Sonar Members Club No.36

Since July 2013

製造現場血風録ー火災勃発

2013 OCT 24 11:11:36 am by 西 牟呂雄

2008年にリーマンショックを起こし、翌年はどん底の稼働水準でどのメーカーものたうち回っていた。ここまで世界中ダメならば何をやってもどうにもならず、いっそ何も考えない方がいいくらいなのだが、組織というものはどうしてももがきたがる。一番いいのは「この際だからいつもは手つかずの××でもやろう。」という指導者だが、往々にして「このままでは潰れる。何とか売りを伸ばせないか、何かないか。」と提案を求めるのが普通のボンクラ経営者だ。無論できるリストラはやれるだけ「この際だから・・・・。」でやるのは当たり前だが。僕はそういう時は何もしないで、普段目の届かないような現場の隅をかたずけたりしていた。

朝から海外の電話が多かった。やれ、今日の出荷は保留になった、だのナントカが間に合わない、等々。東南アジアに2カ所ほど分工場を運営していて、英語・中国語が日常的に飛び交う状態なのだが、その日は何かが違っていた。そして現地から一本の電話が入った。某国の現場の炉が発火して夜勤明けに火災が発生、消防が出動して1時間以上消火、何とか消し止めたものの現場は封鎖されて中には入れない状態で被害全体は把握不能・・・・。

至急幹部を集めたのだが呆然としている。思いつくままにボードに項目だけを書き出させて『納期・バックアップ能力・製造移管・人員応援・損害・保険・・・・』といった縦軸が羅列される。横軸には『シェア低下・信用喪失・棚卸し』と続くがその右側の対策の欄までは埋まらない。僕自身が企画し、手塩に掛けて育ててきたこの工場の将来に暗澹たる思いが沸き上がってきた。

「直ぐに現地に行ける奴はいないか、今からだ。」

思わず口をついた。が、顔を上げる奴はいない。我慢比べだ、全体の気迫が迫ってくるまで指名するわけにはいかない。普段おとなしい設備部長がそーっと目を上げてくる。そうこなくては。

「わたしが、行ってきますか?」

するとその隣に座っていた製造部長も「私もいきます。」と言う。お前の方はどうでもいいんだが、猫よりは役に立つか。早速手配した。さすがに夕方のフライトは取れず、香港経由も検討したが結果翌朝一番となった。

とにかく現地の状況を逐一確認しなければ、僕の独断で現法社長の携帯との間に情報を一本化し、1時間おきに連絡させることに指示。他から頼まれたり聞かれたりしても回答することをやめさせた。幸い犠牲者、怪我人はいないらしく、最悪に事態はまぬがれたようだが、全体把握は遅々として進まない。「中には入れるようになったが電気がつかず、何がどうなってるのか分らない。」「明け方のクルーは消防のインタヴューを受けていて原因は分らない。」「クリーン・ルームには入れない。消防の水が溜まっていてプールみたいだ。」「油の臭いがひどい。」入る連絡はこちらの不安をかきたてるものばかり。

ここで解説だが、日本では工場火災などが起こると警察の現場検証等で操業などできっこないが、某国では警察が調べるのは故意かどうかだけで、事件性がなければ無罪放免であとは消防の原因調査があるだけ。それもいいかげんなものらしい。

出荷明細を、某国の本日分のデータを取り込んで明細を打ち出させてみると、この不況下にして東南アジアの大ユーザー(某国含め3カ国)向けのデリバリーが目白押しで、国内第一・第二工場をフル稼働させても絶対に間に合わないことがはっきりした。この大ユーザーは我々のシェアが高く、このままでは製造ラインがストップする。間の悪いことに営業担当取締役は台湾に出張していて一週間は帰ってこない。その大ユーザー(米系)には正直に火災を起こして一週間程度は納期が混乱する、と伝える決心をした。しかし一週間後の納期といっても殆ど無茶なものであり、今後の増産対策はこれからだ。結果は今日中には出ない。なにしろ人減らしをしたばかりなのだ。

夕方になって今回の事故報告の第一報が文書になった。ここはさるメーカーの新規材料部門が独立した分社で、普段は放って置かれているが何かあるとヘッド・クォーターが箸の上げ下げまで口を突っ込んでくる。まずは知らせなければならない。6月23日のことだった。

翌24日(水)は久しぶりに朝から現場のミーティングに出た。いずれにせよ現場には相当の負荷がかかるため是非自分の言葉で協力を願いたかったからだ。定例報告のあと一気にまくしたてた。

「知っての通りアジア拠点で火災をおこして被害は甚大だ。復旧は見当もつかない。この第一工場よりも生産規模が大きい現場がダウンしたんだ。ムチャは分っている。だがここでユーザーのラインを止めたら現地は潰れる。みんなで助けてやってくれ。」

車で1時間ほど離れた第二工場にも直接駆けつけ、こちらは昼食後全員を食堂に集めて同じことを吠えた。たった3月前に長年勤めていたパートタイマーにお引き取り願い操業シフトを落とし、更には海外生産シフトを進めた矢先である。人が足りないの大合唱だ。第二工場の空きスペースを転用・運転再開をその場で決めた。恥をしのんでの派遣・応援要請もついでに決めた。3ヶ月予測も原則論も何もない。

第一工場に戻るとやっと被災現場に入れた現地スタッフから生々しい写真が送られてきた。天井は焼け落ち、炉の設置場所は真っ黒焦げ、屋上の梁は高熱で波打っている。フゥーッとため息が出た。

ソナー・メンバーズ・クラブのHPは http://sonarmc.com/wordpress/
をクリックして下さい。

製造現場血風録ー補給・兵站

製造現場血風録ー全力疾走

製造現場血風録ー復興

製造現場血風録 (開発の蹉跌)

Categories:製造現場血風録

▲TOPへ戻る

厳選動画のご紹介

SMCはこれからの人達を応援します。
様々な才能を動画にアップするNEXTYLEと提携して紹介しています。

ライフLife Documentary_banner
加地卓
金巻芳俊