Sonar Members Club No.31

月別: 2017年4月

広島、お好み焼き

2017 APR 28 21:21:15 pm by 西村 淳

出張で広島まで行ってきた。40年前にはお隣、広島から山陽線で50分の山口県岩国市に住んだこともあり、20年くらい前には広島方面への出張はのべ100回を超えていたはずなので、この地の人々には馴染みもあり、また愛着もある。今のライヴ・イマジンの芽生えはシンフォニア岩国で企画してもらった演奏会でベートーヴェンの5番のソナタを弾いたことに始まる。この時は心臓が口から飛び出すくらい緊張してしまい、譜面があるのに真っ白になるわ、弓は震えるわで散々なデビューだった。終演後もこの興奮状態は続きほとんど一睡もできずに、折からの台風に追われるように始発の広島行きに飛び乗って逃げるように帰京したことを思い出す。この電車がこの日の最初で最後だった。考えてみるにこれを出張中にやっていたわけで、当然チェロも持って出かけていたわけだ。
久しぶりに訪れに、名店「バッケン・モーツァルト」のザッハ・トルテも定番の地位を守っているようだったし、流川あたりの賑わいもそのまま。「お好み村」も現役だ。とても心を研ぐような旅ではないが古くからのクラシック喫茶「小夜曲-セレナーデ」も健在だ。
ただここは何といっても「お好み焼き」。
大阪焼きよりも広島焼きが好きだ。広島は野菜中心なので関西とは食感が明らかに違うし、潔い。出張の野菜不足を補うには大いに助かる。

訪問したのは流川にある「ふみちゃん」。カウンターに陣取ると生地、野菜を焼く人、ソバの人、卵と仕上げ、これが流れるように右から左に鉄板の上を滑る。

「そば肉玉」を堪能して750円也。美味い!
青海苔を歯に付け満足してホテルに帰る。

ベートーヴェンのコーヒー

2017 APR 20 20:20:21 pm by 西村 淳

ベートーヴェンはコーヒーを淹れるときに、きっちり60粒を数えていたと伝記は伝えている。有名な話ながら勿論彼の音楽とは何ら関係もない。下世話な話だが実際に数えてみると私の場合は61粒であった。ベートーヴェン君、なかなかいい線いってるじゃないか、と思ったが大体このあたりの数字は中央値なのかもしれない。
一日に3度のコーヒーを欠かすと干からびてしまう、と歌ったバッハの「コーヒー・カンタータ」(1732年ころ)にあるが、それから60年後、コーヒーは広く世間に行き渡りウィーンには多くのカフェがあった。シューベルトは仲間たちとカフェに集っていたが、耳の聞こえない哀しいベートーヴェンはそれを横目で見ながら自宅で淹れていたのであろう。淹れ方はメリタ方式のような便利グッズはまだなく、トルコ式のミルで挽いた豆をガラス製のサイフォンか布のフィルターで落としていたにちがいない。
一方コーヒーとくればケーキはどうだろう?砂糖はすでにヨーロッパ全土に行き渡っていたので、これに卵があればそれなりのお菓子は出来たに違いないし、「パンがなければ、ケーキを食べればいいのに」とマリー・アントワネットの言葉も伝えられている。ただウィーンの銘菓ザッハトルテが登場するのは1832年なので、ベートーヴェンは食べていない。それにしてもコーヒー片手にケーキを食べるベートーヴェン、なんとも微笑ましい。

コーヒーの抽出から

2017 APR 16 21:21:59 pm by 西村 淳

コーヒーの淹れ方はいろいろな方法が考案されているが、最近はペーパー・フィルターが手軽でもっぱらこれでやっている。この方法は20世紀に入り、ドイツのメリタさんが考案した方法で、その淹れ方は合理的、かつ経済的なもので豆を極細に挽いて湯との接触面積をできるだけ大きくすることで、豆そのものの量を減らすことができると聞いた。手軽さはもちろん、ペーパーの質もいわゆる「紙臭い」と言われた時代から脱してクオリティの面でも十分レベルは高い。
その昔、パルプを作る会社にいたことがあるが、コーヒー・フィルターはパルプから作られているので、そのあたりのことを考えてみた。
木材の組成は繊維とそれをくっつけているリグニンから成るが、このリグニンを除去した繊維がパルプで、絡み具合を密にしてデンプンで固めて薄く引き伸ばしたものが紙である。
パルプを作るには木材チップをアルカリ性の薬液に浸し高温高圧で5時間ほど煮る。
そうするとリグニンが溶け出して繊維のみ残る算段だ。これをコーヒーに例えるなら、細かく挽いた豆に湯が浸透するまで20-30秒くらい待って、そのあとはお湯を注いでコーヒーを抽出する。あらら、これはパルプを作るのと同じことだわと妙に納得した。
有機物である木材から一定品質のパルプを作ることはプロにとっても容易ではなく、今日でもこの分野の永遠の課題となっている。まったく同じことがコーヒーの抽出にも言えるわけで、最高に美味しいコーヒーを抽出するために豆の種類、量、湯の温度、抽出時間、焙煎具合、挽き具合、サイズ、ペーパー品質などのパラメータを経験と理論から適当に決めるが、これらのパラメータがまた相互に関連を持つので複雑だ。30年以上やっていても未だ可(飲める)のレベルにしか到達していないのは我ながら情けない。
だが一方、パルプにしろコーヒーにしろなかなか奥が深いようでいて物事の考え方が結局一つのやり方に収斂していく様は人智とその限界を垣間見るようだ。

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