目視検査の自動化
2018 DEC 23 8:08:55 am by 西村 淳
目視検査の自動化。なにやら小難しいことを言いだしたぞととられるかもしれない。これは10年くらい前に取り組んでいたテーマだった。いろいろと調査していて何を措いてもこの非人間的な「目視検査」作業から人を開放することこそ使命とも感じていた。その想いは今でも変わっていない。
きっかけはIVS(Industrial Video Solutions)というアメリカ、ワシントンDCのベンチャー会社との出会いと協業だ。スティーヴ・ジョブスがそうだったようにベンチャー企業には一人天才的な発想を持つ人がいる。このIVSにもCEOを兼務しているSlawekさんというポーランドの技術者がそれだ。一緒に仕事を始めて20年来の尊敬もし、深い知識と発想の豊かさ、そして欧米人に稀な謙虚な人間性も含めて惚れている人物の一人だ。
目視検査とは何だろう?ある製品を作った時にその基本性能が市場の要求を満たしていたとしよう。昨今の検査偽装はこの部分の数値を改ざんしたから罪は重い。ところがちょっと外観に傷があったり、凹んでいたりしたらそれは製品とならずに欠陥品となる。ちょうど曲がったキュウリが市場に出ないように絶対に市場に出してはいけないものである。
本質的ではないが、現実だしその為に曲がったキュウリを「目で見つけて」はじくこと。これが目視検査だ。つまり人の「目で見える欠陥」の除去としてよい。
多くの業種、企業の工場を訪問し最終の検査工程で製品の欠陥、欠点をどのように発見し、それをどのように欠陥製品として除去しているのかをこの目で見、そして耳で聞いた。そこから浮かび上がったのは、たとえば600人の工場で目視検査にあたっている人間が200人もいたこともあるし、ベルト・コンベヤの上を流れてくる製品をじーっと睨んでいることを仕事にしている人もいる。集中力の必要な作業を15分交替でやっていたが、この非人間的な作業のつらさに耐えられない人が多いとも聞いた。ユーザーからの品質要求が高くなればなるほどそのハードルが上がる。先ごろ日本の労働生産性が先進国中最低と報じられ、こんなところに人を配置しなければならないことがその原因の一つでもあるに違いない。目視検査のない製造業は存在しないし、一体どれほどの人たちがその作業に係わっているかは知らないが、この作業の「自動化」ほど待ち望まれているものはない、という確信を持っている。
目視検査を自動化されている専用機器は半導体製造に存在するものの、台湾の大手半導体メーカーでさえ機械検査の後、さらに目視検査を実施していた。これが実情である。
ではどのようにして目視検査の自動化を実現したか。高速の大容量デジタルカメラとLEDライト(ソナーが係っている青色LEDの中村教授の技術も含まれる)の使用が目の部分。その情報をPCに送り、良否判定は特別なフィルタリングとデータ処理によりIVSの技術で処理される頭の部分。これに汎用技術で自動化された欠陥品ピックアップ装置で構成される。人の認識、判断、行動が最先端技術に見事にそしてシンプルに置き換えられている。
事情があり道半ばでこの仕事に係わることから離れたが、Slawekさんとの友情は続いているし、東日本大震災の原発事故の時にいち早くウクライナ製のポータブル線量計を送ってくれたのも彼だ。いずれ何処かで再起を、とも考えている。生きているうちに一つくらいは世のために尽くそうではないか。楽しい写真は今年結婚した息子の結婚式でのSlawekさんだ。
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東 賢太郎
12/23/2018 | 12:46 PM Permalink
目視検査が自動化されていないことは知りませんでした。有難うございます。ランダムに流れてくる製品の形状をデータ化しにくいからでしょうが、目視でも漏れは存在するだろうし、それが決定的に否定されるべき根拠があるのであれば製品の「定位」を一定にする工程を入れるか、Slawekさんの機械を買うか、いずれかのうちコストの安いほうと現状の人件費との比較になるのではないでしょうか。現状その需要が出ていない(だから自動化されていない)とすると「決定的に否定されるべき根拠」の存否の問題のような気も致しますが。素人意見ですみません。
