Sonar Members Club No.26

月別: 2013年8月

私が選ぶ「9人の指揮者によるベートーヴェン交響曲全集」第7番イ長調作品92

2013 AUG 18 5:05:56 am by

◎曲目に対する若干のコメントとして

この第7交響曲は、作品93の第8交響曲と共に1814年に初演されています。そして7番は聴衆には大受けでしたが、8番には冷たい反応しかなく、それに対して、ベートーヴェン自身は「この第8番は優れ過ぎているため、聴衆には理解出来なかったのだろう」と語ったと言われています。この両曲に対する聴衆の反応は、ベートーヴェンにとっては、「想定の範囲内」であったのだろうと、私個人は考えます。

大胆な個人的な仮説ではありますが、「7番は聴衆から喝采を受けることを、かなり意識して創作した」(勿論、聴衆受けを第一の目的にはしていない)が、それに対して「8番は、自分自身の成長の足跡をきちんと記録するために創作した」と、考えております。音楽の濃さ(凝縮度)で言うと、8番は7番の10倍以上はあると感じております。

それでは、7番は分かりやすく親しみやすいので、入門者向けの音楽かといえば、そうでもなく、ある日本人作曲家とお話しをする機会があり、その方が「ベートーヴェンの交響曲の中では、7番が最も好きだ」と強く断言されていましたので、私のような単に感覚のみで音楽を楽しむ素人に受けるだけでなく、音楽理論をきちんと学び、音楽を生業としているプロの人の琴線に触れる魅力も兼ね備えているのだろうと思います。

 

◎私が選ぶ第7交響曲のベスト1

カルロス・クライバー指揮 ウィーンフィルハーモニー演奏

以前、「ウィーンフィルの名盤」という投稿の中でも挙げさせていただきましたが、やはり、ここでもダントツ、ナンバーワンとして推薦いたします。

熱気、自由奔放さ、その自由奔放さ故に時には品の無さにも直結する危ない音楽性、などなど、7番らしさが存分に出ている演奏で、ウィーンフィルが、これだけ熱い演奏を奏でていることにも驚くほどであります。

 

◎次点の名盤として

フルトヴェングラー指揮 ベルリンフィル演奏(1943年ライブ録音)

私個人の見解ですが、フルトヴェングラーの音楽性に最も合っているのが、この第7交響曲と思います。特にこの演奏は、第2次大戦中の演奏という特殊事情も重なり、異常な熱気に包まれた「怪演奏」と言っても過言でないほどです。第2楽章冒頭の「慟哭」とでも言うべき情緒、第3楽章のトリオの品の無いほどの揺らぎなど、このような演奏は滅多に聴けるものではありません。

 

フルトヴェングラー指揮 ウィーンフィル演奏(1950年スタジオ録音)

晩年の円熟期にさしかかった頃のフルトヴェングラーの指揮ですので、またライブ演奏ではなくスタジオ録音ですので、細部にまで神経の通った美しい演奏です。それでいて、7番らしい自由奔放さも良く出ている点が、この演奏の魅力とも言えます。

 

これは、恐らくCD化されていない演奏と思いますが、私が学生時代にサバリッシュがNHK交響楽団を指揮したライブ演奏をテレビで鑑賞した経験が未だに忘れられません。当時は録画機器も所有しておらず、録画出来なかったことを悔やんだことも良く覚えています。

サバリッシュらしい、几帳面な丁寧な演奏で、それでいて、熱気や、この曲の持つ底知れぬパワーの大きさも良く体現されていて、誠に凄い演奏でした。

そう言えば、指揮者など音楽のプロが、サバリッシュを絶賛するのを何回か聞いたことがあります。

ベートーヴェンが聴衆受けを狙ったことは、あくまで副次的な目的で、主目的は別の所にあった筈と私個人は考えます。そのベートーヴェンが最も意図したことを(言葉で上手く表現出来ずに残念ですが)、サバリッシュは、しっかりと掴んでいたように感じております。

花崎 洋

 

 

 

 

