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埼玉水滸伝 (埼玉のウララちゃん)

2013 NOV 25 15:15:48 pm by 西牟呂 憲

 前回書いた埼玉事業所の話の続き。秩父の麓は交通の便はイマイチで、東京の吉祥寺から毎日電車通勤することはできない。車だと関越自動車道なのだが、毎日ともなれば通勤費がベラボウになってしまう。近くにアパートを借りている単身赴任者もいたが、僕の場合必ずしも毎日住むわけではないし(会議とか出張)、土日は家に戻るので、色々と安いところを工夫した。まず住んだのは、バブルホテルのような自称ビジネスホテルで、なかなか快適だった。なにしろガラガラでおまけに大浴場まで付いている。そこにほぼ毎日一人で入っていたのだが、しばらくして気付いた。面倒だからかコスト削減かは知らないが、滅多にお湯を代えないのだ。それが分かってからは、負けるものかとばかりに一人で十人分くらいのお湯を消費して循環に努めたものだった。まずいことにそこにはスナックが併設されていて、そこの従業員と仲良くなったもんだから連日カラオケを歌いまくって金がかかってしょうがない。しかしフィリピンや中国の研修生を何人も一月くらい泊めていたこともあって、僕は重要な顧客NO2だったらしい。何かの地方イベントがあって珍しく満室になった時は、一人で20畳敷の宴会場で寝かしてくれたりと便宜を図ってくれた。NO1は誰かと言うと謎のお婆さんだった。この人とは何度もすれ違ったが一度も挨拶はおろか目も合わせない。フロントのオネエチャンに聞いたら、月に一回だけ現金で30万持ってきて「これで今月もお願いします。」と言うだけだそうで、値切りも何もせず、昼間は隣のフアミレスに一日中いるらしい。ネット予約でその三分の一以下の支払いしかしない僕は恐れ入るしかなかったが、きっと大金持ちの未亡人で息子の嫁と折り合いが悪いから生きている間にできるだけ金を使ってやろうとしていたのじゃないだろうか。それなら僕に言ってくれればいくらでもお手伝いできたのだが、口も利かないのじゃどうにもならない。しかし周りに観光資源が何も無いのだからホテルの経営は苦しいに決まっていて、支配人はペットと泊まれるように中庭のスペースを改造したり、夏にはバーベキューの場所にしてみたり、と色々悪戦苦闘するのだが、武運拙く潰れてしまった。

 次に根城にしたのは近隣のゴルフ場のロッジ。これまたバブルの後遺症から抜け出せないような、ゴルフ客、併設するテニス・コートの客を当て込んだプチ・高原ホテルの体裁だが、やはり気の毒なくらい客がいない。もっとも客室も五部屋くらいしかなかった。テニスのコーチも兼ねている支配人はヒマそうにしていて、しまいには業務用の冷蔵庫も自由に使わせてくれたので、山のようにビールを持ち込んで一緒に飲んだりしていた。同時に先程の潰れたビジネスホテルの道路沿いに、こちらは工事の長期宿泊者等が泊まるアト・ホームなビジネス・ホテルも見つけた。そこはサウナが付いていて、汗を流すのに快適だった。かわるがわる泊まってみたり、週別に住み分けたりして暮らしていた。

ロッジの方はゴルフ場の中なので、街から反対側に10分程車で行く。その辺は水利が悪く田圃はできない。昔であればお蚕のための桑畑だったと思われる。現在では造園業・ゴルフ場に変わり、そして牧場があって肉牛乳牛を育てていた。これはやはり匂いがきついので、人家が無い所が絶対条件だが、隣にはなぜかヤマギシ会の農場が広がっていた。ヤマギシなんかまだあったのか。毎日通っているうちに牛舎の脇にポニーが繋がれているのに気がついた。オスのほうは良くいなないて暴れたりするが、メスの方はトボケた顔してジッとこっちを見るので、車を降りてしばらくにらめっこをしたりして遊ぶのが日課になった。そのメスはひたすら雑草を食べているか、ジーッと何かを見ているかのどちらかで、時間が止まっている風情。ある日農作業の帰りの牧場の人(家族経営らしく揃いのツナギを着ていた)が「あら良かったわね、遊んでもらってるの。」と言って通りすぎて行った。一瞬僕に向かって言ったのかと思い憮然としたが、考えて見ればあれはポニーに言ったのだ。ポニーのメスはウララちゃんという名前だと教えてくれた。

草を食むウララちゃん

草を食むウララちゃん

 全く手の掛からない家畜のようで、牧場周りの雑草刈りに、この辺で一週間、あっちの方で一週間、といったローテーションで繋がれているようだった。しかしこの子、生まれてから雑草しか食べていないらしく一度コンビニで買った人参をやったのだが、全く興味を示さない。翌朝見に行ったら蹴飛ばして遊んだようで、端っこで踏みつぶされていた。馬の目の前にニンジンをぶら下げて、という表現があるが、ニンジンが食べられるということを知らなければ何の役にも立たないことが分った。面白いことにすぐ側で暮らしていながら、大勢の乳牛・肉牛とウララちゃんはお互い全然干渉しない。まだ牛達の方は、僕なんかが歩いて寄っていくと珍しそうに興味を示すのだが、ウララちゃんはウンでもなければスンでもない。同じ馬でもサラブレッドに比べるとはるかに頭は悪いようだった。それでも毎日会っているうちに僕の顔ぐらいは覚えたらしい。「ウララちゃん。」と声を掛けると、パカポコと歩いて来るようになったので頭を撫でてやった。少しは嬉しいのか目を細めていた。時間の止まっているウララちゃんと夕日を眺めていると昼間の仕事上の会話がつくづくアホらしい。というのも僕が普段業務で使う言葉は、80%が相手に理解させることに費やされていて、20%ぐらいが自分が分らないことを質問しているのではなかろうか。前者が指示を出す時で後者が報告を受けている時だ。そこにはあまり楽しみとか喜びの入る余地はない。人間同士が仕事を通じてつきあう、ということはどうもそういうことで成り立っているようで、僕とウララちゃんの関係のように、お互いを理解し合う必要が全くないと会話は不要になる。これだけメールだスカイプだと通信手段が発達しているのに会議の数は減っていないではないか。人間同士の付き合いとは愚かでイヤなものだな、とウララちゃんにテレパシーで伝えてみたら、思った通り、そうそう、と返事をしてくれた。

ポニーの目に 何映るかと 我問えば

答えパカポコ 時は流れぬ

埼玉水滸伝 (埼玉の木枯らし)

ホンキー・トンク・ウィメン 歌詞取り 埼玉にて


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Categories:埼玉水滸伝

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