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サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる 人呼んで「少年ランブル団」 (196X年 小学校編)

2015 JAN 9 20:20:02 pm by 西牟呂 憲

 『AからB,Cへ。本日の集会は例の場所で行う。Bはサンデーを、Cはマガジンを持参。』
 授業中に紙が回ってきた。なにやら怪しげだが、僕達は秘密組織「ミッドナイト・ランブラーズ」略して、少年ランブル団、を結成していてA,B,Cはそのコード・ネームだ。
 Aこと英(はなぶさ)元彦。Bは僕、原部譲(バラベゆずる)。Cが椎野茂(しいのしげる)の3人だ。
 名前は物知りの元彦がつけた。ウエスト・サイド・ストーリーとか言う映画に、アメリカのチンピラがグループにナントカズと名前をつけていて、それを字幕ではナントカ団、とかいてあるのだそうだ。元幸や茂にはアニキがいて、流行の音楽やら映画のことを良く知っていて教えてくれる。自分は見てなさそうだけど。
 ミッドナイト・ランブラーズ、少年ランブル団、どういう意味かは忘れた。そして何を今日するのか、というと3人で集まって僕達の間では欠かせない、少年サンデーと少年マガジンに少年キングを回し読みするのだ。ランブル団が結成されてから、それまでそれぞれ別に買っていたのがいかにももったいないので順番を決めて買い、回し読みをすることにしていた。教室は漫画禁止なのでどこかに隠しておく必要があり、それが ”例の場所” である。校内だが言うわけにはいかない、秘密の場所だ。6時間目が終わって集まった。
 「誰にも見られてないな。」
 「もちろんだ。」「抜かりない。」
 「よし。」
『伊賀の影丸』『おそ松くん』。暫く皆で読んでウチに帰る。帰り際に大将格のCが、
 「それじゃあ、誓いの言葉だ。(間を取って)ひとつ、ランブル団のことは決して口外しない。他人の前でコード・ネームで呼ばない。」
 「(僕)ふたつ。ランブル団は仲間を決して見捨てない。敵に当たるときは全員力をあわせる。」
 「(A)ランブル団は秘密をつくらない。互いにウソはつかない。」
 「(全員で)裏切ったら除名する。生涯裏切り者として地獄に堕ちよ。」
 「よし。」「よし。」「よし。」
 何がよし、だか分からないが、僕達は大変満足した。
 6年2組は、うるさいクラスだ。授業中もザワザワしていてよく先生が怒る。そして、一番うるさいのは実は僕だ。とにかくなぜか授業が退屈で退屈で窓の外を見たり、いたずら書きをしたり、それでもダメで隣をつついておしゃべりしてしまう。なにしろ二人机でくっついているんだから、初めはいやがっていてもしまいにひきずり込まれているうちに、どんな真面目な奴も僕の隣に座るとみんな成績がガタ落ちになってしまうらしい。一度は母さんがPTAの会合でこっぴどくやられたらしく、その分僕はこっぴどくが10個つくくらい怒られた。
 それはどうでもよいのだが、ある日突然席替えがあった。そして結果からいうととんでもないことに、クラスで一番美人でかつ秀才の女の子の隣にさせられてしまった。そしてランブル団は、元彦(A)は小柄なので前の方、茂(C)は左の後ろの方。僕は大好きな窓側から遠く離された廊下際の後ろ、と三角形のようにバラバラにされてしまった。もう授業中に秘密指令を廻すことができなくなった。何しろそれまではA・B・Cの順番で縦に並んでいて(それでコード・ネームを決めた)だからこそ誰にも知られずにランブル団のメモをやり取りできたのだ。
 その隣になった子、出井聡子さんは学級委員で先生の信頼厚く、運動神経抜群でかつクラスで一番かわいい。全く僕とは正反対のやつなのだ。今まであまりしゃべったこともない。まいったなあ。
 新しい席では僕は警戒していたのだが、出井さんの方は少しも変わらずニコニコしてくれたので安心した。『しゃべりかけないで。』なんて言われたらどうしよう、と思っていたのだ。それどころか、随分親切なので驚いた。僕は宿題を忘れるのもしょっちゅうだが、そんなもんじゃなくて定規やコンパスとか、もっとひどいときは教科書とか筆箱とか致命的な忘れ物もする。翌日に早速算数の教科書をやっちまった。しかも授業が始まってから気がついたので、どうにもならない。するとうろたえていたのに気がついた出井さんが、教科書をスッと机の真ん中に押し出してくれた。えっといった感じで目があったが、相変わらずニコニコしていて、僕はドキッとして、お礼も言わなかった。
 席が離れたので、秘密文書は授業中には廻せない。休み時間に3人で喋っている時に『おいこれ秘密文書。』といって渡すのだが、3人で喋りながら渡してその場で見るのはあんまり秘密っぽくない。口で言っても同じじゃないだろうか。
