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ひのまどかさんのシューベルト

2019 APR 30 21:21:43 pm by 西村 淳

著者ひのまどかさんの著作に初めて接したのは「戦火のシンフォニー:レニングラード封鎖345日目の真実(新潮社刊)」だった。ここで描かれた交響曲第7番出生の苦難は胸を打つものがあったし、意外にもドイツの包囲網の中、生死の狭間で行われたショスタコーヴィチその人のレニングラード初演に至る過程での冷淡な態度や、その後の指揮者エリアスベルクの恵まれない扱いに憤慨したりもした。ロシア大使館で行われたひのさんのレクチャーからは徹底した現地取材による借り物ではない彼女自身の想いがストレートに伝わってきたのを思い出す。
その後「作曲家の物語」シリーズという図書館では児童書のコーナーに置かれている著作を目にするたびに「ドヴォルジャーク」「モーツァルト」「バルトーク」などなど夢中になって読み進め、とうとう「シューベルト」を手にした。どれもが現地に足を運び掬い上げたものと歴史に刻まれた事実とが交錯し、まるでそこに作曲家本人がいるように生き生きとしたひのさんの言葉で語られる。

シューベルトのサブタイトル、「孤独な放浪者」はまさに正鵠を得たものだ。作曲のためにあらゆる束縛を嫌い、父の命じた代用教員の職を拒否したことから勘当され寝泊まりは友人たちのところに転がり込む。ただこの仕事はたったの年に45グルデン、年収45万の仕事だった。ホームレス、ただこのホームレスは落ちてなったものではなく自から自由の代償として選んだ道であり境遇に不満も迷いもない。一方でこんなシューベルトの才能を信じ生きることをサポートしてくれた多くの友人達がいたし、先日ライヴ・イマジン42で演奏した「八重奏曲 D802」はクラリネットの名手でもあったトロイヤー伯爵(ベートーヴェンのパトロン、ルドルフ大公の侍従長)からの依頼も彼らの成果だった筈だ。シャイなシューベルト。そっと後ろからついて歩いても声すらかけられなかった尊敬するベートーヴェン。人生の終わりを迎える直前にシントラ―の要請でベートーヴェンに会いに行く。その作品を「この若い作曲家の中には、神の火花が散っている!私はどんなにこの青年の才能を尊敬していることだろう!」とまで評価していたベートーヴェンが病床からシューベルトにくれた眼差しは、そこに神の姿を重ねたに違いない。そして翌年。死の直前に「ここにはベートーヴェンがいない、ぼくはベートーヴェンがいるところにかえりたい」と訴えたシューベルト。ウィーンの中央墓地。大好きなベートーヴェンの隣で彼に何を話しかけているのだろう。
ひのさんの本を読んで、シューベルトの人となりが明確な焦点を結んだ。前回のライヴ・イマジンの冒頭の挨拶で、モーツァルトとシューベルトを預言者とした。ベートーヴェンが見抜いたようにこの二人は間違いなく神に一番近いところにいて、神の声を私たちに届けてくれた人たちだ。モーツァルトはさておき、もっとシューベルトのリートを楽しまなきゃ人生洒落にもならない。

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