Sonar Members Club No.36

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春夏秋冬不思議譚 (終わらない電話)

2013 NOV 7 21:21:22 pm by 西牟呂 憲

 ある平日の昼下がり。関東地区の某駅でJRに乗った。折り返しの電車なので座席はスカスカ、一両に一人位しか乗って居らず、出発までは15分ほどあっただろうか。乗った車両もオレともう一人のおばさんが離れて座っているだけだった。何やら声が聞こえてくるので人もいないのに、と思ったらおばさんが携帯で喋っているのだった。離れているし特に気にもならなかったので本を読んでいた。2~3分経った頃、突然おばさんは激高して『普通しないでしょう!』とまくしたてた。どうも何かに怒っているようなのだ。それでもまァ人もいなけりゃ電車も動いてもいないのでホッタラかしにしていた。しかし声の大きくなった分耳に届いてくる。『私の個人情報が漏れたかもしれないんですよ!』そりゃ大変だろうな、と深く同情したが只ならぬ声色に変りつつあるのが気にはなって来た。まだ誰も乗ってこない。『ですからね、私の家に留守電で残ってたんですよ!』オイオイ、うーむ、発車まであと10分くらいかな。自然と目が行った。おばさんは俯きながら喋っているのだが、『ですけどね。』等と言う時に激しく身をよじる。その度にだんだん椅子からズリ落ちるように体が横を向いていくのだ。マズイ!目が合ってしまった。

 おばさんはその後電話を切られてしまったようで、暫く(30秒位)黙っていたが又すぐに話し出した。『失礼じゃ無いですか!』リダイアルしたようだ、これはヤバイかも。電車はまだ出ないし、隣の車両も誰もいない。うるさくなってきたので移動した。これは何かオレの方が損したようではあるが、怒鳴りつけたりケンカになったり(まさか)しては面倒なので隣の車両の端っこまで行って又ページを開いた。しかしこんなに空いていてはJRも元が取れないのでは、等と余計な心配をしているうちにやっとベルが鳴って動き出した。すると突如『何度も言ったじゃないですか!』の声が車両中に響き渡った。思わず見据えるとあのおばさんが憤怒の形相凄まじく携帯で話しながら車両を移動してこっちに向かって来るではないか、ウソだろう。しかも僕の前まで来て素通りするかと期待していたら、何故か斜め向かいくらいの所に座ってしまった。オレは心の底から引きつった。

 どうも相手が変わっているらしい。『だって留守電にまで残されたらよっぽど大事な用事だと普通思うでしょう!』それはそうなんでしょうが。又車両を移るのはもうアホらしく思え、更に目的地まで(後40分くらい)前に座っているのも我慢できそうもない、と一人焦った。よく聞いていると(聞きたくもないが)どうやら電話勧誘が留守電にあったらしくそれにバカ正直に名前を名乗って電話を返したことがアタマにきているようで、同じことを繰り返し怒っているのだった。さっきまでの相手はその勧誘者で、今はどうやら市民相談室とかその類の苦情窓口のようだ。

 以前にちょっと違うケースだが、女の子にやさしく『人が多いんだから携帯はやめなさい。』と注意して痴漢呼ばわりされたことがあった。危機一髪・一触即発だったのだが、その時は他にも人がいて『この人はズッとここから動いてなかったじゃないか。』と一喝してくれて助かった。今日はこの車両には僕とおばさんしかいないから、言わば絶体絶命のピンチだ。早く次ぎの駅についてくれ、と祈るような気持ちで本を読み続けた。いや読むフリをしていた。

 窒息でもするのじゃないか、という緊張感の頂点で電車は駅に滑り込んでくれた。助かった。さぁ、誰でもいいから乗ってきてくれ。と、ドアが開いた瞬間、おばさんは『もういいです!』と言い捨てて携帯を切ると電車から降りていってしまった。何だ、このオチは。その駅から数名の乗客が乗って来たのだが、その人達は唖然としたオレのバカ面を見たことだろう。車両が動き出してホームを歩いているおばさん見えた。その姿に心の中でそっと呟いた。

「おばさんご苦労さん。あんなに時間をかけて電話して、タダじゃないんでしょ。」

「今日電話した?」という新手の迷惑電話

雑感 話さない会話 突然思い出した事など


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Categories:春夏秋冬不思議譚

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