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サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる 月光の誓い (196X年 小学校編)

2015 JAN 12 16:16:17 pm by 西牟呂 憲

 年末は何かと気ぜわしい、というのはオトナの言うことで、僕達小学生には何の関係もない。
 ある日、元彦があわてて寄ってきた。
 「ちょっとこい。」
 「何だよ。」
 「ここじゃマズイ。いいから来い。」
 やけに深刻な顔をした元彦は、僕を屋上に引っ張ってきた。
「連絡に使っていた場所が撤去されるらしい。」
 「エーッ、どうしたんだ。」
 「きょう集会やろうと思って連絡の紙をはさもうと行ったら入れないんだ。」
 「エーッ、なんかの工事が始まるのかな。」
 「わかんない。。」
 「でさー。ともかく今日集会するからさ。オレは何とかCに伝えるからお前Dに言っといて。」
 「わかった。」
 教室に帰って授業中に、ノートの端っこに『秘密の場所に入れないらしい。今日集会がある。』と書いて、見えるように机の真ん中に押し出した。出井さんは特に反応をしなかったが、例によってニコニコしていた。
 授業が終わって帰りに電車に乗って次ぎの駅に行った。ところで国電で一駅行くのも小学生にとっては大冒険だから新しい隠れ家に集会場所が変わってから前のように毎日というわけにもいかなくなった。おかげで伊賀の影丸がどうなったか筋は分らなくなるし困ったもんだ。
 例のビルの屋上に行くと声がする。もうみんな来ていたみたいだ。『よう。』と声をかけながら扉をあけた。すると、元彦がウクレレを弾いて見せていた。
 「どうしたんだ。買ったのか?」
 「兄貴の友達がくれたんだよ。兄貴にギター教えてくれって頼んだら、お前は手が小さいから、小学生のうちはウクレレで練習しろって友達からもらってきてくれたんだ。」
 「へー。それでお前弾けるのかよ。」
 「できるわけないだろ。だから練習してんだ。」
 奴はギターの教本を持っていて、『コード』なるものを練習しているらしかった。
 「それってなんだ?」
 ポローンと弾いて見せて、「コードって言って、伴奏するときに鳴らす和音だな。」
 「あの、牧真二がやってるやつか。『あーーああやんなっちゃった』ってやつ。」
 「バカ、そんなんじゃない!」
 僕の悪ふざけに元幸は機嫌が悪くなってしまった。そしておもむろにズンチャカズンチャカとリズムを刻みながら歌いだした。英語だ!なにを言ってるのかさっぱり分らないが、明るく軽快な歌に思わず体が反応する。何だか知らないが最後の繰り返しのところで、『サンフラン・シスコ・ベイ』と言っているのが分った。
 「お前すげーなー。英語歌えるのか。」
 「兄貴に教えてもらったんだ。レコードの歌詞カードにふり仮名ふってもらって覚えた。」
 「ヘー。お前のにいちゃん英語喋れんの?」
 「お前はどうしてそう世間ばなれしてるんだ。聞いてて覚えたんだよ。」
 「ところでA。なんていう歌なの?」
 「うん。アメリカでヒットした『サンフランシスコ・ベイ・ブルース』ッていうんだ。」
 「ふーん。何かかっこいいな。」
 「オレにも教えてくれよ。そのサンスランシスコなんとか。」
 「ウクレレもやらせろよ。」
 「ところで連絡場所はもう入れない。どうも人が入り込んでいたのが分かって立ち入り禁止になったようだ。」
「これからどうする?」
「しょうがないな。BとDは隣同士だからそこを司令塔にして前みたいにメモを渡すことになるな。」
「バレるなよ。よし、誓いの言葉だ。」

