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実験ショート小説 アルツハルマゲドン(オレは誰なんだ!)

2014 MAR 24 17:17:37 pm by 西 牟呂雄

暑い、胸のあたりに汗の粒ができて流れ出すのがわかる。しかしここは何処なのか。気がついたら砂漠の中を歩いているではないか。そしてどうやら一人ではない、何人かが後から同じように歩いてくるのがわかった。うしろの人影を見やると、何と野戦服を着て突撃銃を持っているではないか。「コントゥレ・ヴー・ムッシュゥ。」フランス語だ。よくわからないが、戦うといっているのじゃないか。鋭い目でオレを見ている。オレはというと、と気がつくとアッと驚いたことにこっちも野戦服に銃を装備している。それは知る限りではフランス外人部隊のものだった。そしてオレは先頭に立って砂漠の中をただ歩き続けているこの小隊の指揮官なのかも知れない。どうしてなんだ。

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突然意識が目覚めるとベットに寝ている、痛みはない。自宅のベットではなさそうだ。一人でシングルベットに寝ているのだが、ホテルのベットとも違う。ここはどこだ。壁も天井も白く塗られていて家具は無い。わかった、ここは病院なのだ。どこか悪くしたのだろうか、それとも怪我か。まだ目が覚めたばかりのような感覚で、全身が麻痺している。試しに手足を動かそうとしても、どうやら動かないようだ。どこかで障害を負うような目に合って担ぎ込まれたのかも知れないが、オレにはわからない。日付や時間が知りたくて目を動かすのだが、のっぺりした壁があるだけ。窓があるのだが、ベットからは外の景色が見えない。どうも晴れていて外は明るいようだ。いつからここにいるのか、いつまでいることになるのか。

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砂漠に這いつくばって、必死に何かに耐えている。息苦しい。後ろから叫び声が聞こえてきた。「ルオンズ・ジュェン!」何のことだ。風もそう厳しくないのにオレ達は砂に伏せているのだ。前の方で何かが起こっているようなのだがわからない。わからないが必死になっていることは確かだ。又、叫び声が聞こえる。「ルオンズ・ジュエン!」オレも叫び返した。『6月11日がどうしたんだ!』どういう訳か突然フランス語を理解したのだ。だが不思議なことに喋ったのは日本語だ。「3月11日と9月11日の真ん中だからルオンズジュエン(6月11日)。」あの忌まわしい9.11と3.11とこの状況に何の関係があると言うのか。オレはテロとは関係ないし、被災こそしなかったが被害者には手を差し伸べた立場だった!それにこの白人の兵隊、日本語も分かるのは何故だ。きょうは2014年6月11日のようだった。

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オレはベットに座っている。目の前のベットに被さるような移動テーブルを見ているのだが、そこに乗っているのは、どうやらオレの足のようなのだ。足の脛から下の部分が二本、置いてある。あわてて自分の足を見ると、確かに膝から下がない。何かの事故に会って手術でも受けたのだろう。痛みも何もないのは時間がずいぶん経ったからか麻酔が効いているからなのか。その自分の足を手にとって見たが、思ったより軽くて驚く。こんな程度でオレの体重を支え、なおかつ走ったりしていたのか。試しに膝の下に当ててみた、それがくっついていたことを確かめるように。すると切れ目のところは包帯でグルグル巻きにされているにも関わらず、ぴったりくっつく感じがして、やはりオレの足だったことは感覚として蘇った。もともとがそうであった時を思い出すように、丁寧にその足を押さえて、それが足だったときの、すなわち立ち上がるときの動作をしてみようとした。

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前のほうから砂丘の砂が崩れ出してきているようだ。這いつくばっている高いところから見える先の方から、音も無くずり落ちていくのが見え出した。一体なにが起こっているのか後ろの兵隊に確認しようと振り返ると、その兵隊は「スペクタークル!」と叫んで立ち上がってしまった。オレも急いで立ち上がってみると、何とオレとその兵隊の二人だけになっているではないか。前方の砂崩れは続いていて、それはドンドン近づいて来るのだが、砂埃が上がるわけでもなく音もしない。そして風景の向こうに高層の摩天楼が林立している街が見えてきているではないか。オレ達はコンバット・ゾーンにいるのじゃなくて、災害に合っているようだった。

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結局オレの足はしっかりとは付かないのだが、バランスを取りながらソッとやってみると立ち上がることも出来そうだった。やってみるとまるで球乗りの曲芸をやっているようだが、歩くことは歩ける。ギクシャクと病室の外に出ようとした。自分の足が外れてしまわないように、足元を見ながら何とかドアまでたどりつくと、目線の高さのところは30cmくらいガラス張りになっているので外の廊下が見えた。看護師さんが歩いている。突然男がヌッと覗いた。グレーのスーツに紺のネクタイを締めているので、医者や看護師ではなさそうだが、オレと目が合った。見ると良く知ってる顔なのだが誰だか思い出せない。男はオレにドア越しに怒鳴った。「勝手にウロウロしちゃだめじゃないか!」この男は誰なんだ。

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砂崩れが迫ってきた。その向こうから見えてきた街の低さから、推定100m下まで崩れ落ちていっているのではないだろうか。後ろに立っている部下(らしい男)の双眼鏡を引き寄せて覗くと、5kmくらい先に確かに街、それも全体がブルーの光を反射しているビル群があるのだ。そうこうしているうちに、砂崩れが真近にせまってきた。まずい、と後方転進した。すると何故か今まで気がつかなかった、棒高跳びに使うようなポールが突き出しているのを見つけた。「オイッつかまれ!あの棒につかまれ!」と言って必死に走った。部下(らしい)兵隊もオレも足を取られながら、跳び付くようにつかまった。途端に足元の砂はサーッと崩れ落ちて行き、まるで氷山が崩れ海に吸い込まれるような感じで、ポールに掴まっているオレ達は宙に浮いていた。そのポールは廻りの砂が(どこに流れて行ったか分からないが)崩れ去った後も不思議そのままで、下を見ると遥か何十mもの高さでポツンと立っているのだ。

