も知っています。彼らは、大学在籍中は予備兵として訓練を受けますが、自分の興味のある分野の勉強を大学院まで行って極めてから軍に正式に配属になると言う例もあります。例えば、ある人は医者になるまで予備兵として大学で勉強し、その間の手当ても受けながら卒業後は世界にある米軍の基地で軍医として活躍、戦場にも赴き前線で任務に就くことも何度もあったそうです。軍に20年近く勤務した後は除隊しましたが、医者として様々な大学病院からは優先されて採用され、軍からは手厚い恩給を今後受ける事が出来、医療費は今後一切無料等のベネフィットが付いてきます。この様に頑張って大学を卒業し軍で奉仕をすれば、かなり優遇されると言う事が分かっていれば志願者もいると言う事です。

この様に、アメリカでは軍隊と言うのは国民、国益を守る為の最重要組織であり、国としても学校法人としても社会としても最重要視しており、その大切な軍人の予備軍になる予備兵に対しての待遇も明確になっており、卒業式と言う晴れの舞台でも明らか重要視されていると言う事をお伝えしたかった次第です。

ある米国の大学卒業式に参加して

2014 MAY 25 13:13:15 pm by 安岡 佳一

確か3月のお題は卒業式だったと思いますが、遅ればせながら今頃寄稿させて頂きます。 ご存知の様に、米国では今まさに卒業シーズン真っ盛りで本日は友人のご子息がレンセラー工科大学を卒業されるとの事でお祝いに駆け付け、式典に参加させて頂きました。真に有意義な式典だった事からご報告したいと思います。

先ずは、レンセラー工科大学の名前を聞かれた事のある方は日本ではあまり無いのではないでしょうか? ご興味のある方はこちらを見てください。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%BB%E3%83%A9%E3%83%BC%E5%B7%A5%E7%A7%91%E5%A4%A7%E5%AD%A6

一言で言いますと、全米最古の工科大学で創立が1824年と今から190年前にレンセラー氏と他のパートナーの方が始められたそうです。場所はマンハッタンからハドソン川を約2時間半ぐらい北上し、NY州の首都であるアルバニーに程近いトロイ市に所在します。(かなり片田舎で、よくこんな所に約200年も前に大学を作ったものだと感心しました)所謂大学のランキングでは、全米40位近辺で工科大学ではMITやカルテックに次ぐぐらいの優秀な学校です。

過去の卒業生の中には、NYで一番古く有名なブルックリン橋を設計した方、大観覧車を設計した方、電子メールを考案し「@」を作った方、CRT(ブラウン管)の発明者、ベーキング粉の発明者、NASAアポロ月面着陸プロジェクト責任者、アポロ13号の船員、IBM人工知能のワトソンプロジェクト責任者等多彩です。

今回の第208回卒業生(設立年数と合いませんが、昔は年に2回ぐらい卒業式をしたと言う話を聞きました)の総数は約1600名。 その内、私が注目したのは博士課程を修了された方々で、驚きなのは中国人の博士課程修得者数の多さです。博士課程修得者数は学部別では建築5人、航空エンジニアリング6人、生物エンジニアリング6人、化学エンジニアリング20人、土木エンジニアリング4人、コンピューター・システムエンジニアリング1人、決定科学?エンジニアリング2人、電気エンジニアリング16人、物質エンジニアリング11人、メカニカルエンジニアリング20人、原子科学エンジニアリング7人、運輸エンジニアリング3人、認知科学エンジニアリング5人、コミュニケーション・エンジニアリング2人、電子アート2人、マネジメント6人、生化学・生物理3人、生物4人、化学8人、コンピューターサイエンス10人、地質1人、数学8人、物理14人、その他2人 合計165人でした。中国人学生数は、名簿を見る限りでは、何と約30%を占めておりました。因みに韓国名の方は2名、日本人名はゼロでした。中国人の博士課程が多い学部は電気科学、物質エンジニアリング、メカニカルエンジニアリング、原子科学エンジニアリング、物理等で約50%と非常に高い比率でした。これらの中国人の多くは中国本土から留学されている方々の様に推察され、かつての日本の様に企業からの派遣と言うケースは殆ど無い様で個人での留学の様です。

卒業式には主賓が祝辞を述べますが、今年はIBMの初の女性CEOが招かれました。同時に名誉博士号が授与されました。同じく、名誉博士号を贈られたのはインターネットの生みの親とも言える「WWW」を開発した方、ゲノム解析から乳がん等の遺伝的原因を追究し、決定因子を発見した博士も招かれました。この様な際だった方々が折角来てくれる訳で、卒業式で型通りの祝辞だけではあまりに勿体無いとの事から、前日に上記3人と同大学の学長(初の黒人女性学長)を交えて2時間にも及ぶディスカッションをしそれを同校のウェブサイトに早速アップしていましたので下に添付しました。因みに、当IBMのCEOとWWWの開発者のご両人の学歴は学士だけの様で意外でした。

http://www.rpi.edu/colloquy/

本番の卒業式では、主賓のIBM CEO Mrs.Virginia Romettyが約15分のスピーチをジョークを巧みに組み込みながら印象深い内容のメッセージを伝えていました。先ずは身の上話から始まり人心を一瞬にして掴みました。同氏は、シカゴ郊外の中産階級の出身者でしたが、自分が未だ幼い頃に父が家を出て行ってしまい残された母と兄弟姉妹4人で必死に生きた事を述べ、誰も母の事を可愛そうであるとか、我々家族が負け組みだとか言われる事無く、どんなに貧しくても誇り高く生きて来た事を話しました。子供達が大きくなると母親は大学に通い始め修士を取得し、自分より高学歴になってしまったと言って笑いを取っていました。ここから彼女の卒業生に発するメッセージの一つは、自分の価値は自分で決める事で他人が決める事では無い事。要するに他人の言う事にいちいち影響されたり流されるなと言う事。 二つ目は、リスクが高い場面や困難な時に遭遇した時は幸運に巡り会ったと思う事。何故なら、リスクが高く困難に遭遇すると悩み、通常とは違い数段頭を使うのでその間は必ずと言って良いほど成長するし、リスクを取った事で自分のパラダイムがシフトする。三つ目は、今が最高の機会の時だと思う事。 実際にIBMは現在推し進めている人工知能の「ワトソンプロジェクト」に並々ならぬ投資と開発を行っているが、このワトソンは今まであった技術等を根底から覆す程のインパクトがあるもので、皆さんはこの偉大なる技術革新の大きなうねりの真っ只中でレンセラー大学を卒業する事は幸運以外の何物でも無い。 因みに、当ワトソンプロジェクトの責任者は同校卒業生ですと言って締めていました。

以上の様な卒業式の内容で、友人のご子息の卒業と言う事で、お客さん気分で伺いましたが予想以上に内容が濃く、非常に多くの事を学び、楽しく有意義な時間を過ごす事が出来ました。

 

 

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