 僕達は奴の言うフオーク・ソングなるものにすっかり夢中になった。
 帰ったあとから、僕はものすごくウクレレが欲しくてほしくて堪らなくなった。
 翌日も、その又次の日も欲しくて堪らず、とうとう母さんにねだった。勿論『ダメ』だの『すぐ飽きるくせに』だの散々言われたが、何が何でも引き下がらなかった。そしてついに日曜になって父さんに自分で言って、ヨシとなったら買っていいまでにこぎつけた。父さんに言うと『まぁいいだろう。大事にしろよ。』といい一緒に買いに来てくれた。バンザーイ!
 買ったらこんどは見せびらかしたくてどうしようもなくなった。早速集会をしようと思って、ハタと気がついた。どうやって連絡しよう。この前に決めておけば良いものを何にも決めてない。どうしよう。とりあえず出井さんに、前やったみたいにノートの端っこに『今日集会やろうと思うけど』と書いて机のあいだに置いてみた。出井さんは相変わらずマイペース。見たのか見ないのかわかんない。
 突如ヤマダンの大声!
 「コラー、原部ー。何ノートもとらずにキョロキョロしてる!」
 「・・・・。」
 あわててノートをたぐりよせた。まずい。
 イライラしながら3時間目が終わってしまった。あーあ、どうしよう、と思いながら給食を食べて、昼休みに3角ベースで遊んで、5時間目の理科の時間になった。教科書を広げると、何かが挟まってる。紙だ。そっと拡げると、丁寧な字で、『私はピアノ。Cもダメだって。Aと直接話して。』と書いてあった。いったいいつ連絡して、いつこの紙を入れたのだろう。全く得体の知れない人だ。
 ともあれ、僕はウクレレを誰かに見て欲しくてしょうがないので、元彦を放課後つかまえた。
 「オイオイ、今日行こうぜ。秘密基地に。」
 「エーッ、皆ダメだって言う話じゃないか。」
 「二人で行こうよ。」
 「だってまだマガジン、サンデー発売してないじゃないか。」
 「オレ見せたいものがあるんだよ。」
 「知ってるよ。ウクレレ買ったんだろ。」
 「エッ!何で知ってるの?」
 「お前もう、見れば分るよ。ニカニカして。最初に気がついたのCだぞ。」
 「へー。分るのか。」
 「ああ。それで見せて脅かそうと思ったろ?」
 「うん。」
 「バレてるのにわざわざ集会やってもしょうがないだろう。それで皆のらなかったんだよ。」
 「なーンダ。つまんねーの。」
 二人で寒い道を歩きながらしゃべった。今度弾き方を教えてくれ、と頼んで分かれた。
 一人になって、つくづく残念な気持ちと、一体どうしてバレたのか不思議だった。そういえば茂はこのごろ、オトナっぽくなった、と言うより子供っぽくなくなってきていた。まあ、立派になったとかしっかりした、というわけではないが僕達とバカらしいことでギャアギャア騒ぐことをしなくなってきていた。元彦にしたって、時々小難しいことを言ったりしている。この前ビックリしたのは、例のフオークソングを英語の歌詞を、かたっぱしから覚えているのだ。意味も少しづつ分るらしいくて『自由』とか『平和』とか口走る。世間ではやる歌謡曲をバカにしているようなのだ。そして二人とも半ズボンははかないで、ジーンズなるデニムの生地の長ズボンを愛用し出した。僕も欲しくなったのは言うまでもないが、まだ買ってもらってない。出井さんはもう僕達より背が高くなっていて、タダでさえ落ち着いているのに最近は、ニコニコはしてるが益々透き通ってくるみたいで忍法「木の葉隠れ」を使う女影丸、といった風情だ。
 冬の日は暮れるのが早い。ウチにつくころには夕日が落ち掛けていた。寒い。
 晩御飯を食べて、大好きなウルトラマンに夢中になって宿題をしたら、フト寂しくなった。今年が終わって三学期になって、その後は卒業しちゃうじゃないか。そうだ、僕達は来年になったら詰襟の制服を着て中学に通うのだ。皆少しオトナに近づく。それなのに僕ときた日には、相変わらずウルトラマンに夢中になって怪獣の名前を暗記していていいのだろうか。
 翌日、授業中に気がつくと国語の教科書に又、紙が挟まっていた。『きょうはみんな都合がいいので久しぶりに集会をします。』と書いてあった。きょうは大丈夫なのか、とOKと書いて出井さんにそっとわたした。しかし本当に女影丸だ。
 授業が終わると、、一目散に家に帰り、買っていた二週分の少年サンデーとウクレレを持って飛びだした。早くマガジンが読みたい。隣町の駅を降りて歩き出してハッとした。茂だ。見たこともない女の子と話をしている。僕は思わず身を隠してしまった。こっそり見ていると、何やら手渡しされている。茂は僕達に見せたこともないような優しい顔で、少し話して歩き出した。僕は後ろから追いすがって、声をかけた。
 「茂!みーたーぞー。」
 てっきりうろたえるものと思っていたら拍子抜けの反応だった。
 「ああ、Bか。見たってあの子のことか?」
 時々この駅で茂を見ていたF小の女の子が手紙をくれたのだそうだ。
 「まあ、あんまりかわいくもないからテキトーに話してやってるんだけどな。
 何なんだこの落ち着きは。そして隠れ家に着くと、隠し場所に鍵がない。屋上の扉をあけるとAとDがもういた。そしたらCはいきなり切り出した。
 「実は叔父さんの事務所がここを立ち退くんだ。だからここを使えるのは今年一杯だ。」
 「へー。」「ふーん。」「やっぱりね。」
 「それでもってトシが明けリャ3学期で、直ぐ卒業だろ。その後はG中学の新入生ってわけだ。中学に行きゃークラブ活動もするだろうし1年坊主は色々忙しい。だからこういった集まりもできなくなるだろ。この際『ランブル団』の集まりはひとまず解散ってことにしないか。」
 「それがね、この前分ったんだけどあたしの住所は学区が違っててG中じゃないらしいのよ。さっきAと話したんだけど山手側の林君とか飯田くんやあたしはJ中なのよ。」
 「あっそうか。オレ達浜側がG中か。別々になるんだな。」
 「Dはクラブに入るのか?」
 「新聞部があれば入りたいけど、ほんとはテニス部に入りたいな。」
 「そうなりゃ敵同士になるな。オレはサッカーやろうと思ってんだ。」
 僕は何も口が挟めなかった。皆オトナみたいな話ぶりじゃないか。『中学にいってバラバラになっても又集まろうよ。』と言いたかったんだけど、どうもそういうことを言う雰囲気じゃなさそうなのだ。クラブに入るなんて何も考えたことがなかった。運動部でしごかれるのもやだし、文化部で何かの研究なんかするガラじゃない。ランブル団は無くなってしまうとすることもないし、やっぱり地味な文化部にでもいれてもらうのかなー。
 「B,なにボーっとしてんだ。やるだろ?」
 「ヘッ?なに?」
 「やあね。聞いてなかったの?せっかくBもウクレレ買ったんだからフオークソング・グループつくって卒業式のあとの謝恩会で歌おうって言ったのよ。あたしアコーデオン弾くし、Cもウクレレ買うって。」
 「ああ。いいよ。・・・・うん、やろうよ。で、なにやるの。」
 「もちろん、サンフランシスコ・ベイ・ブルース!」
 もう秘密のランブル団ではなく、フオーク・グループ『アルフアベッツ』になった僕達は、誰にもはばからずに一緒に電車に乗って話しながら帰った。ヤマダンに頼んで音楽室で練習させてもらうことも決まった。
 そして、2学期が終わった。終業式があって教室にもどって、あしたから冬休みだ。ウチに持って帰らないとならない体操服とか、机に入れっぱなしの定規とか雑記帳をガサガサしまっているとランドセルが重くなった。
 「ねえ、B。練習行こうよ。今年最後だよ。」
 「アッ。今行く。・・・・そうか、来年は席替えだからとなりじゃなくなるね。」
 「そうね。Bの隣はおもしろかったな。」
 気がつくと教室に二人だった。ランブル団の秘密を守るためにロクにしゃべったこともなかったことにフと気がついて、思い切って聞いてみた。
 「そうだ。前から聞こうと思ってたけど、Dってどんな人が好きなの?」
 「アハハハ、なによいきなり。あたしはそういうの良くわかんないのよ。皆好きだよ。」
 「そうか。将来はどんなことになるんだろうな。」
 「分るわけないでしょ。Bこそ何になりたいのよ。」
 「エッ。考えたことないよ。海がすきだから、船に乗って外国にでもいきたいかなー。」
 「アハハハ、Bらしいね。じゃ、あたしは月にでも行くか。」
 「宇宙飛行士にでもなるの?」
 「何いってんの、そんなんじゃない。かぐや姫かな。」
 こいつ一体何者なんだ。
 「月に行って人から見えないところで人を観察して。人にも干渉しない。・・・・満月見たらあたしを思い出して。」
 ウーム。何を言ってるのか良くわからない。その時声がかかった、だ。
 「おーい。早くしろ。きょうは最終日だから音楽室使えるのあと30分だぞ。」
 
