小泉文夫の再降臨
2022 MAY 14 22:22:47 pm by 西村 淳
ひのまどかさんの音楽家の伝記「小泉文夫」を読了。いやあ刺激的。好奇心満載で新たな発見に歓喜雀躍!
(音楽家の伝記 はじめに読む1冊 「小泉文夫」ひのまどか著 : ヤマハミュージックエンターテイメント)
ここではその中から微分音のことを少し。微分音とは半音のさらに半分。この場合は「四分の一の微分音」と呼ばれている。西洋音楽で使われることは極めて稀。
かれこれ半世紀以上も前の事。民俗音楽学者・小泉文夫はNHK-FMで「世界の民族音楽」というのをやっていたことがあり、面白くてラジオに耳を傾けていた。もう少し後になるが、「題名のない音楽会」でインドネシアのガムランやケチャが彼の司会と「芸能山城組」により紹介され、いまだにそのシーンが蘇るくらい強烈な印象を残した。
小泉氏はSONYのデンスケをお供にフィールドワークとして世界中の民俗音楽を収集してまわったが、その活動は50年前にバルトークやコダーイが蝋管蓄音機を背負って農民の歌を収集していたことに重なる命がけの行為だった。
そんな活動を著した本の記述にペルシャ音楽の特徴の一つが「四分の一音」である、とある。実際クラシックの曲でもアイヴスの『2台のピアノのための四分音による3つの小品』とか、バルトークの『ヴァイオリン協奏曲第2番』にも使われているが、やはり12音平均律の呪縛はあまりにも強くメインストリームにはなっていない。ところがイラン人たちはこの「四分の一音」を普通に歌うことができるそうだ。こうなると日ごろチェロの練習をしていても偶然の「四分の一音」はあり得ても、単に音程が悪いだけのことで必然ではない。当たり前だがこれくらいの音程であれば聴き分けることくらいは出来そうだ。
さらに驚いたのはトルコ音楽の「九分の一音」。今までトルコ音楽のイメージは軍楽隊のド派手なイメージだが、モーツァルトやベートーヴェンにも影響を与えたし、何より向田邦子のNHKドラマ「阿修羅のごとく」で使用されたインパクトは絶大だった。でもこれはトルコ音楽の裏の顔で表の顔は「九分の一音」を厳密に区別して演奏しているようなのだ!!カーヌーンという78弦の楽器はこの音程で調弦されているわけで、こうなってくると西洋音楽の12音平均律はアバウトで粗くて繊細さが欠けているようにさえ感じてしまう。本当か?「九分の一音」を聴き分け発声できる?きっと無理だろう・・恐るべし、タメ息が出てしまった。因みにカーヌーンは中国に渡り楊琴に、さらに朝鮮半島を経て日本で琴や筝になったそうだ。
追記としてインドの音階について。このテーマは以前投稿している。
小泉文夫が補足すると、ラーガは上行音階が72種類、下降音階も72種類、この組み合わせで5184種類も!これが基本ということなので気の遠くなるような数字だ。西洋音階は長音階、短音階、半音音階、全音階、まれに5音階、7音階くらい。インド・メソポタミア文明は遥かに広く、深い。いやはやギリシャ文明なんぞはまだ若造か。
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