特別なトリスタン体験
2019 JAN 20 20:20:40 pm by 西村 淳
新交響楽団第244回演奏会
指揮 飯守泰次郎
二塚直紀(トリスタン)、池田香織(イゾルデ)他
ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」抜粋(演奏会形式)
第1幕 前奏曲
第2幕 全曲
第3幕 第3場
2019年1月20日(日)2:00PM
東京芸術劇場コンサートホール
「トリスタンとイゾルデ」は1991年10月、サンフランシスコの戦争メモリアルオペラハウスでの公演を見て、そして聴いたのが最初で最後だ。その頃働いていた横河電機でのアプリケーション・シンポジウムで一等になったご褒美にアナハイムでのISA(Instrumets Society of America)への視察旅行があった。帰国する前にサンフランシスコまでその足を伸ばしたわけだが、緊張感に満ちたアメリカ社会の中でこの街の安全と開放的な空気がいっぺんに好きになってしまった。昼は観光、夜はコンサートと短いながら充実した日々だったし、とうとうオペラまで観てしまったわけだ。それまで「トリスタン」は「前奏曲と愛の死」くらいしか知らなく粗筋をつまんだ程度の知識しかなかったが、この時の公演は第3幕でイゾルデの「愛の死」で涙が溢れ、止まらなくなってしまった。カーテンコールが終わっても呆然として人前を憚らず泣けた空前絶後の音楽体験だった。ワーグナーに媚薬を盛られてしまったわけだ。それ以来この曲は特別なものとして常に心のどこかにあり出来れば演奏体験もと思っていたが、アマオケの雄たる新響が取り上げてくれた。自分がその場にいない残念さもあったが、私にとっての音楽は聴く楽しみ半分でもあるので弾く楽しみは先に残しておこう。ライヴ・イマジンで度々お世話になっている新響のU夫妻からチケットをプレゼントされ、勇躍会場に。アマチュアのコンサートはいいところを聴くことが鉄則である。しかしながらワーグナーのスコアは易しくなくちょっと不安もあった。ところが前奏曲が鳴り始めてすぐにワーグナーの特別な世界が拡がり、それが杞憂であったことをすぐさま思い知らされた。そう、音楽そのものに入れたし最後にはやっぱり泣いてしまった。素晴らしい。本当に素晴らしい体験だった。この公演を聴けたことは一生の思い出となるに違いない。指揮の飯守さんはじめ新響の面々、そして何よりもトリスタンの物語を真摯に伝えてくれた歌手の皆さんに心から拍手を贈りたい。ブラーヴォ!
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吉田 康子
1/21/2019 | 12:31 AM Permalink
ワーグナーは私にとってあまりご縁も無く、ワグネリアンという言葉に恐れを抱いてわざわざ近づく事も無い遠い世界の人でした。たまたま新響の練習後にお目にかかったUご夫妻が、今回の歌の素晴らしさを語っていたのが印象的で、ご招待に便乗させて頂きました。
人の声ってこんなにも力強く心を揺さぶるものなんだと感動。そしてワーグナーの音楽の大きさ、深さに魂を奪われたような気分です。それにしてもオケの皆さんは、アマチュアという立場でどうやってここまで素晴らしい音楽を作り上げたんだろう?と素直な驚きの思いも。本当に心に残る演奏を聴かせて頂き,ありがとうございました。
西村 淳
1/21/2019 | 4:16 AM Permalink
歌の世界は器楽とまた別のものですね。オペラ、リートあたりになると私もまだほとんど知らない世界がそこにあります。モーツァルトならオペラ、シューベルトならリート、ヴェルディもプッチーニも、そしてワーグナーさえよく知らない。言葉の壁を言ってしまうとそれまでですが、歌は感動をよりストレートに伝えてくれるもののようです。
東 賢太郎
1/28/2019 | 5:49 PM Permalink
トリスタンは異形の作品であの年代にこれを書いたワーグナーは好き嫌いはともかくけた外れの巨人ですね。しかも同時に名歌手もリングも構想して台本まで書いてるまぎれもないお化けです。ドレスデン蜂起でゲバ棒を振って指名手配となったり、小説や評論を書いたり、借金が返せず英国に逃げたり、数々の浮名を流したりしてますがどこにそんな時間があったのか不思議です。
西村 淳
1/29/2019 | 6:11 PM Permalink
トリスタンは自筆譜ファクシミリも最近刊行されていますね。ほしいなあ、ですが所謂宝の持ち腐れの可能性が高いし・・こんな悩みがまだあるうちがいいのかもしれません。
飛んで飛んでのワーグナー、友人にはしたくない人物ですね。でもどこかで惹かれているみたいな。凡人はみんなきっとそう。
いずれにせよ、私にとってはまだまだ大きな未知の世界です。
東 賢太郎
1/29/2019 | 10:16 PM Permalink
スコアは持ってますがまるで百科事典か電話帳です(どっちも見かけなくなりましたが)。怖くてじっくり付きあおうとは思いません、それだけで人生尽きそうなんで。リングは通して聞かれましたか?これ、味をしめると病みつきになります。もう魔性の音楽です。15時間のうち大半が禅問答に耐えるみたいなものですが、あまりに素晴らしい部分が要所要所に出てきて忘れられず、あれを味わうには我慢しようとなってまた聴くという感じでしょうか。一種の麻薬ですね。
西村 淳
1/30/2019 | 7:11 PM Permalink
リングは断片でしか知りません。昔々FM放送で柴田南雄さんがライトモチーフの説明をしていたバイロイト音楽祭の中継がありましたが、このモンスターを知るにはまだ若すぎました。
ショルティの有名な録音もトリスタンのスコアと同じ命運を辿りそうで、手が出ないでいるのが正直なところです。それにしてもこれを味わっているとは流石ですね。
東 賢太郎
2/2/2019 | 12:32 AM Permalink
いえ、そんな大したことはないですよ。リングは攻略法があるんです。まずライトモチーフを全部暗記する、これだけはマスト。でもそれで8割は終わりです。僕は最初、ジョージ・セルのニーベルングの指環 (ハイライト) で覚えてから広げました。
西村 淳
2/2/2019 | 7:34 AM Permalink
やはりワーグナーはライトモチーフに尽きるわけですね。逆にわかってしまうと存外簡単なわけですか。それにしてもリブレットだけでは何も生まれないのに、これに音楽が付くとストレートに心に働きかけてくる。まさに麻薬ですね。
ワーグナーはクナッパーツブッシュ、録音でもこの陶酔感は格別でした。