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この男よく見るとオレに似ている。いやむしろそっくりだ。ただ、唇がやけに赤く、どういうつもりか部屋に入って来るではないか。「何回言ったら分かるんだ。部屋から出てきちゃだめだろう。又転んだらどうするんだ。」ずいぶんな剣幕だが、一体何者なんだ。気が付くと入り口の横に洗面台があって鏡が付いていたので目が行った。するとやけに老け込んだオレが映っているではないか。いつの間にこんなに年をとったのか。先ほどの男を見やると、男は困った顔をして言った。「もうすぐ食事の時間だからベットで待ってろよ。」どうしても分からないので、とうとう口に出して聞いてみた。「君は一体誰なんだ。」

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二人も掴まっているので、危なげに立っていたポールがしなり出した。高さが高さだけに空中を浮遊するようで、どうも前方に見えている街のほうに倒れていく。スピードが上がってくると何と街のすぐ上に達した。高層の建物がよく見える。ビルの間を漂うように浮いていたが、しなりの反動が来てまた体が上昇を始める。気が付くともう一人の部下(らしい)男はずっとポールの下の方に伝い下がっていく。「大丈夫かー。」と声をかけると「サ・ヴァ!トゥ・ヴァ・ビァン。」と答えた。このまま掴まっていると手が体重を支えられなくなると考えて足をポールに絡ませてしがみついた。かなりの高さまで戻った時に良く見廻してみたが、何とさっきまで這いつくばっていた砂丘が全く無くなっている。崩れてどこへ行ったと言うのだ。

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「又それか。オレはあんたの息子だって言ってるじゃないか、いつも。まぁすぐ忘れるんだろうけど。」息子、息子がいる。一体どういうことだ。恐る恐る質問した。「今日は何日、待てよ、何年何月何日だ。」男はフーッと息を吐いて「2016年12月11日だよ。カレンダーがあるだろ。」と壁を指して言った。確かにカレンダーが張ってあり12月だ。日付のところに10日の所までチェックが入っていて11日からはない。過ぎた日を消し込んでいるのか、と理解した。オレは記憶が無いのか、2016年とは。混乱しているオレを見て男はあからさまに嫌な顔をした。しかし息子がいるということは、誰かと結婚して(してないかも知れないが)家庭を持つなりして暮らしていたはずだが。恐ろしくなったオレはフト気が付いた。ついさっきまで苦労していた足取りが何ともなくなっていて、見下ろすとなんの不自然さもなくちゃんとくっついているではないか。あの感覚は何だったのか。記憶をたどろうとしたときに、フト引っかかったのは2014年6月11日という日付だ。その日に何をしていたのか。

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又ポールのしなりが始まった。さっきよりしなり方が大きく弧を描いているらしく、もっと遠くの建物のほうに落ちていく。ほとんど真横にって、オレは手長猿が木の枝にぶら下がっているような恰好になってしまった。ある恐怖感に駆られた。このままではいつか力の限界が来て下に叩きつけられるのではないか。そう思った瞬間、ある建物の屋上が目に入った。正確に言えばぶら下がっているから頭の方の視界に入った。今だ、とばかりに脚を解いて手だけでつかまり、ポールがしなり切った時点を見計らい、離した。オレの体はストンといった具合で落ちた。まことに不思議な感覚でスーッと屋上に立ったのである。

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「とにかくおとなしくしてないと拘禁されちゃうぞ。昨日は屋上でうろうろして大騒ぎになったじゃないか。」何の話だ。オレは昨日のことが分からなくなってしまったのか。昨日は、昨日は、昨日は・・。待てよ、部屋には備えつけの机があってメモ用紙が散らばっている。3枚の紙片に日付が書き込んである。2001.9.11・2011.3.11・2014.6.11と書いてある。初めの日付はあの恐ろしいテロ、次は大災害の日だ。その次はかすかに記憶があるが、何だか思い出せない。きょうは、息子と名乗る男から2016.12.11と聞いたので、新しいメモ用紙に『きょう』の日付を書き込んでみた。その男はオレのその様子を見て部屋から出て行った。オレは4枚のメモ用紙を穴の開くほど見つめた。少し計算した形跡が細かい字で書いてあるが、何かを計算していたようだ。どうやら考えたのは数列のようだった。0から9までを並べてその整数の出現頻度別に0が5個、1が14個、2が4個あとは3、6、9と続く。なんの関わりも見出せない。整数を合計したり、0の前後を加減乗除しても何もない。今みても分からないのだ。

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腰から下はドローンとした歩き辛い、やけに生暖かい水温の沼地をそろそろと歩いている。数名の人がオレの後からついてくる。一体ここはどこだ。足が取られるので一歩一歩進む。頭上には南国の高い太陽が差しているが、蒸し暑さが感じられない。オレは手に磁石を持っているのだが、何処へ向かっているのか。それよりもいつからこうしているのか。振り返ると精悍な鋭い目付きの迷彩服の男達がM-16ライフルを持っているではないか。ギョッとして言葉を失った。5人いてこっちを見ている。白人二人、黒人一人、東洋人二人。何かを言わなければならないようなので、小声で言った。「今日は何年何月何日だ。」すると一番前の若い白人がきっぱりと言った。「トゥーサウザン・トゥエニィ・シックス・デセンバー・エレヴン。サー!」2026.12.11・・・。オレは一体誰なんだ。

 

夢のアルツハルマゲドン 


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