私が選ぶ「9人の指揮者によるベートーヴェン交響曲全集」第6番ヘ長調作品68「田園」

2013 AUG 11 7:07:23 am by

今回、このシリーズの投稿をさせていただくに際し、改めて9つの交響曲を聴き直してみました。

その結果、それぞれの交響曲に対して以前に抱いていた印象と比較し、良い意味で最も異なる感銘を受けたのが、この田園交響曲でした。

私個人は、高校生の頃から、第4交響曲と並んで、この第6番を最も気に入っておりましたが、今回改めて聴き直し、「こんなにも凄い曲だったのか!」という驚きにも似た感情に何回も包まれた次第であります。

特に若い頃、最も苦手で退屈に思えてならなかった第5楽章の認識が、今回の聴き直しにより、大きく変わりました。第2交響曲の投稿の際に書かせていただきました、ピアノソナタ11番から18番の聴き込みの効果もあったのかもしれません。

 

◎私が推薦する交響曲第6番「田園」のベスト1

フルトヴェングラー指揮ウィーンフィル演奏(1952年スタジオ録音盤)

勿論、私の個人的な感じ方に過ぎませんが、ベートーヴェンが第6交響曲で意図したであろう、自然への崇拝、感謝、祈り、帰依願望などが最も深く反映された演奏であろうという点で、ベスト1に挙げさせていただきました。

第1楽章は、恐らくは全ての演奏の中で最も遅いテンポで重々しく進行していきますが、聴けば聴くほどに、「ああ、このテンポが最も適切だ」と思えて来る(この珍現象は、私だけかもしれませんが)から不思議です。フルトヴェングラーのこの曲に対する深い愛情が感じられ、ウィーンフィルの楽員達も、フルトヴェングラーの解釈に心から共鳴していることが感じられます。

第2楽章もウィーンフィルの音色をフルに活かした、実に味のある演奏です。テンポの微妙な変化も実に計算され尽くしています。

第3楽章も第4楽章も、けっして力まず、それが却ってスケールの大きさや深い呼吸につながっています。

そして、私が最も気に入っているのは、第5楽章です。唯一の欠点は第2主題のテンポのあまりの急加速ですが、その他の点では正に非の打ち所はありません。特に中間部の「自然への感謝の念」、コーダの「祈りの厳粛さ」は最高であります。

なお、フルトヴェングラーには、手兵ベルリンフィルを振った「ライブ録音」も何点か残されていますが、総合的には今回推薦させていただきましたウィーンフィルとのスタジオ録音の完成度が最も高いと、私個人は考えております。

さて、今回の企画、一度ベスト1に選んだ指揮者は、以降の作品では選べないという制約があります。

あーあ、フルトヴェングラーのカードを、ここで切ってしまった。第9交響曲は、どうしよう?

 

◎第6交響曲「田園」の次点の名盤として

エーリッヒ・クライバー指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団演奏

東さんが「イチオシ」された演奏です。実は私も、この盤をベスト1に挙げようかと、随分と悩んだものです。たいへん中身の濃い、ズッシリとした感動の残る素晴らしい演奏で、大学生の頃、繰り返し愛聴した懐かしい記憶が蘇ります。

 

クレンペラー指揮 フィルハーモニア管弦楽団演奏

第3楽章のテンポが遅く、緊張感にやや欠けるのが難点ですが、それ以外ではクレンペラーの長所が十二分に発揮された名演奏と思います。

つまり、「新世界交響曲」や「幻想交響曲」と同じく、クレンペラーは曲を純音楽的に捉え、純音楽的に演奏して成功を納めているという点で、たいへん魅力的な演奏です。上記、新世界交響曲には「土臭さ」は一切無く、幻想交響曲には「おどろおどろしさや妖しさ」も一切ありません。それでいて、いえ、だからこそ音楽の魅力を充分に楽しめます。

この田園交響曲にも同じことが言えると思います。第1楽章と第5楽章が特に感動的で(やや枝葉的な観点ですが、第2ヴァイオリンに実力のある奏者を多数配していることも、この2つの楽章を魅力的にしている大きな要因であると感じます。)、第3楽章のテンポに問題が無ければ、ベスト1に推薦しても良いとすら、感じております。

 

ブルーノ・ワルター指揮 コロンビア交響楽団演奏

ワルターがこの曲をいかに愛していたか、如実に伝わって来る名演奏です。コロンビア交響楽団の実体は、最晩年のワルターのレコード録音用に編成された楽団で、奏者達の多くは、普段はハリウッドの映画音楽の演奏者であったとも聞いたことがあります。