ちなみにキュウリは本来曲がっているものでまっすぐなのは人為的につくったF1世代であり、その人為性に人体への影響(精子が減るなど)があると論じる学者がいます。否定する論者もありますが、そんなに大事かもしれないことが科学的結論として決着してないことに人為性を覚えてしまいます。真実がどっちであれ、天文学的に微細な疑念であっても存在するならば、それと主婦感覚の見目の良さごとき程度のものを引き換えにするのは決定的にナンセンスと僕は思います。
西村 淳
12/23/2018 | 2:28 PM Permalink
目視検査は自動化が挑む最後の砦です。需要(市場)はいくらでもあります。経営者にとって簡単に投資回収が計算できますから。あとは営業力だけかと思っていますが持ち込む先を間違えると「なんだ俺のクビがなくなるって話か」みたいな反応があったりします。
需要はたとえば自動車の車体の塗装ムラを見つけることとガラスコップの飲み口の凹凸を見つけること、ほかには色ムラを見つけるなど最終製品だけに一つとして要求に同じものはありません。
一つ一つが全く違う物だけになかなか自動化が難しかったのですが、それには早いラインに対応できる高速度カメラと小さい欠点を見つける高解像度のカメラが「リーズナブル」な価格で入手できることと光の強さと波長を自在にコントロールできる「リーズナブル」な価格のLEDライトが必要となりました。ここ10年くらいのこれらの機器の進歩は需要を満たしましたが、次にたとえばこの欠点を見つけるのにはどんな光をどのように当てるか。ここにノウハウがあります。もちろんその後のデータ処理は大変なノウハウです。
これらの中に日本製は残念ながらSONYのイメージセンサーくらいです。残念ながらフロントランナーではないようです。
西室 建
12/24/2018 | 2:54 PM Permalink
私も半導体材料関連を手掛けていた時に苦労しました。
ブツがミクロン・オーダーですからキズ検査には手間がかかり、何とか自動化したかったのですがどうにもダメでしたね。
レーザーを当てて反射角度によって検出する方法があったことはあったのですが能率が上がらずペイしなかったですね。
実験では色々調整してもグレー・ゾーンを全部弾いてしまい『まあこれくらいなら』が人の判断に大量に回ってしまい、結局抜き取りで面を目視する方法しか取れなかったのです。そしてマズいことにカンと経験が大変に効果を発揮するのです。
その頃同じような工程を中国で見学した時は、ズラーッと若い女の子がわき目もふらずに顕微鏡を覗き込みピンセットで不良品を弾いているのを見てゾッとしました。何しろ受け持ちのユニットで不良品が出ると給料が減らされるのです(日本から見ればタダ同然の給料がですよ)。
西村さん、IVS社との協業を育て上げて日本の製造業を救ってください。
西村 淳
12/25/2018 | 8:54 PM Permalink
半導体検査装置のメーカーも訪問したり意見交換をしたこともあります。まさに仰る通りでして、メーカーもその後人が見ていることに目をつぶっている状態でした。
この分野をマシンビジョンと呼んでいるようです。カメラセンシングとも。それこそ百聞は一見に如かずという言葉にあるように目(カメラ)でとらえる情報は桁違いです。温度計は温度、圧力計は圧力と一つ一つのセンシングをやっている計装分野にも革命的な変革が起きるかもしれないと思っています。
それらの情報から何を取り出すか、何を捨てるか。感性のなせる部分かもしれません。
Slawekさんとの二人三脚はやろうと思えばいつでもスタート可能だと思っています。あとはそれを踏み出すか、ということですね。
そういえば鉄鋼業界からもこの傷がどうにかならないかという相談もあったことも思い出しました。