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「蜜蜂と遠雷」を読んでみて

2018 AUG 12 15:15:36 pm by 西村 淳


恩田陸著「蜜蜂と遠雷」
幻冬舎刊

恩田陸の有名な作品だそうである。今まで読んだことがなく、著者の名前は知っていた程度だったがいやはやこの作家は素晴らしい。テーマは「ピアノ・コンクール」。音楽を筆の力で伝えることは至難の業なのにコンテスタントが弾いている有名な曲は頭の中で鳴るし、実在しない作品までその音の形が想像できる。コンクールの臨場感と緊張感の描写はその特別な場に私をワープした。誰がその頂点に立つのかをワクワクしながら読み進め、アッチェレランドに乗った読了後の爽快感はたまらない。私だったら「素晴らしかった」とか「最高!」とかそんな表現しかできないなと思いつつ、どうしたらこんなに書けるのか著者の略歴を紐解いてみた。あーやっぱり、ご自身でピアノを弾くそうだ。かと言ってピアノが弾ければ文章が書けるわけでもなく、文章が書ければピアノが弾けるわけでもない。
その中にちょっと気になる文章を見つけた。音楽をビジネスとしてみるなら、あらゆる手段を使い利潤を追求する。それに私たちも少なからず恩恵を受けているが、裏があるのはどの世界であっても同じこと。
「聴衆の聴きたい曲と、ピアニストの弾きたい曲は必ずしも一致しない。例えば、いわゆる現代音楽は、「普通の」聴衆には敬遠される。リサイタルの主催者からプログラムに現代音楽は入れないでくれと懇願された話はよく聞くし、ショパンやベートーヴェンらの人気曲を入れ、そちらを宣伝に押し出すことでようやく現代音楽を一曲いれられたらいいほうだという。人気ピアニストになり、ファンのすそ野が広がるにつれてその傾向は強まる。より多くのチケットを売り、大ホールをいっぱいにするには、より多くの聴衆が聴きたい曲をメインにする必要がある。新聞や雑誌、チラシに印刷されたプログラムの中に、お客さんの聴きたい曲とピアニストの弾きたい曲のせめぎあいが見える。チケットを売る側の思惑と、冒険したいピアニストとの駆け引きが透けて見える。」
手前味噌ながらライヴ・イマジンのプログラミングについて褒められることが時々ある。プログラミングは私自身の弾きたい曲、好きな曲はその曲を知らない人にとってもきっと好きになってくれるに違いない、という信念に基づいている。そのモデルが正しかったかどうかはお客様が残してくれたアンケートに顕著だし、拍手はとても正直なものだ。結局は名曲が並ぶことが多くなるが、やはり名曲には名曲たる所以があるし、知られざる何とかはどう考えてもベートーヴェンやモーツァルトを凌ぐものではない。無料のコンサートだからこその冒険もたまにはさせていただいているが、ここにある演奏家本位ではなく作品本位でのコンサートの成立ちだったことに改めて我ながら驚く。

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