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賛否両論 その4:私が選ぶウィーンフィル名盤ベスト3

 

私がクラシック音楽を聴き込んで来た経験の幅や深さは、東さんを「堂々と土俵入りする横綱」に例えますと、私は「露払い」にも「太刀持ち」にも匹敵しないことを、充分に自覚してはおりますが、厚かましくも文字通りに独断と偏見にて投稿させていただきます。

 

1位:ブルーノ・ワルター指揮 マーラー第9交響曲(1938年録音)

この演奏はユダヤ人であったワルターがナチスにより全財産を没収され、アメリカに亡命する直前の、まさに切迫した緊迫感に満ちた歴史的な演奏。ワルター自身の回想によれば、「恐らくはナチスが送り込んだと思われる人たちによる、妨害のための咳払いや足音と共に開始された」とのことですが、録音を聴く限りは、意外に静かです。演奏自体は長年コンビを組んで来た両者が、もしかして2度と共演は無いかもしれないとの予感も秘め、これほどにウィーンフィルが熱い演奏を行なった例を探すのが難しいくらいに空前絶後のものです。私の試論であります指揮者と楽曲との相性分類ですと、典型的な1番(相性抜群)ですが、それに、上記の特殊性が加わり、感動の度合いも何倍にもなったと思われます。

 

2位:ハンス・クナッパーツブッシュ指揮 モーツアルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」(1940年録音)

あの伝説の怪物による正に化け物のような名盤(というより珍盤?)です。第2楽章は、珍しくも表情豊かで、テンポの揺らぎも大変多く、事前の練習が充分に行き届いている様子の緻密な演奏ですし、第4楽章は、誰がこんなに遅いテンポで演奏しようなどと、思いつくでしょうか? しかも、モーツアルトの書いた楽譜を大胆に書き換えた箇所すらあります。ここまで、あの「うるさいネコ型ウィーンフィル」が指揮者に従っている様子は、正に指揮者との信頼関係の深さに他ならないでしょう。指揮者と楽曲との相性は悪いのに、とても感動してしまう分類2の名盤です。

 

3位:ジャン・マルティノン指揮 チャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」

この盤をベスト3に挙げることには異論が強く出そうです。が、米国の聴衆には恐らく受けないであろう、微妙な陰影のある演奏が持ち味の指揮者マルティノンの意図を、ここまで、鮮明に洒落た感性で体現出来るのはウィーン・フィルをおいて他にないであろう、という意味で個人的には感心しきりであります。どういう訳か、あまり「悲愴」を演奏したがらないと言われる(従って録音も少ない)ウィーンフィルの「悲愴」という意味でも稀少価値ありです。この盤も相性分類の2であると思います。

 

他には、カルロス・クライバー指揮のベートーヴェン交響曲7番も指揮者と楽団との間で火花が散るような閃きに満ちた熱い演奏で好きなものです。

花崎洋

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  1. 東 賢太郎

    5/5/2013 | 8:23 PM Permalink

    実は僕も1.を挙げようと考えていたのですが花﨑さんに先を越されてしまいましたね。これは「花崎分類1」(指揮者と曲が相性抜群)を代表する、世界遺産級の名演奏ではないでしょうか。2.が「分類2」ですがこういう演奏を楽しんでおられるなどクラシック愛好家界の通人、粋人でなくして何でしょう。3.が入選というところに花崎さんの洗練されたご趣味がうかがわれます。マルティノンのロシア物は僕も好きでプロコフィエフ、ショスタコーヴィチ、ボロディンは愛聴盤です。この悲愴も明晰で気品がありますが充分悲しいですね。ウィーン・フィルがつき合っただけの説得力ある名解釈だと思います。

  2. 第1位が東さんと一致して、たいへんうれしく思います。まさに世界遺産そのものですね。ワルター自身は「辛い思い出が付き纏うので、この盤だけは破棄したい」と何回か希望したそうですが、結局残してくれて、世界中のクラシックファンへの凄い恩恵となりました。
    2位は、最もクナッパーツブッシュらしい演奏でもありますね。
    3位の悲愴、おっしゃる通りです。明晰で気品がありますが、悲しみも充分に伝わって来ます。
    早速に、うれしいコメント、有り難うございます。
    花崎洋

  3. 東 賢太郎

    5/6/2013 | 2:52 PM Permalink

    ベルリン生まれのワルターをいわば異国の地ウィーンに引っぱって行ったのは指揮の師であり友でもあったマーラーです。そのマーラーの臨終の言葉は「モーツァルト…!」でした(アルマ・マーラー)。指揮者マーラーを一度でも聴きたかったと思います。ワルターのモーツァルトにはその面影があるのではと信じています。たまに聴くマーラーはワルターが残した1、2、4、9、大地ぐらいですが4と大地は彼のモーツァルトがダブルフォーカスになり大好きです。モーツァルトを振れない指揮者のマーラーというのはだいたい僕のついていけない要素に焦点が当たっていることが多く苦手です。現代はそれが9割以上になってしまいました。

  4. 「モーツアルトを振れない指揮者のマーラー」という切り口、私に取っては、たいへん斬新に感じます。指揮者でもピアニストでも、本当にモーツアルトを表現出来る人は、大変少ないと感じています。指揮者マーラーによるモーツアルト、想像するだけでも興味深々です。

  5. 東 賢太郎

    5/7/2013 | 12:21 PM Permalink

    調べてみるとニューヨークでマーラーは「悲愴」を何回か振ってますね。好きだったんでしょう。9番の最後の部分に影響があったのではないでしょうか。彼もアメリカへわたって人気指揮者だったわけで、ワルターやトスカニーニがあれだけの交響曲を残したとしたら大変なことです。すごい才能の人だったと思います。

  6. そうですね。9番の4楽章に「悲愴」の影響を感じます。ウィーンで、国立歌劇場の発展のために尽力したのに、歌劇場で一番の嫌われ者になってしまったというウィーンへの恨みを、NYで晴らそうとしたのでしょうか? NYフィルの演奏会では、サービス精神を発揮し、人気者だったようですね。