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八丈島航海記 前編 

2015 AUG 19 20:20:08 pm by 西 牟呂雄

 伊豆七島の南端八丈島、東京から280kmだ。大島みたいに「チョッと行ってくる」という感覚では行けないが、夏休みを取ってヨットで行くことを共同オーナー達と決めた。
 大体一昼夜の航海でオーバー・ナイト・セーリングは久しぶり、僕は張り切った。

出港前準備
 安全備品チェックや落下防止のネット張り等、汗だくになって作業。ふざけたノリだけでは命に関わる。準備は入念にやってやり過ぎはない。
 前の艇で使ったチャート(海図)をそのまま利用。
 ラダー(舵)がギコギコして動きが悪いから分解して中を掃除。
 エンジン・オイル、ギア・ボックス・オイル交換。
 オート・パイロット(自動運転)のテストで沖に出てみると、パイロットは作動するのだが微調整スイッチを入れるとそのまま押し続けになってしまう。これヤバいのでもう一度バラす。
 ファーネスという落下防止用のベルトを装着したまま甲板の移動ができるようにジャック・ラインというロープのようなものを張り巡らす。
 食糧買い出し。
 体調を整えるため、前日は酒を抜く。昼間二日酔いで熱中症になるだの夜間航海なんかで腹が痛いのとなっても、仮に最寄の港に寄港するにしてもすぐには着けないから大騒ぎになる。計画はメチャクチャになるし、他のメンバーの迷惑になるからだ。
 

12日油壺10時42分出港。
 総勢7人のクルーで女性2人。これから24時間は波の上だ。海は今のところ穏やかな表情をしている。普段からやっているように出港祝いと称してビールを開けるようなことはしない。
 大島を右に見ながら南下して行くがモヤってしまって島影は見えない。
 ところで、艇長はベテランのヨット通であり、一人は元大学ヨット部キャプテン、二人は外洋レース(グアム島レースとか)の腕利きクルーというメンバー。素人に毛が生えた程度の遊び半分なのは僕一人だ。
 そして長い航海になると実力の差はテキメンに現れる。ロープの複雑な扱い、ちょっと風が変わった時のセールの調整、等でモタモタしていると皆が不安そうになるのが分かる。夜間のオーバー・ナイト・セーリングはワッチ(WATCH)と言って必ず一人は他の船舶や障害物の監視、もう一人が舵を取る、というバディ体制にして入れ替えながら一人当たり2時間ワッチ3時間休憩のローテーションを組むことになる。すると僕のワッチの時には組んだ相手の負担が物凄く増えてしまうかもしれないからだ。
 一般的に技量が違う場合は『当然こう考えるだろう』というつもりで指示を出すとまるで逆に受け取られるというリスクがある。これは普段の仕事なんかでもよくあることで、双方注意が必要だ。また、別のところから正反対の指示が出たりすれば混乱して事故にならないとも限らない。指揮命令系統は常に確保しなければならない所以である。要は冷静な判断とチームワークという訳だ。
 初めに舵を取った時点で『当て舵(波の当たりに合わせて直線を維持しようと大きく舵を切る)』のやりすぎと指摘される。風は微風の東風なのでエンジンを掛けながらの汽帆走で7ノットを確保する。

午後3時
 なかなか見えなかった大島だったが次第に輪郭を現した。

霞んで見える大島

霞んで見える大島

 日が暮れて来る。これから暫くは島を視認できないからコンパスだけを頼りに航海する。ただ現在では通信技術の発達によりデジタルに位置の測定ができるので、アッと気が付いたらとんでもない所に来てしまったとはならないですむ。
 残念ながら本日は伊豆半島辺りが全部雲に覆われていて、ドンと落ちる夕日を見ることはできなかった。
 明るいうちに夕食を食べる。レトルトの牛丼とか中華丼をご飯を炊いてかけて簡単に食終わり。18時からワッチ体制に入り、まず艇長が舵を取ってぼくは見張り。19時から操舵した。このあたりから先日の逸れた台風のうねりが残っていて船が叩かれる。

午後20時
 ボウッと浮かび上がる感じで灯が見える。三宅島だ。
 どうにも曇天で視界が悪い。星は天頂あたりに瞬いているだけで、きょうは新月だから月はない。ペルセウス座流星群が見えるかと期待したが全くダメであった。
 今年は黒潮の蛇行が凄いという話で、八丈島にぶつかった後大きく北上しているらしい。事実三宅を越したあたりから対水速度メーターが7ノットを示しているのにGPSの対地速度は5ノット以下。2ノットの潮を食っていることになる。

八丈島 右に八丈小島が

八丈島 右に八丈小島が

 その後0時、4時とワッチの舵を取ったが思うように南下できなかった。風が強くなり19~20ノットの強風と外洋のウネリになる。波飛沫のシャワーを浴び始めたのでパーカーを着込みライフ・ジャケットを着けてファーネスを巻き付けるという重装備に。その間休憩時に横になってみたが結局暑くて眠れない。
 夜中のワッチ交代時に燃料の給油。これも備品一つ落っことす訳にいかない作業で、酷いときは危険な作業だが、今回は比較的楽だった。

13日6時八丈島目視
 明け方になっても曇っていてやはり日の出は見えない。遠くの方に雲の塊があって、暫くすると八丈富士の稜線が視認できた。大島も三宅もそうなんだが、この時期は島に当たった風が山頂にまで吹き上がって雲をつくる。これが島雲でまるで傘をかぶったようになる。
 島がようやく見えると突然潮の流れが変わり対地速度が上がりだした。巻潮と言って島に海流が当たって大きく向きを変えた時に流れの端っこが渦を巻く。その流れをとらえたようだ。

8時30分八丈島神湊港入港
 やれやれ、お疲れ様と入港して岸壁に船を舫う。ともかく安全にたどり着いた。22時間。
 岸壁に立つと弱冠の岡酔いでフラフラした。それにしてもお江戸の昔に流された罪人はどんな気持ちでこの島を見上げたことだろう。ホッとはしたのかこれからの暮らしに絶望感を抱いたか。

 この日は艇長のヨット仲間(八丈在住)のご厚意で、軽自動車を2台借りて民宿に泊まる。
 まずは山の中腹にある温泉に浸かりに行くこととした。高台にある『見晴らしの湯』でプールのような露天風呂で太平洋を一望の元に見ながら入る。うーん、太平洋も八丈島まで来て眺めると余計にだだっ広いような。

島寿司

島寿司

 そしてお楽しみの宴会。八丈島ではお寿司は『島寿司』焼酎は『島酒』。ハナからシマズシをガツガツ食べた。白身の魚を醤油ダレでヅケにして青唐辛子をチビッとかける。
 『島酒』の方は芋の八重椿という奴をこれまたガンガンやる。
 持込の日本酒も含めて、終いには何を飲んでいるのかよく分からないまま南の島の夜が更けて寝入ってしまった。あー疲れた。

八丈島航海記 観光編 

八丈島航海記 後編 

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Categories:ヨット

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