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モーツァルトとコンスタンツェ

2020 MAY 6 21:21:22 pm by 西村 淳

コロナ自宅軟禁もはや2か月近い。時間が沢山あるようでも思ったほど多くのことができているわけではないようだ。
次回ライヴ・イマジン(7月24日開催予定)のプログラムノートの参考にしようと、読み始めたのが「モーツァルトとコンスタンツェ」新説 謎の死と埋葬をめぐって(フランシス・カー著/横山一雄訳:音楽之友社刊)。
面白い。それも特別に。モーツァルトの死の真相は本命はサリエリだったんじゃなかったっけ?ほかにも諸説あるのは知っていたけれど、この視点は漏れていたなあ。内容はモーツァルトの手紙を軸に主にコンスタンツェとの係わりを展開していくノン・フィクション。行間を読むようにそのニュアンスまで嗅ぎ取りながら背後に隠れているものが炙り出され、ホーフデーメルという官吏がその本命としてクローズアップされる。それと併行して徹底的にコンスタンツェを嫌な女として描く。実際、コンスタンツェをいい印象で見ている人は少ないだろうけれど、どうしてモーツァルトがこんな女と結婚しようとしたのか、父レオポルドに激しく同意するがモーツァルトはきっとすべての女性に恋をしていた。そしてそのうちの誰も愛してなんかいなかった。
モーツァルト裁判なるものがあったそうで、遠い記憶の片隅に残っているが、曰く、
1983年、ロンドンの南、ブライトンでの音楽祭で「誰がモーツァルトを殺したか」なるテーマで模擬裁判が行われ、俳優がコンスタンツェ、マグダレーナ、ジュスマイヤー、サリエリに扮し、正式な法廷の手続きに則り審問が行われ、評決に入った。その結果最有力容疑者となったのはサリエリではなくモーツァルトのピアノの女弟子のひとりだったマグダレーナの夫でモーツァルトが死んだ翌日、妻を傷つけ自殺した最高裁判所書記フランツ・ホーフデーメルだった。この模擬裁判の資料、ホーフデーメル有罪の証拠提供者がこの本の著者、フランシス・カーだったとのこと。カーがプロモートしたものかもしれないし、結論ありきだったのかもしれない。
ホーフデーメルという官僚は社会で一番低い階層にいる小男に天誅を加えることくらい何のためらいもなかったかもしれない。それは撲殺であろうと薬殺であろうと、金まで工面してやったりしているのに人の女房を孕ませやがって、くらいの気持ちだったに違いない。ただ相手があまりにも有名すぎた。ホーフデーメルが真犯人だとすると、いままで謎とされていた埋葬のこともすとんと腑に落ちる。ただこの事件により顔を傷つけられ、瀕死の重傷を負ったマグダレーナ、ジュスマイヤーの子を身籠っていたコンスタンツェ、さしずめ現代なら文春が大喜びしそうな見事な三面記事。ハプスブルク帝国の威信にかけてもみ消しに走ったのもうなずける。
因みにマグダレーナはピアノ協奏曲第27番K595の隠れた献呈先。事件の後、健康が回復してからカール・チェルニー(みんなを苦しめるあの練習曲の作曲者)に息子を弟子入りさせている。チェルニーは勿論ベートーヴェンのお弟子さん。さらにマグダレーナはチェルニーにベートーヴェンのピアノを聴かせてくれるようお願いしてくれないか、とおねだりまでしている。それを伝え聞いたベートーヴェンは「マグダレーナはモーツァルトと関係のあった女だな・・いやだよ」と最初は断ったが、後で気が変わったようだ。当時ベートーヴェンは、(というか世間は)モーツァルトの死について知っていた、ということになる。ただいつまで経ってもどんな証拠を開示しようと出来上がったサリエリ説は揺るがない。一度定着したものを覆すことの困難さはどの世界も同じことだ。

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