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サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる 僕らの秘密基地 (196X年 小学校編)

2015 JAN 10 8:08:58 am by 西牟呂 憲

 秘密集会でマンガの廻し読みをし終わった頃、茂が聞いてきた。
 「おい、B。出井が好きなのは誰だか分かったのか。」
 「分るわけないだろ。聞きようがネー。」
 「だから教えたろ。名前出して顔色を伺うんだよ。」
 「ああ。やってみたけどだめだった。」
 「赤くなったりしなかったのか。一体誰を出した。」
 「AとC。お前ら。」「バカ!」「バカ!」
 「少しは物を考えろ。現実味ないじゃないか。野球の上手い佐藤とか、勉強のできる鈴木とか。」
 「だけど、違うと思うぜ。あいつ変わってるんだ。」
 「変わってる?クソ真面目じゃないの。」
 「あれはワザとやってんだよ。目立つことが大嫌いみたいだよ。」
 「オレわかる。だってこないだの国語の試験、何にも書いてないんだぜ。あんなにできるのに。」
 「できるけど逆を行った?不思議な人だな。」
 「それで職員室行きか。Bは何でだ?一緒に呼ばれてたじゃん。」
 「オレは出井さんをよく監視するようにヤマダンに頼まれたんだ。」
 「バカ!」「バカ!」
 それから誓いの言葉を3人で唱和して、帰ろうと講堂の裏手を回った。
 驚いたことに、下校する出井さんにバッタリ会ってしまった。
 「アラ、A、B、C、お揃いで集会の帰り?」
 僕達は引きつった。特に僕はあわてた。とたんに他の二人はくってかかった。
 「お前喋ったのか。」「この裏切り者。」「ちっちがう!オレは喋ってない。」
 「アハハ、原部君じゃないわよ。大体君達『これ、秘密文書』とか『今日集会』とか大声で喋ってもうバレバレよ。Aだってその文書とか落としてたし、Cだって『僕らは少年ランブル団』とか口ずさんでるし、アタシもうおかしくて。誓いの言葉だって気をつけないと講堂のなかで聞こえるよ。」
 「あのー、他の人にもバレてんの?。」
 茂が小さい声で言った。
 「大丈夫。今のところ、誰も知らないよ。」
 「あのー、今日の集会で何を喋ってたか、は知ってる?」
 元彦も消えるような声で聞いた。
 「知らないわよ。今日は生徒会だもの。」
 アー良かった。誰が好きなのか、なんて喋ってたのがバレたらコトだった。
 「あのー、秘密にしといてくれないかなー。」
 僕はかすれる声で聞いた。
 「あたしは誰にも言わないわよ。但し、条件がある。」
 「なんでしょう。条件とは。」
 出井さんはニコニコしながら、少し考えるように、小首を傾げていたが、悪戯っぽい目で言った。
 「そうね。あたしも入れて頂戴。」「エッ。」「エッ。」「エッ。」
 「そうしたらあたしは出井だから、D だね。」
 こっこいつ、一体何者なんだ。
 僕達はそのままゾロゾロと秘密の場所に出井さんを案内した。
 「ここかー。まあ、一般には分らないだろうけど、用務員のおじさんは知ってるだろうね。」
 「エッ。」「エッ。」「エッ。」
 何だか僕達はさっきから「エッ。」しか言っていないような気がするが。
 「そのうちこの漫画は根こそぎやられるから、持って帰ったほうがいいよ。それで、この場所は連絡の秘密文書を隠して置く場所に使うんだね。ほら、そこの隅っこに挟んでおくとかさ。そうすれば君達みたいに人前で『ほら、これ。』とか言いながら渡すようなことをしないですむわよ。それで集会をする場所は学校の外に又作るのよ。毎回変えるとかね。」
 ウーム。いちいちもっともなことだ。
 「ところで、ランブル団ってどういう意味なの?」
 「うん、それはだな。」
 やっと、出番が来たっ、といった感じで元彦が始めた。僕には何だかよく分らんが、彼女は『フーン。なるほどね。』等と相槌を打っていた。
 「それじゃ、オレ達がいつもやってる『誓いのことば』も覚えてもらおうか。」
 多少ペースを取り戻した茂も胸をそらせた。ところが、
 「ああ、それなら知ってるわよ。『ひとつ、ランブル団のことは、』ってやつでしょ。」
 「エッ。」「エッ。」「エッ。」また振り出しだ。
 「言ったじゃない。あんな大声でやってるんだもん。講堂できこえたわよ。」
 「・・・・他に誰か聞いたの?」
 「下級生がいて、『あれは何ですか?』って聞かれたから、ボーイ・スカウトだって言っといた。」
 どうにも僕達より上手のようだ。
 「いいこと。これからは秘密結社なんだから、普段はそう仲良く話さないの。秘密の場所にも一緒に来たりしない。連絡を取りたい人が、1時間目の休み時間に秘密文書をそこに挟んでおくの。で2時間目がA、3時間目がB、昼休みがC、5時間目が私。帰りがけに挟んだ人が持ってかえるのよ。それぞれ秘密の集会所を探してきて。それで完璧よ。」
 さあ大変だ。学校以外に秘密に集まれる場所なんて見当もつかない。つかないが、1週間以内に探してみることになってしまった。
 そして1週間後が来た。この1週間というもの、何しろ普段は仲良く話さないことにしたので休み時間に遊ぶ相手に困った。場所探しはもっと困った。同じ町の中にそんなに秘密の場所があるわけがないじゃないか。シケた公園も、パッとしない神社の境内も、地元の奴にとっては秘密でも何でもない。一度は川の土手をウロウロして、同じようにチョロチョロしていた元彦と会ってしまいお互い、困ってんだろうなー、という顔をしながら、『よう。』と言ってすれ違った。
 更に、僕の場合は出井さんが隣だ。まあ、仲良く話すこともないのだが、話さないようにするというのも実に難しいもんだ。いきおい、敬語調になって変なことおびただしい。『それを見せて頂けませんか。』『今、ヤマダンは何と言ったのですか。』と言った具合だ。

