静けさの中から (10) ハ長調の色は?
2018 SEP 30 21:21:01 pm by 西村 淳
☘(スーザン):ピアニストのエレーヌ・グリモーが演奏前のインタビューで彼女は音楽を聴くと、本能的に色彩を感じる、とはなしていた。それは音楽の二次性感覚(Synaesthesia)と呼ばれるもので、最近よく知られるようになってきている。
この感覚を持っている人は、何調の音楽を聴くと、何色、というふうに特定の色がはっきり見えてくるらしい。エレーヌは「ハ長調はぜったいに白です」ときっぱり言っているが、これは個人的な感覚に基づくものだから、二次性感覚を持った人でもそれぞれ意見が異なるのだそうだ。
同じ質問を受けたら、たぶん私も「ハ長調は白」と言うだろう。ピアノのハ長調は、すべて白鍵で弾く。ピアノと長年付き合っている人間にとってみれば、ハ長調が白いと思うのは自然の成り行きではないかなと思う。
夫のボブがこう付け加えた。「色っていうのは、つまり光(可視光線)のことだから、光の波長や、音の周波数、それぞれの調整の間に、なにか協調性や関連性があるのかどうか、調べてみると面白いかもね」・・「関連性って?」・・かれは深い眠りに落ちていた。
?(私):二次性感覚という単語はよく知らない。でもボブの言うことはちょっと面白い視点かもしれない。
グリモーがどうのじゃなくてじゃあおまえはどうだ?といわれたらハ長調は白。イ長調は青、ヘ長調は黄色、ニ短調は茶色、変ホ長調は????。ところで電話で聴く時報の正時に鳴るのが440Hzでその半音下が約415Hzだそうである。で昨今のバロックの標準ピッチはこの415Hzなので衰えたとはいえ、440Hzで作られた絶対音感を持った人間にとって気持ちが悪くて仕方がない。でもハ長調はハ長調であって、ロ長調ではないわけで、半音低くてもこれを白とするだろうか?少なくとも私にとってはもう白ではない。しいて言うなら薄い茶色か。ただ調性が曲の性格を表すこともあるに違いないし、ショパンの雨だれのプレリュードはロ短調でなければならない。このあたりが音楽の楽しみでもあって1+1は人それぞれなのである。2の人も3の人も1のままの人も。
と書いてみたものの、調性の性格や表現も所詮時代の子なのかもしれない。つまり18世紀、ラモーやシャルパンティエはヘ長調の性格を「荒れ狂ったような」「嵐、憤怒」と著し、これは私たちがベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ「春」や交響曲第6番「田園」で植え付けられたイメージとは大きく異なっていることがわかっている。
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東 賢太郎
10/1/2018 | 11:32 AM Permalink
色は絶対音感がない人には見えないのではないでしょうか。白鍵が多いから白、ではないように思います。僕はご説の理由によって古楽器演奏は一切聴きません。
西村 淳
10/1/2018 | 6:04 PM Permalink
スクリャービンはハ調を赤としていますね。となると人それぞれの感じ方だけで、根拠はないようです。
maeda
10/1/2018 | 7:54 PM Permalink
どうもピッチの問題と調性感が混乱しているように思えますが、調性感は音階の中の各音の相対的な関係によって生まれるものなので、Aが415でもC-durはH-durにはならないのです。調性の性格を特徴付けるのは、バロック時代について言えば、音律によって固定化された音階なんですね。音程を変えられる弦楽器にしても、開放弦の音程は固定されていますから、調を変えれば偏りの場所がずれて、味わいが変化します。また、古楽器演奏の響きがモダンと全く異なって聴こえるのも、音階を構成する各音の高さの問題で、普通は、古楽器奏者は、シャープを低めフラットを高めに取る、つまり3度とか6度の和音が合う音程で旋律も弾くので、導音が広くなり、それが古風な響きになります。ピッチも低いですけれど、音階の音の取り方がモダンと違うことが大きな原因です。ちなみに、バロックのピッチは低いとよく言われますが、昔のピッチは各地で結構バラバラで、1600年代のドイツの室内楽のピッチでも何と567.3Hzとかウィーンの1600年代のオルガンで457.6Hzというものもあります。統一されていなかったのですから色々あって当然です。
東 賢太郎
10/1/2018 | 10:56 PM Permalink
前田さんのご指摘のようにモーツァルト時代のクラヴィーアの調弦はばらばらだったそうで絶対音感などあったらむしろ大変だったでしょう。ということは彼の調性選択は音のピッチによる抽象的な絶対基準ではなくメカニックな楽器(管弦)の都合だったような気がします。ピアノは運指ではないでしょうか、特にフラット2つと3つはそう思います。色を言う人はその調性で書かれた有名曲のオケの音色のイメージや曲想が関係あるかもしれません。僕の場合はそうです、曲の記憶から固有のイメージができてしまっています。
西村 淳
10/2/2018 | 4:07 AM Permalink
誰でもそうなんでしょうけれど、やはり小さい頃から慣れ親しんだ有名曲のイメージがたまたま特定の「色」と結びついているんでしょうね。なので作品数の少ないフラットやシャープのたくさんついた曲にはイメージが湧いてこない。ピアノを始めるのは白意鍵盤だし初めて字を書くのも白い紙なのでそんな記憶も重なってそれぞれの音に結び付くのだと思います。