その寄せ集めのメンバーで、ここまでの演奏を成し遂げてしまう、ワルターの指導力にも驚きます。

ただ、第1楽章の展開部の盛り上がりでの低弦(特のコントラバス)の無神経な音の刻み、また第5楽章のコーダの盛り上がりに象徴される音の厚みの無さ(奏者の数が通常のオーケストラ編成よりも、かなり少なかったとも聞いております)は、確かに気になります。

しかし、そのような欠点があるにもかかわらず、この田園交響曲の魅力を大いに伝えてくれる名演奏であると強く思います。

花崎 洋

 

 

 

明日、8月7日から旧暦の「秋」が始まります。

2013 AUG 6 7:07:43 am by

新暦にすっかり慣らされてしまった私たちの感覚ですと、まだまだ暑い夏が真っ盛りという風情ですが、今年の旧暦の上では、本日8月6日を以て、夏が終わり、明日8月7日から「秋」となります。

今年の旧暦の秋は次の3ヶ月となります。

旧暦7月(文月) 西洋暦8月7日から9月4日まで

旧暦8月(葉月) 西洋暦9月5日から10月4日まで

旧暦9月(長月) 西洋暦10月5日から11月2日まで

各月の名称の由来を調べてみますと、例えば9月、「夜が長い月」なので、長月となった説など、諸説入り乱れており、確固たる定説が無さそうですので、ここでは触れないでおきます。

 

旧暦7月について(今年は西洋暦8月7日から9月4日まで)

この月のメインイベントは何と入っても「七夕」です。新暦である西洋暦の7月7日は、例年、梅雨の真っ最中で(今年の関東以西では例外的に梅雨が明けてしまいましたが)、乙姫様と彦星様の年に一度の逢瀬も不可能です。

旧暦で見ますと今年の7月7日は、西洋暦の8月13日がその日に当たり、普通でしたら、梅雨はとっくに明けていて、雨が降ることはまずありません。

また、最近こそ温暖化の影響で、この時期になっても夜の暑苦しさが残ってはいますが、ひと昔前でしたら、旧暦7月になれば、夜間は過ごしやすい気温となり、夜空の星を眺めるのにも適していたように思います。

 

旧暦8月について(今年は西洋暦9月5日から10月4日まで)

「暑さ、寒さも彼岸まで」と良く言われるように、秋分の日が必ず旧暦では、この8月に入ります。(秋を2つに分ける日とは、良いネーミングです。秋分の日までは残暑で暑く、秋分の日を過ぎると徐々に涼しく、そして寒くなっていく。)

この旧暦8月のメインイベントは「中秋の名月(十五夜お月様)」でしょう。秋の真ん中の十五夜(満月)を愛でる日で、別名「芋名月」とも言われています。

 

旧暦9月について(今年は西洋暦10月5日から11月2日まで)

最近では、あまり注目されていませんが、この月のメインイベントは9月9日の「重陽(ちょうよう)の節句」です。つまり陽数(奇数のこと)の中で最も大きな数である「9」(陽が極まった数で、陰陽の世界では最もお目出度いとされる)が二つ重なるたいへん良い日です。(モンゴルでは今でも、この9を好む人が大変多いそうで、オリンピックで金メダルを取ると、ご褒美に9999と9が重なる電話番号がプレゼントされるとも聞いております。)

旧暦を使用していた頃の日本では、この「重陽の節句」の日には、酒に菊花を浮かべて粟飯を食し、不老長寿を盛大に祝ったそうです。

また、この旧暦9月13日(月齢13で満月の少し手前のお月様)は、「十三夜(栗名月)」と呼ばれ、旧暦8月の芋名月「十五夜(中秋の名月)」と共に、以前は、お祝いしていたそうです。

そして「霜降」という、そろそろ霜が降りる頃ですので、特に農家の皆様は注意しましょう、という日(西洋暦の10月23日頃)が、必ず、この旧暦9月に入ります。

残暑に始まり(旧暦7月)、涼しくなってすがすがしい日を堪能し(旧暦8月)、そして秋の夜長が続く内に徐々に冬の気配が感じられるようになって(旧暦9月)、旧暦の秋が終わる、という訳です。

花崎 洋

 

 

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