 ところで3時間目の休み時間が僕の番だったので、例の場所に行ってみた。すると秘密文書が挟んであった。開いてみると、『Cより全員に告ぐ。集会所の候補地が見つかった。本日4時半に駅改札口に集合。』とあった。なにやらワクワクするじゃないか。
 教室に帰ると、何食わぬ顔で出井さんの隣に座った。相変わらずニコニコしている。彼女は5時間目の休み時間に行くのだからまだ知らない。しかし言う訳にもいかず。
 そして、5時間目の休み時間から帰ってきたが、表情一つ変えずにすましていた。唯者じゃない。
 4時半きっかりに改札に行った。一度家に帰ると出にくいので、図書室で時間をつぶしたのだが、他の3人は一度ウチかえったみたいで、ランドセルを背負っているのは僕だけだった。
 もったいをつけた茂が黙ったままそっと元彦に紙を渡した。元彦は真剣な表情でそれを見ると僕にアゴをしゃくって渡した。『CからA、B、Dへ。切符を買って次のXX駅で降りろ。Aは3両目、Bは4両目、Dは5両目に乗れ。Dはこの秘密文書を捨てろ。』と書いてあった。僕も無言で出井さんに渡すと、彼女は小さく頷いて切符売り場に行った。僕達も無言のまま、買いに行き、無言のまま改札で切符を切ってもらい、無言のままホームに上がり、バラバラになって電車を待ち、そして別々の車両にのって、次ぎの駅で降りた。その後も無言のまま1列になって茂の後をついていった。何か大真面目でこんなことをやっているのがバカバカしいとは一瞬思ったが、誰かが一言でも言ったら笑い出してブチこわしになるに決まっているから黙っていた。
 とある、くすんだビルの中に入っていくではないか。あやしい!3階建ての屋上まで上ると、何と鍵を出して鉄の扉を開けた。屋上は日当たりの悪いビルの谷間で、シケた鉢植えがぞんざいにあって雨よけのシートが掛けてある一角があった。
 「どうだ。ここなら絶対に分らないだろう。」
 茂が胸をそらせて言った。本当にそうだ。よくこんな所を。さすがだが一体どうやって。
 「ここはこの下の事務所をおじさんが借りているんだけど、何かもうすぐ立ち退きなんだってよ。だから暫くこの屋上は勝手に使っていいらしいんだ。だから鍵もオレが持ってる。どこかに隠しておけば皆自由に使えるってわけだ。アッ、それから知ってると思うけどこの学区はF小の地域だ。あそこはやばいからくれぐれもウロウロしたりしてもめごとには気をつけろよ。特にD、お前目立つからな。F小は女子が凶暴なんで有名だから。」
 実際に暮らして見なければ分らないだろうが、下町ではよそ者を入れない。山の手のように駅のまわりの商店街を抜けると家ばかりならば人の集まる場所は限られるが、下町の方は人の住んでる所と人が働く所と変なおっさんやアンチャンがウロウロする所が一緒だ。とにかくゴチャゴチャしているし、その変なおっさんやアンチャンの中には見るからにヤバイのもたくさんいる。そういうのがよく他所から遊びに来ているのにインネンをつけて子供はそれをしょっちゅう見ているから小学生でも縄張り意識が強く仲も悪い。茂はそれを注意しているのだ。
 ともあれいつまであるのか分らないが秘密の隠れ家ができた。この日の誓いの言葉は一段と声がそろっていた。

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる 人呼んで「少年ランブル団」 (196X年 小学校編)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる 月光の誓い (196X年 小学校編)


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