Sonar Members Club No.26

月別: 2013年5月

東さんの「僕の好きなウィーンフィルCD(番外編)」へのコメントです。

2013 MAY 19 6:06:02 am by

東さんのご投稿に長文のコメントをさせていただきましたところ、「キャプチャ コード ファイル を読み取れません」という意味の英文が出て来て、結局投稿出来ませんでした。(またしても、当方パソコン、マックとの相性の悪さが原因か?) そこで、こちら投稿欄から改めて、そのコメントの掲載を試みてみます。

 

東さん、お待ちしておりました。まことに奥深いセレクションと、感銘を受けました。私は全て未聴でしたので、まさに図々しい限りなのですが、コメントさせていただきます。

クナの「ばらの騎士」、56回も同曲を指揮して、曲の隅々まで知り尽くしたクナと、老練なウィーンフィルのコンビでしたら、練習などしない方が断然良いですね。ウィーンフィルの能力が最大限引き出されるように、本番では、ゲネプロの時とは異なる振り方をしている箇所も多々あり、それがネコ型ウィーンフィルには、適度な緊張感や刺激を与える結果となったと想像しております。

若きマゼールのシベリウス、正に一期一会的な奇跡のような演奏なのでしょう。フリッチャイの運命交響曲は高校生の頃、聴いたことがあり、芸風は覚えておりますので、その凄さは何となくですが想像出来ます。

ウエルディケという指揮者、恥ずかしいのですが、今回初めて知りました。ハイドンの大家なのですね。心に留めておきます。

晩年のベームと正妻ウィーンフィルによる「エロイカ」、ゆったりしたテンポや伸びやかな音の響きなどが、容易に心に浮かんで来ます。

おっしゃるように、同じ録音ソースでも盤によって違いがありますね。私が昔、熱中しましたフルトヴェングラーとウィーンフィルによるベートーヴェン交響曲集も、昭和50年頃に入手可能だった「ブライトクランク(人工ステレオ)の西独LP盤」がベストで、日本の東芝EMI盤は、「出枯らしの紅茶」のように感じておりました。

伝統のオケ、ウィーンフィルと老獪な指揮者クナによる「高度な遊びの世界」、そして憧れのウィーンフィルを振るチャンスに遂に巡り会って「正に奮い立った」マゼールとフリッチャイ、そして長年寄り添い合い、気心知れた夫婦同士が奏でる安心感に満ちた幸せな音楽空間に浸るベーム、といったところでしょうか?

やはり、ウィーンフィルは凄い、他のオケが絶対に真似の出来ない面があまりにも有り過ぎる集団、と改めて感じます。

未聴にも拘らず、コメントさせていただき、大変失礼いたしました。

花崎洋

私が選ぶ「ウィーンフィルの名盤」あれこれ

2013 MAY 12 6:06:01 am by

前回投稿させていただきました「ベスト3」の続編です。

私なりの4分類にて挙げさせていただきます。

 

1:指揮者と楽曲が相性抜群の演奏

ワインガルトナー指揮 ベートーヴェン交響曲第8番

「典雅で小粋」な演奏で、この曲が元来持つ特性が物の見事に表現されていると思います。

シューリヒト指揮 ブルックナー交響曲第9番、第8番

テンポの設定等、指揮者の私意はかなり入っていますが、流れが自然で安心して聴けるのに、大変深みのある定番的な名演です。

クナッパーツブッシュ指揮 ワーグナー楽劇ワレキューレ第1幕

上記の曲に限らず、「ジークフリートのラインへの旅」など、正にクナッパーツブッシュとウィーンフィルのコンビによる「十八番」。

フルトヴェングラー指揮 ベートーヴェン交響曲第7番

私見ですが、フルトヴェングラーとウィーンフィルのコンビによるベートーヴェン、他には有名な「ウラニアのエロイカ」が思い浮かぶくらいで、相性抜群に分類される名盤は意外に少ないようです。

ボスコフスキー指揮のウィンナワルツ

長年ウィーンフィルのコンサートマスターを務めたボスコフスキーによる自然体なのに、やはり本家本元という表現がピッタリの演奏。

 

2:楽曲との相性は悪いのに、何故か感動してしまう演奏

フルトヴェングラー指揮 ベートーヴェン交響曲第6番「田園」(1952年録音)