エピローグ 40年後のクラス会
 「それにしてもあの演奏はヒドかったなー。」
 「ワハハ。演奏より歌だろ。何たって英語なんかわかんないんだからな。カタカナで覚えたんだぞ。」
 「意味も何にもわかんなくて良く歌ったぜ。実際。」
 「あんときゃお前、ウクレレなんか買うのいやだって言って音楽室のウッド・ベースをやったんだよな。」
 「結局まともな音を出したのは出井のアコーデオンだけだもん。」
 「どうせならハワイアンバンドでもやりゃよかったんだな。業界でいうワイアンだな。」
 「でもねえ。楽しかったわよ。先生も喜んでくれたし。」
 「ヤマダンが死んでもう10年か。」
 「オレ達も50を超えるはずだよ。」
 「全くなあ。よくも死なないでここまで来たよ。」
 「ロクなガキじゃなかったのになあ。ヤマダンも苦労してたよ。」
 「そう言えば、今思い出した。出井は月にいくみたいなこと言ってたな。」
 「オレも何か聞いた覚えがある。狼女みたいに満月に甦るって言ったぞ。」
 「オレにはかぐや姫って言ったぞ。」
 「オホホホホホ。全部あたり。でその通りになった。」
 「エッ。」「エッ。」「エッ。」
 「今日は久ぶりに下界に来たの。又すぐ帰ろうか、と。」
 「また訳わからんことを・・・・。」
 「アハハ、女の正体はなかなか分らないのよ。皆奥様がどこの住人だと思ってるの?」
 「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」
 こっこいつ、何者なんだ。

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