Sonar Members Club No.28

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オニャンコポン

2021 MAR 5 1:01:50 am by 菊池 孝之助

去年からというものコロナ禍でもう散々なのだが、国内外にいる友人らとお互いの無事を確かめあうために頻繁に連絡を取るようになって、そのおかげで彼らとの絆が深まったというプラス面もあった。

昨日FaceTimeで連絡をくれたのは、私がアメリカ留学時代に同級だった、エイドリアンだ。彼女は学生時代、高校ではプロム・クイーンでしたと言っても誰もが納得するような、典型的なアメリカ美人だった。
一昨年30年ぶりの同窓会があって、そこで再会したときは、面影は学生のときのまま、ふっくらした立派なお母さんになっていて、旦那さんと二人の子供を連れてきていた。

その大学では、在学生の多くが、フラタニティとかソロリティという伝統的な社交クラブのどれかに属していた。社交クラブというのは、例えばデルタ・カッパ・イプシロンとかいうギリシャ文字の名前がついた、あれだ。

新入生が格式あるクラブに入るには、まず人種とか親の職業とかSATのスコアとかの要件をクリアする必要がある。そして上級生による面接という名の品定めを経て、入ったら必ず、イジメにも似た通過儀礼が待っている。また、この曜日にはメンバー全員がこの色の服を着ること、とか、メンバーしか知らない門外不出の隠語を使って会話すること、カフェテリアではここからここの範囲のテーブルだけ使うこと、などという変てこな独自ルールがあって、もとより上下関係がシビアだから、ルール違反をしたら、みんなの前での懲罰が待っていたりする。

親は自分が学生当時入っていたクラブに子供を入れたがる傾向にあるし、格式高いクラブならば全米の大学の同じギリシャ文字クラブとも強固なネットワークがあって、卒業生が多額な寄付をしてキャンパス内に建てたヨーロッパ様式の立派な建物がメンバー専用の学生寮になっていたりするから、入る事情があったり入る資格を持っている学生は、まあ当然のように入るのだ。

しかし、たとえ良家の出であっても、そういう社交クラブの面倒臭さやエリート臭ぷんぷんのイヤらしさを嫌悪して、私は絶対に入らない!というアメリカ人学生も、一定の割合でいた。
そういうリベラル気質な学生や、転入生や留学生なんかも大歓迎で受け入れてくれる,フラタニティとかとは別のソシアルクラブもいくつかあって、私はその一つに入っていた。エイドリアンと出会ったのもそこだ。

春休み、そのクラブのメンバー40人余りでクルマ十数台に分乗して、一週間の旅程でメキシコ旅行に行った。
楽しかった思い出を一杯に詰めて帰る途中、片側一車線の田舎道で、私が乗っていたのの二台前にあったクルマが、酒酔い運転でセンターラインをはみだして来たトラックと、正面衝突した。そのクルマにはエイドリアンが乗っていた。

まだ新しい三菱のギャランだったのだが、ボディはアルミホイルをクシャクシャにしたようになって、フロントは大破し煙をあげていて、窓ガラスは粉々だった。

みんなで駆け寄ってドアを開けようとしたが、開かない。運転席のショアラはまだ息はあったが、血だらけの彼女は目がうつろで、もう死にそうだった。助手席のエイドリアンは意識があって、鼻や腕から血を流していて、運転席のショアラを見て恐怖に混乱し、脚が痛いと泣き叫んだ。エイドリアンの膝は潰れたダッシュボードにはさまれていて、どうしても動かせない。
後部座席にいたマイクは意識がないだけかのように見えたが、クルマの窓から腕をつっこんで脈をみたところ、頭に衝撃をくらったのだろう、彼は眠ったような顔のまま死んでいた。

どっちの道に行っても戻っても、町があるのは何マイルも先だった。通りがかったクルマの運転手に、電話があるところまで急行して救急車とヘリを呼ぶように頼み、走ってもらった。携帯電話がなかった時代なのだ。

エイドリアンが意識を失わないように、みんなで声をかけて励まし続けた。事故から一時間も経ってようやく救急ヘリが来て、三人を乗せて町の病院に向かった。ショアラが病院で亡くなったと知らされたときは、みんなで抱き合いながら、あられもなく泣いた。

私たちは、葬式の車列がやるのと同じように、全車が昼間からライトを点けて連なり、ゆっくりのスピードで、6時間かけて大学のある町に戻った。車列に気づいたあらゆる対向車は減速して路肩に寄せ、弔意を示してくれた。

事故から1か月後、キャンパス内にある教会で追悼式があった。式が終わって中庭に出たら、そこに車椅子に乗ったエイドリアンがいた。やっと退院したのだ。
私に気づいた彼女のきれいな顔にキラキラした笑顔を見た。私はエイドリアンの手を取って嬉し泣きした。

そういうわけでエイドリアンと私は、悲しみを共に乗り越えた戦友のようなものなのだ。

エイドリアンは私とFaceTimeがつながると、元気? COVIDのワクチン注射は打った? 私は打ったわよ、と言って接種証明のカードのようなものを見せてくれた。いや,まだなんよ。そっちの感染状況はどうかね,と聞くと、アメリカでは新規感染者数がどの町でもすごい勢いで減っているという。
こっちはワクチンなんて年内に接種できるかどうかも怪しい状況なのだが、アメリカは、こういうところはすごいなあ。

それからエイドリアンは、いま家族全員がどれほどに「進撃の巨人」にハマっているかを興奮しながら話してくれた。Netflixでは世界同時に放映しているらしく、アメリカでも大人気で、この間サシャがガビに撃たれて死んだときなんかは家じゅうがお通夜のようになり、子供が通っている高校でもその話題で持ちきりだったそうだ。

エイドリアンが、もうこれ以上、誰も死なないわよね、ね、と聞くので、私が、「いやあの、ここだけだけどね、あの、ミカサがね…」と言ったとたん、彼女は「キャーーーー!」と悲鳴を上げてのけぞった。おいおい、冗談だよと言ったら、頬を膨らませて怒っていた。学生のときのまんまだ。

また、こういう面白い話もしてくれた。最終章第9話で、サシャがアフリカ系の肌色をしたオニャンコポンに、「なんで肌が黒いんですか?」といきなり聞いたシーン。

テレビでそのセリフを耳にした、というか、英語字幕が目に飛び込んだ瞬間、エイドリアンの家族は、誰もが凍り付いて、マジ?と顔を見合わせたそうな。

そんなヤバい発言はアメリカでは絶対あってはならないことなので、きっと、頭をぶったたかれたような衝撃だったはずだ。

ところがサシャのその質問に対するオニャンコポンの答えが、あまりにもふるっていた。
「俺達を創った奴はこう考えた。いろんな奴がいた方が、面白いってな」。

この見事な答えに、エイドリアンの家族のみなさんは「なんと素晴らしい!」と絶賛し、パチパチ拍手したとのことでした。めでたしめでたし。

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