 秘密の場所で漫画を交換した後、突然元彦が
 「おい、B,新しいおとなりさんはどんなだ。」
 と切り出した。
 「どうって、出井のこと?」
 「そうだよ。」
 「よくわかんない。真面目な子だよ。」
 「そんなこと見りゃわかる。何か他にないのか。趣味のこととか。」
 「分かるわけないだろ。口きいてもらえないんだから。話なら、C、お前時々話してるじゃん。」
 「そりゃ話すけど、オレあいつ苦手だ。」
 「そうだろうな。相手は学級委員だもんな。」
 「オレ達のことなんかバカにしてるだろうな。」
 「だってされてもしょうがないよ。バカなことばかりしてるんだもん。お呼びでない。」
 「これまった失礼いたしました。」
 「そうだ!出井が誰のことが好きか、B、お前調べろよ。」
 「シエーッ。無理だよそんなこと。口もきいてないのに。」
 「だーかーらー、そこは頭を使え。何となく名前をだして表情を見るとか。」
 「オレ無理だよ。お前等のほうがいいよ。」
 「だーめ。」「だーめ。」
 結局調べるってことになったみたいだが、最後に3っつの誓いを斉唱して帰った。
 さて、頭を使えといわれてもどうすりゃいいのか分からない。わからないまま1週間が過ぎた。その間多少わかったことは、まず出井さんはピアノを習っていてものすごく上手い。実は僕も習っていたのだけれど、バイエル、ハノンを終えた時にやめた。出井さんはその上を更に行っていて、レッスンのあるらしい日にピースを広げたりしていた。曲名は知らないが音符の数のベラボーに多い曲だった。女子の間でも人気者というか、輪の中心的存在なのだけれど、あまり喋るわけじゃない。周りがケラケラしているときに、フッとニコニコ顔が消えていく時があって、何か本人が消えていってしまうような感じがした。
 ここ東京南部は区はでかいが、大きく分けて『浜』側と『山』側と言っている。高級住宅街と下町が隣合っていて、我等がE小学校はちょうどその真ん中だ。生徒は両方から来ていて、だからごった煮みたいに色んな奴がいる。僕達は言うまでもないが。
 ある日、抜き打ちの小テストがあった。ウチの担任の山田先生は自分で問題をつくって時々突然テストをする。この日は国語だった。漢字の書き取り、読み、その後文章題があった。教科書に出ていた物語が載っていて、主人公がどうしたこうした、を20字以内で書け、とか『それは』はなにを指すのか、といった問題があった。僕は鉛筆の持ち方が変なので、もちろん字はめちゃくちゃヘタだが、左手をこめかみに当てて肘をつき、かぶさるように字を書くクセがある。そうしているうちにその物語の続きがどんなもんか、が頭に浮かんできた。なにやら、面白いストーリーが浮かんでニタニタしているうち、フッと眠くなった、というか一瞬眠ってしまったか。
 「はい。お終い。鉛筆を置いて。後ろから前に出して。」
 同時に、キーンコーンーカーンコーン、とチャイムがなった。しまった!何にも書いてない!あー、全く!そしてテストが後ろから集められてきたので、ヤレヤレと自分の分を出した。その時、隣の出井さんの答案が見えた。さぞよくできてるんだろうな、と思ってチラと目をやると、何と!何にも書いてないじゃないか。息を飲んで目を上げると、ニコニコしている出井さんと目が合った。
 「よく寝てたみたいじゃない。」
 こっ、こいつ。一体何者なんだ。
 早速山田先生が、『原部と出井、放課後ちょっと職員室に。』とお達しがあった。事情を知らないみんなが囃し立てた。違うんだってば。六時間目が終わって、ノコノコ職員室に行った。いや、正確に言えば、出井さんについていった。山田先生、通称ヤマダンは怒っていた。
 「お前達、二人そろってどうしたんだ。何か理由があるなら言ってみろ。」
 先生がこっちを見るので、僕が口火を切らざるを得ない。
 「あのー、ですね。えー、文章を読んでいるうちに、フト、フトですよ、この主人公が5年後にどうな
るのかを考えたらですね、そのー、止まんなくなっちゃって、あのー時間がなくなりまして、」
 「バカモン!時間がない、じゃなくて寝てたじゃないか。」
 「エッ、先生見てたんですか。じゃどうして起こしてくれなかったんですか。」
 「バカ。試験だぞ、全く。集中しろ!出井はどうした。」
 「わたしはこの作家、ナントカカントカは認めてないんです。」
 「ホオー。どういうところがだい。」
 こっ、こいつ。一体何者なんだ。先生と出井さんは訳のわからない話をして、最後は先生が折れ『まあとにかく試験は真面目にやるもんだぞ。』といって終わった。出井さんは僕を見て、
 「原部君、おもしろいね。」
 とニコニコして言った。訳わかんないのはそっちの方だよ、と僕は心のなかでつぶやいた。      

つづく

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