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私が選ぶ「9人の指揮者によるベートーヴェン交響曲全集」第8番ヘ長調作品93

2013 SEP 5 5:05:41 am by

◎曲目に関する若干のコメント

以前、記述させていただきましたが、ベートーヴェンは、まずピアノソナタの領域で様々な実験を行い、自らの音楽性を発展させて来ました。

第1交響曲の前に書かれた、ピアノソナタ1番から10番(+19番、20番)

第2交響曲の前に書かれた、ピアノソナタ11番から18番

第3交響曲の前に書かれた、ピアノソナタ21番、22番

第5交響曲の前に書かれた、ピアノソナタ23番

上記のように正にピアノソナタで蓄積した様々な要素を、一般大衆へのアピールの場である交響曲の世界に十二分に盛り込んで来たことが、良く分かります。

 

ところが(あくまで個人的な乱暴な推測ですが)、第23番熱情ソナタを書き終えて、ピアノソナタの世界で「ほぼ極め尽くした」という気持ちになったのだと思います。同じことが交響曲の世界でも当てはまり、第5、第6の交響曲をセットで公表して、彼自身、達成感を充分に感じていたことでしょう。

つまり、第5交響曲に見られる強い「凝縮感」、第6交響曲に見られる「情感の昇華」から、全く別の方向に向かった先が、交響曲7番、8番であると個人的には思います。

 

さて、この7番、8番の交響曲をセットで公表する前に、ピアノソナタは4曲書かれています。

ピアノソナタ24番嬰ヘ長調作品78「テレーゼ」

第22番に引き続き2楽章形式の暖かでしっとりとした情感に包まれた愛すべき作品と思います。

ピアノソナタ25番ト長調作品79「かっこう」

ベートーヴェンが出版社に「ソナチネ」として出版して欲しいと依頼した3楽章形式の小品で、古典的な様式で書かれ、メロディーも親しみやすく聴きやすい作品です。

ピアノソナタ26番変ホ長調作品81a「告別」

この時代の4曲の中では最も有名な、そして中身も濃い作品です。ベートーヴェンが自信を持って世に作品を送り出す時の調性である、変ホ長調が使われ、長くなりますので詳述しませんが、作曲技法上も極めてチャレンジングな作品だと考えます。

ピアノソナタ27番ホ短調作品90

24番に引き続き2楽章形式で書かれ、第1楽章はシンプルな楽想ながら、晩年の5曲のピアノソナタを思わせる深みが感じられ、第2楽章は珍しくもメロディー主体の優しく心温まる作品と思います。

 

このように上記の4曲のピアノソナタには、「凝縮感」よりも「開放感」、「厳しく突き詰める音楽性」よりも「暖かく人間的な優しさ」が主に体現されているように思います。

もう一つ、底流となっているのが、「自由奔放さ」であると思います。それも若い頃のベートーヴェンの「力づくの奔放さ」とは異なり、既に作曲家としての名声を充分に勝ち得たことの余裕もあるのでしょうか、リラックスしながら伸び伸びと自らも楽しむような情緒さえ感じさせます。

交響曲7番と8番は、上記のような文脈の中で書かれた集大成であると思います。キーワードは「人間臭さ」と「自由奔放さ」といったところでしょうか。

よって、今回の8番、世間一般では、「可愛く小粋」に演奏するのが望ましいというような音楽評論家の意見も散見されますが、私個人は、その正反対の見解です。

つまり、7番以上に大きなスケールで堂々と、そして極めて重厚な演奏こそ、この第8交響曲の本質が良く現れると考えます。

 

◎私が選ぶ第8交響曲のベスト1

ハンス・クナッパーツブッシュ指揮 北ドイツ放送交響楽団演奏(1960年3月14日放送用録音盤)

ひと言で言えば、怪物クナによる極めて異様な怪演奏ですが、これほど第8交響曲の持つ潜在的な可能性を全面に引き出した演奏もなく、勿論、入門者向けの演奏ではありませんが、長年ベートーヴェンを聴き込んで来た人に、是非一度は聴いて欲しい演奏です。

第1楽章:例によって遅いテンポで、重厚に進行していきます。珍しくも呈示部は反復され、彼がこの第1楽章がお気に入りなのが良く伝わって来ます。展開部の金管楽器の咆哮など怒りの感情さえ感じさせ、大いに驚かされますが、第8交響曲の持つ「自由奔放さ」と「人間臭さ」という本質に非常にマッチした表現であると、私個人は大いに賛同します。

第2楽章:ベートーヴェンが意図した一つの側面である「スケールの大きなユーモア精神」がこれほど明確に体現された演奏も無いでしょう。正に人をおちょくったような、それでいて、真剣に遊んでいる晩年のクナの姿が目に浮かぶようです。

第3楽章:他の3つの楽章と比較して完成度は、やや落ちますが、トリオに入る前の大きな間(ま)や、トリオの独特のテンポ感は充分に味わい深いものです。

第4楽章:この異様な怪演奏の「真骨頂」こそ、この楽章にあります。特に第1主題がフォルティッシモで猛烈な遅いテンポでテヌートで歌われる部分(巨大な建物が崩壊したかの如き衝撃を感じる)、長い長いコーダの終結部分近くでのホルンと木管の掛け合いの箇所での遊び心たっぷりなリタルランドの部分が、大変に象徴的です。

このような異様で馬鹿でっかいスケールの演奏が、こんなにも楽しめる、その点こそが、第8交響曲の本質であり、その本質をものの見事に体現した演奏であると、ベスト1に推薦させていただきました所以であります。

 

◎第8交響曲の次点の名演奏として

フランツ・コンヴィッチュニー指揮 ライプツイッヒゲバントハウス管弦楽団演奏

東さんも番外編で挙げられた演奏です。実を言いますと、当初は、この演奏をベスト1で挙げようと考えていました。正々堂々と真正面から正攻法でアプローチし、極めてオーソドックスでありながら説得力にも富む名演奏です。勿論、コンヴィッチュイニーによるベートーヴェン交響曲全集の中でも最も優れた演奏と考えます。入門者の方々にも自信を持って推薦出来る上に、長年聴き込んで来た方々にとっても実に味わい深い演奏で、特に第1楽章と第4楽章は極めて中身の濃い演奏です。

 

ブルーノ・ワルター指揮 コロンビア交響楽団演奏

ひと言で言えば、ベスト1に挙げましたクナッパーツブッシュの演奏の「本質は、そのままにして、表現を上品にまとめたもの」となるでしょうか。つまり、表面的には端正で上品に聞こえながら、実は第8番の持つ人間臭さである「苦悩」、「怒り」、「戯れ」などの重要な本質が十二分に表現されている大変な名演奏であると思います。

 

今回の第8交響曲では、私の極めて個人的過ぎる見解ではありますが、世間一般で評価の高い「可愛く小粋な演奏」に敢えて背を向けて、記述させていただきました。   花崎 洋

 

 

 

 

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