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贋作は楽し

2015 FEB 3 22:22:00 pm by 西 牟呂雄

 「なんでも鑑定団」を時々楽しんでいる。『先祖伝来のナニナニ』とかいうモノが真っ赤な贋物だったりすると気の毒やらおかしいやら。納屋の奥で埃にまみれていたものならともかく、床の間にかざり300年くらい代々崇めていたりしていたらエラいことだ。その間だれもニセと気付かなかったのだから。
 故会田雄二氏の著作にあったかと記憶するが、江戸の中期になると殿様も小名クラスは貧乏で何かにつけて『これを遣わす。』とお下げ渡しの時にロクな物が無く、仕方なしに『これはかの〇〇のモノで我が家祖の●●様が神君家康公より賜りし逸品である。家宝に致せ。』『ハハーッ。有り難き幸せ。』とやり、その殆どが贋物だったそうだ。鑑定団でガックリくるのはその類が多いのだろう。
 喜寿庵にその手の怪しげなのがガサガサあって、昔泥棒が入って掛け軸を五本くらい盗まれたそうだが、当時健在だった祖母が言い放った言葉が残っている。
「あんなの全部パパ(爺様のこと)がいい顔して掴まされたのに決まってる。骨董屋に持ち込んだところで返って恥をかくに違いないよ。くたびれもうけだね。」
 僕は書画骨董はサッパリだから人の事なんか言えないのだが、そんなもんを並べてニタニタしていた爺様の気持ちが分からんでもない。セッセと何かを愛でる気持ちがカワイイと言うか尊いと言うか。
 
 以前から本人も明らかにしているが東 兄と僕はひどい色弱だからゴッホだろうがセザンヌだろうが健常者とは違った色彩の『絵』を見ていることになる。すなわち人が僕の目を通してみればニセにならないか、ちょっと違うか。
 更に話が飛ぶ。神社の伝承なんかを色々見て歩くと、神話はそりゃ有り得ない話に決まっているが、何代もかけて営々と伝えた人文があったことは後にいろいろと合理的に解釈できる。多少の無理筋も許容して八百万システムにドップリ浸かって柏手を打つたびに神聖な気分になる僕達の気持ちを、例えば二千年の論争によって鍛えられ洗練されてきたキリスト教の牧師さんが『あれはニセだ。』と言いバカにするのもナンでしょう。仏教にしたところでオリジナルな釈迦の教えはほとんど無神論に近い。お釈迦様は解脱しろって言っただけ。
 一神教のカミ様だって神秘体験を体験できた天才が創り上げたニセの概念かも知れない(マジメな宗教家の方、怒らないで下さい、インチキもあるっていう話)。

 モナリザの模写が出てきて真贋論争になったこともある(アイスワールのモナリザ事件)。僕は真実は知らないが、出て来た方が品格やら芸術性でルーブルの物を上回らなかったからアウトになったのだろう。美的レベルがいい線をいっていたら面白い論争が続いていたのではないか。
 それではアートを写した写真媒体は全て贋物か、そうじゃないな。
 佐村河内守(最近サムラカワチノカミと言うそうだが)も嘘っ八を言い触らして稼いだのはサギ犯罪もいいところである。しかし片棒を担いだ新垣さんの作品は結構イケてるらしいから地道にやって多少売れればこれは即ホンモノの仲間入り。良ければね。

 翻訳本によって欧米の文物を楽しむことができるが、原典の語感なんぞはそれが読めるようにならなくちゃ分からないかもしれない。新約聖書なんか印象的な言葉、例えば『山上の垂訓』とかヨハネの福音書の『はじめにロゴスがあった。』なんか覚えているが、実際の語感はヘブライ語とかラテン語で読まなければ伝わらないのか。そういえば『出エジプト記』に出てくる”locust”はバッタと訳してはならず『イナゴ』としなければ正式ではない、とさる翻訳の権威が言っていた。欽定聖書の時からそうしないとダメらしい、そういうもんか。ホンモノも難しい。

 それで何が言いたいかというと、僕は贋物が大好きなのだ(腕時計はホンモノですよ、念のため)。カテゴリー本歌取り をやっていて気が付いたのだが、本物の目を盗んで秘かにろくでもないモノに変えてしまうことに妙に熱中する気質があるようだ。焼き物をやったこともないし絵も描けないが、本歌取りとか或いは当該ブログは実は高名な作家のハルキ・ムラカミが変名を使って書いている、という噂が流れないかな。シェイクスピアが本当は哲学者フランシス・ベーコンだオックスフォード伯爵だ、という説もあるんだから。
 
 どっちにしたって鏡に映ったウィスキィは飲めないもんね。

贋作は楽し Ⅱ

贋作は楽し Ⅲ


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