以前も挙げさせていただきました、これほど「田園らしからぬ」極めて異様な演奏ですが、感動の度合いは深いものがあります。

クナッパーツブッシュ指揮の「小品集」(チャイコフスキー組曲「くるみわり人形」、シューベルト「軍隊行進曲」、ウェーバー「舞踏への勧誘」)

録音プロデューサーによると、正真正銘の「ぶっつけ本番の演奏」。なのに完成度が高く、何回聴いても飽きが来ないのは驚異的です。ワーグナーやブルックナーを「十八番」とした怪物クナパーツブッシュの芸風からは想像もつかないような選曲ですので、分類2に入れてみました。

 

3:相性云々を超えて「徹底的に突き抜けた」名演奏(楽曲との相性等 お構いなしに正面突破を強行し成し遂げた名演奏)

カルロス・クライバー指揮 ベートーヴェン交響曲第7番

若武者クライバーの熱意にウィーンフィルも本気で応え、両者の間に火花が散るような演奏。第5番「運命」は未聴ですが、恐らく同様の名演であろうと想像します。

シルヴェストリ指揮 ショスタコーヴィチ交響曲第5番

バーンスタインに代表されるドラマティックな名演奏の対極を行く「抑制的禁欲的」な演奏なのに、感動の度合いも深いものがある不思議な演奏です。伸び伸びとした演奏が多いウィーンフィルが、指揮者シルヴェストリの指示に従い、これほどピリピリした緊張感に満ちた演奏をするのは(ネコ型ウィーンフィルらしからぬ演奏は)、とても珍しいと思います。

 

4:敢えて指揮者が強烈に自己主張せずとも、曲自体に大いに語らせる 「自然な流れの名演奏」

カール・ベーム指揮 ブルックナー交響曲第4番、7番、8番

ウィーンフィルの楽員の自発性を最大限尊重し、楽員もそれに応え、伸びやかで、それでいて深みのある演奏です。安心して曲本来の魅力を味わうことが出来ます。

ルドルフ・ケンペ指揮 小品集(ウィンナワルツ、シューベルト「ロザムンデ序曲」、メンデルスゾーン「序曲フィンガルの洞窟」など)

指揮者ケンペは正に黒子に徹し、ウィーンフィルに最大限、歌わせ、語らせ、流麗にして典雅、音色も明るく美しく、聴く者に幸福感を与える佳演の数々と思います。

花崎 洋

 

 

本日、5月10日より旧暦の「夏」が始まります。

2013 MAY 10 5:05:24 am by

先日、5月5日は「立夏」でした。中国由来、陰陽5行説に基づく太陽歴の上では、既に夏は到来しておりますが、月の運行(太陰暦)をも併用する旧暦では、月齢ゼロ(月が真っ暗な状態)となる本日から、夏が始まります。今年の旧暦の夏は、次の3ヶ月間です。

旧暦4月:西洋暦の5月10日から6月8日まで

旧暦5月:西洋暦の6月9日から7月7日まで

旧暦6月:西洋暦の7月8日から8月6日まで

さて、この旧暦の夏ですが、西洋暦にすっかり慣らされてしまっている現代の日本人が抱く「夏のイメージ」とは、かなり異なります。

 

旧暦4月(卯月、うづき)

梅雨期に入るまでの、新緑鮮やかな、もっとも過ごしやすい時期です。日光が鋭くなり(紫外線の分量は西洋歴8月に匹敵する)、日の出の時刻もグングンと早くなり、昼の時間が長くなっていきます。朝晩の若干の涼しさは未だ残りますが、陰陽の「陽」の側面がたいへん強くなって来るという意味で、夏の最初の月というわけです。

旧暦5月(皐月、さつき)

この皐月は、梅雨の時期とほぼ重なります。「五月晴れ(さつきばれ)とは、辞書を引きますと、「元来は梅雨の合間の晴れの日」という意味と出ています。また男児のお祭りであります旧暦5月5日の「端午の節句」の代名詞でもあります「こいのぼり」は、元々は梅雨期で水かさが増えて流れが速くなった川を勇敢に登っていく鯉のように、男児が元気に育ちますようにとの願いの象徴だそうです。この「端午の節句」が梅雨期のお祭りであると初めて知った時には、私も大いに驚きました。

