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静けさの中から (3)

2017 AUG 12 21:21:42 pm by 西村 淳

☘ 暗譜について

『ある若いピアニストが、バッハの協奏曲を楽譜を見ながら演奏していた。最近の傾向を象徴している。若い世代の音楽家は、本番でも、何のためらいもなく楽譜を使うようになっている。ピアニストが背負ってきた宿命、「暗譜で演奏」。楽譜を見ないで弾くという、その重圧からいよいよ解き放たれる時が来たのかもしれないと思うと、感慨深い。
歴史上、最も偉大なピアニストと言えば、フランツ・リストの名を上げることが出来るが、彼でさえ、レパートリーの半分は楽譜を見ながら演奏したという記録が残っている。・・かのクララ・シューマンは演奏会の場でもきちんと楽譜を立てて演奏するようにと、生徒たちに厳しく指導していた。・・ベートーヴェンも、弟子が暗譜で演奏するのをひどく嫌ったといわれている。途中で曲を忘れてしまったり、楽譜の細かい指示に従わずに雑にひいてしまったりするからだ。
ところが、19世紀末になると、にわかに変化が訪れた。コンサートでの即興演奏をしなくなるとその代わりにほかの人が書いた曲をもっと自然な様子で演奏したくなったららしい。そうなると聴衆のほうも、奏者が暗譜で演奏することを求めるようになったというから不思議である。ソリスト志望のピアニストは、暗譜をしなければならない事態に陥った。このようにしてピアニストたちを恐怖のどん底に突き落とす「暗譜は必須」という暗黙の了解ができあがっていったのである。
現在、ほとんどのピアノコンクールの応募要項には「すべての課題を暗譜で演奏すること」と書かれている。結果発表のあと、「練習時間のほとんどを、新作を暗譜するのに費やしました」と審査員に訴える出場者の様子は、何とも痛々しい。
現代のピアニストは膨大なレパートリーをひっさげて日替わりでどんどん違う曲を演奏しなければならない。ピエール・ローラン=エマールは何のこだわりもなく大きなコンサート会場でも楽譜を使って演奏している。
楽譜は教典のようなもの。見るたびに必ず新しい発見があるものだ。ベートーヴェンは弟子に厳しく楽譜を見るようにと教えていた。彼自身、楽譜にはたくさんの発見があることを知っていて、弟子にそれを伝えたかったからに違いない。』

🍀 小さなころやっていたピアノの発表会では、暗譜して演奏するという暗黙の了解があった。シャイな私は発表会が嫌で仕方がなかったが、その理由の一つに暗譜があった。いまでも小さなピアニストの卵たちは発表会では何の疑問も抱かずにそれをやらされているに違いない。ただ、小さいなりに楽譜があるのにどうして暗譜しなきゃならないんだろう?と常々思っていたし、誰も答えてくれなかった。実際、これをやるのは大変なことなのだ。結果、具体的にどうするかを教えられないまま、指で覚えていたように思う。その後、チェロという楽器を手にしてから、アンサンブルで皆と弾くときには楽譜をおいて弾くのが当たり前になっている。ただソロを弾く弦楽器奏者にはピアニストほど圧力はかからないが、さすがにコンチェルトは暗譜なしでやっている人はあまり見かけない。その真逆をやっている古典四重奏団などというオソロシイグループもあるが、その功罪については後ほど検証してみるとして、スーザンがもやもやとしたものを吹き飛ばすような一章を記してくれた。おかげでどんな場合にでも楽譜を見ながら演奏することになんの後ろめたさも躊躇もなくなった。(実際これまでだって暗譜なんかしていなかったが・・)

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