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おやすみ前のお話

2021 MAR 9 10:10:28 am by 菊池 孝之助

息子が小学生の時分、夏が来ると毎年のように、息子の同級生の男の子たちと、その兄弟や父母ともどもキャンプ場に出掛けていた。

夜になると子供たちは私に、お話しして、とせがんでくる。私は他の親御さんたちと違って、たとえ他人の子でも危険なことをしたりいたずらしたりすれば全く容赦なく、コラーッ!と叱る。それでも7人のチビたちは、自分の親とは違うキャラの大人が珍しいのか、それとも単に私のサービス精神の旺盛さが好きなのかわからないが、こっぴどく叱られてもすぐに子犬のように懐いてくる。彼らの親御さんたちはそれを、不思議そうに見ていたもんだ。

真っ暗になったキャンプ場で大人たちがランタンを囲んでまったり飲みながらくっちゃべっている時間帯に、私はチビらを一つのテントの中に集め、懐中電灯ひとつを手にもって、下から私の顔を照らしながら、お話しを始めるのだ。

「むかちむかち、中国に、とっても仲のいい夫婦がおりました」

「旦那さんの名前は…」
ここで、ちょっと間を置き、はっきりと発音する。

「王珍宝、といいました」

一年生から六年生までのチビたちが、腹をかかえて手足をバタバタさせながら大笑いする。小学生の男の子は、こういう話が大好きだ。心理性的発達理論においてそのような彼らを男根期と定義したフロイト先生の慧眼はすごい。

私が小学生のときも、とりいかずよし作のトイレット博士を夢中で読み、今ではとても放送できないドリフの番組をみてヘラヘラ笑っていたものだ。昭和のあの頃の、性的なものに対する大らかさが懐かしい。

そして、男の子も五年生くらいになれば、この後の、「奥さんの名前は…」がどう展開するかが予測できるようになる。これを認知言語学では、「学習及び知識の構造化による自発的な関係類似性の発見」という。

しかし、そこで彼らにあえて異なる刺激を入力することにより、発見した関係類似の予想とのずれを彼ら自身に評価させ、新たな感情認知の体験に導くことが肝要である。

「そして、奥さんの名前は……」

間の置き具合が重要なところ、ここで私は、その当時読んでいた本の作者の名前を使うことにした。

「ユン・チアン、といいました」

低学年のチビたちはポカンとしていたが、上級生たちは「ええ~~~っ」と残念そうに反応した。

そこでチビたちの一人が「夫婦なのに、どうして名前が違うの?」と質問した。よしよし、いい展開だ。
私はチビたちに、日本とちがって中国では夫婦別姓であることを説明した。私がキャンプでするお話は、社会科の勉強の時間でもあるのだ。

「二人は愛し合い、とっても可愛い男の子が生まれました」

「両親は、その子に…」

チビたちは期待から落っことされたばかりなので、次の展開にあまり期待していない。だからこそ、新たな刺激を与える必要がある。

「王漆孝、と名付けました」

またしても全員が笑い転げたのは言うまでもない。

男根期の子供は、面白い。

ほんとうはワイルド・スワンについて書きたかったのだが、長くなりそうなので、いつかまた。

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