旧暦6月(水無月、みなづき)

この月に入りますと、梅雨が明けて、雨の無い時期(水無月)に入ります。そして、気温が最も高い盛夏(太陽歴の上では「大暑」)を迎えたところで、旧暦の夏が終わります。その後の秋のお彼岸頃までの暑さは「残暑」と呼ばれる旧暦上の秋となります。

花崎 洋

 

 

賛否両論 その4:私が選ぶウィーンフィル名盤ベスト3

2013 MAY 5 11:11:41 am by

 

私がクラシック音楽を聴き込んで来た経験の幅や深さは、東さんを「堂々と土俵入りする横綱」に例えますと、私は「露払い」にも「太刀持ち」にも匹敵しないことを、充分に自覚してはおりますが、厚かましくも文字通りに独断と偏見にて投稿させていただきます。

 

1位:ブルーノ・ワルター指揮 マーラー第9交響曲(1938年録音)

この演奏はユダヤ人であったワルターがナチスにより全財産を没収され、アメリカに亡命する直前の、まさに切迫した緊迫感に満ちた歴史的な演奏。ワルター自身の回想によれば、「恐らくはナチスが送り込んだと思われる人たちによる、妨害のための咳払いや足音と共に開始された」とのことですが、録音を聴く限りは、意外に静かです。演奏自体は長年コンビを組んで来た両者が、もしかして2度と共演は無いかもしれないとの予感も秘め、これほどにウィーンフィルが熱い演奏を行なった例を探すのが難しいくらいに空前絶後のものです。私の試論であります指揮者と楽曲との相性分類ですと、典型的な1番(相性抜群)ですが、それに、上記の特殊性が加わり、感動の度合いも何倍にもなったと思われます。

 

2位:ハンス・クナッパーツブッシュ指揮 モーツアルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」(1940年録音)

あの伝説の怪物による正に化け物のような名盤(というより珍盤?)です。第2楽章は、珍しくも表情豊かで、テンポの揺らぎも大変多く、事前の練習が充分に行き届いている様子の緻密な演奏ですし、第4楽章は、誰がこんなに遅いテンポで演奏しようなどと、思いつくでしょうか? しかも、モーツアルトの書いた楽譜を大胆に書き換えた箇所すらあります。ここまで、あの「うるさいネコ型ウィーンフィル」が指揮者に従っている様子は、正に指揮者との信頼関係の深さに他ならないでしょう。指揮者と楽曲との相性は悪いのに、とても感動してしまう分類2の名盤です。

 

3位:ジャン・マルティノン指揮 チャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」

この盤をベスト3に挙げることには異論が強く出そうです。が、米国の聴衆には恐らく受けないであろう、微妙な陰影のある演奏が持ち味の指揮者マルティノンの意図を、ここまで、鮮明に洒落た感性で体現出来るのはウィーン・フィルをおいて他にないであろう、という意味で個人的には感心しきりであります。どういう訳か、あまり「悲愴」を演奏したがらないと言われる(従って録音も少ない)ウィーンフィルの「悲愴」という意味でも稀少価値ありです。この盤も相性分類の2であると思います。

 

他には、カルロス・クライバー指揮のベートーヴェン交響曲7番も指揮者と楽団との間で火花が散るような閃きに満ちた熱い演奏で好きなものです。

花崎洋

ウィーン・フィルについて考える

2013 MAY 2 9:09:52 am by

「ウィーンフィルはネコ型オーケストラ」という、たいへん鋭い切り口で、東さんが投稿されました。

大変大きな刺激を受けましたので、急遽、投稿させていただくことにしました。

確かに、他のオーケストラと比較しますと、ウィーン・フィルは、たいへん「ユニーク」な面を多々持ち合わせています。

1:ごく僅かな例外を除き、団員達が全て、生粋のウィーン人であること

世界中の腕利き達をスカウトしているアメリカのオーケストラの例を持ち出すまでもなく、今のご時世においては、極めて稀少な話です。(私が以前群馬県に住んでいた頃、地元の群馬交響楽団の定期演奏会員になっていましたが、当時(約20年前)、地元群馬県出身の楽団員は、コンサートマスターの他、ごく少数だと聞いておりました)またオーケストラに限らず、日本の高校野球のケースでも、甲子園の常連校は、全国から優秀な生徒をスカウトしているようです。

さて、メンバーの殆どが生粋のウィーン人であることにより、ウィーンの伝統的な奏法を、恐らくは共通の師匠から学び、ウィーンという街の文化や風土に触れて育ったメンバーが奏でるハーモニーに独特の個性が出ない筈はありません。

ウィンナワルツに象徴される独特の3拍子にリズム(2拍目が微妙に長く、強く聴こえる)も、他のオケがけっして体現し得ない、地に足の付いたウィーンの体質そのものと思えます。

 

2:私有楽器の使用を認めず、楽団所有の楽器での演奏を義務づけている

昔からの古い楽器を裏方の人たちが丁寧に手入れをして、使いこなしているそうです。ウィンナホルンなど機構的な古さから、近代の複雑な曲を演奏するには極めて不利だそうですが、伝統重視の姿勢は、ここでも貫かれています。

ウィーンフィル独特の響き、特に弦楽器奏者が奏でる、艶やかな光沢を持つ流麗な響きは、この楽団所有の楽器に起因するものと、以前私は思っておりましたが、どうやら、そんな単純な話ではないようです。

あの伝説の指揮者、フルトヴェングラーが、若い頃、ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団の指揮者だった時、ウィーンフィル独特の弦の響きを手に入れようとして、関係者に掛け合い、ついに、ウィーンフィルと全く同じ弦楽器(ヴァイオリンからコントラバスまでの5部編成)を手に入れて彼の楽団に演奏させたそうです。

結果は悲惨なものだったそうです。極めて地味で、それどころか、くすんだ冴えない響きになったそうです。

ウィーンフィルの独特の響きは、古くからの伝統の楽器の良さを活かし切る、伝統の奏法、つまり楽員一人一人がDNAとして持っている「独特の技法(アート)」から生み出されるものと思われます。

 

3:ピッチ(基本音程)が、他のオケよりやや高い

演奏会が始まる前に最も音程が狂いにくいオーボエの「A」の音の先導で調律が行われます。その「A」音、他のオケでは、440ヘルツですが、ウィーンフィルは、445ヘルツと複数の楽員が証言しているそうです。

私個人の意見ですが、ピッチが高いと、やや派手に華やかに聴こえるようになり、ウィーンフィル独特の響きの一因になっていると考えます。

この高めのピッチが生理的に大変気になり、カラヤンやマゼールが少しずつ下げようとして、失敗に終わった話(最後は喧嘩別れ)を聞きましたが、どんな世界的な権威者に言われようとも、頑固に伝統を守る姿勢、もしくは、自分たちの信念に忠実で、有力者に対しての素直さなど一切無い「ネコ的な姿勢」は、まさにウィーンフィルの風土です。

 

4:つい最近まで「女人禁制」で男性のみの楽団だった

人権団体等からの批判を受けて、最近では女性団員の姿も見えますが、かつては伝統だからという理由で男性のみでした。

 

5:プライドが異様に高く、指揮者によっては極めて難しい団員達である

客演に来た指揮者が不勉強だと観ると、指揮者の言う事を殆ど聞かない。

あるいは、練習好きな指揮者が大嫌いで、あの巨匠トスカニーニを「トスカノーノー」と言って嫌がり、謹厳実直で真面目な指揮者サヴァリッシュとの練習中にパンを食べていた楽員がいたとの噂を聞いたこともあります。

また、岩城宏之氏の体験談ですが、ハイドンの交響曲を演奏する時には、「昨日は若者が多かったので、あのテンポで丁度良かったが、今日の聴衆は年寄りが多い上に、ジトジトと雨が降っているので、第1楽章と第4楽章のテンポを思い切って落としてごらん!」などと、演奏前の指揮者の楽屋に、主席奏者が指示を出しに来ることもあるそうです。

しかし自分たちが心から尊敬する指揮者との演奏会では、「ネコ型気質」の良い面が出て、丁々発止のスリル満点、閃きに満ちた素晴らしい演奏を成し遂げる。

他の楽団では、到底考えられない話です。

花崎洋

 

 

 

 

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