Sonar Members Club No.36

日: 2016年3月21日

何者だ

2016 MAR 21 12:12:07 pm by 西 牟呂雄

 喜寿庵の芝生で風で落ちた枝を見つけた。毛むくじゃらの蕾が付いていたので、捨てるに忍びなくジョウロに水を張ってさして置いた。おそらく木蓮か辛夷(こぶし)だろう。ビロードのような細かい蕾の手触りが何故か心なごむのだ。
 挿し木をしたらいいのか分からないまま、庭の一角に立ててみてそのまま忘れていた。

 ある日、もう枯れてしまったかと急に気になって早朝車を飛ばして行ってみると、枝を立てた一角に小人と言うかE・Tというか、ヒト型の生物がいるではないか。ワッとビックリしたが猿でない事はわかった。猿一族は武装した僕に『ネイチャー・ファームの戦い』で威嚇され(口では諭したが)暫く姿を見せていない。身長は1mくらいだった。

ちょっと違うんだが

ちょっと違うんだが

 しかも少し歩いたり動いている。顔は亀裂が入ったようなグロテスクな裂け目があって、大昔にウルトラQで見たケムール人のようだった。キョロキョロする目のようなものが左右非対称についていて、明らかにこっちを見ているのだ。
 両手を広げて攻撃の意志の無いことを伝えると、ある程度の知的生命体のようで向こうも両手をダラリと下げた。やたらと攻撃したり逃げたりしないほど洗練されたマナーがあるなら、それなりの生き物だということを私達の知性は知っている。しかしどうしたらコミニュケートできるのか。
「あなたは、誰ですか。」
 指をさして聞いてみる。
「フー・アー・ユー? キ・エ・チュウ? ニィ・シ・シェイ?」
 知っている言語はこれだけだが、反応がない。
「私はニ・シ・ム・ロです。」
 口が利けないのか。もしかして耳もないのだろうか。プレデターみたいに。
 少し後ずさりしても逃げない。不思議と恐怖感も湧かない、白昼の幽霊かもしれないのに。ヨシッ。
 どうせいつも一人だから退屈しのぎになるのかと考えた。戻って軒先にあるダンボールの切れ端とフェルトペンを持ってきてもまだそこに立っている。これらは宅急便にサインする時のために勝手口においてあった。私は『に し む ろ』と書いて読んで聞かせ自分を指差してみた。
 するとそいつはフェルトペンを持ち(持てた)アラブ文字ともハングルともつかない記号を書いて自分を指す。指は5本ある。
「ク・リ・ト・ン」
と聞こえた。文字を持ち、レスポンスもするなら文明を持っている種族に違いない。
 水を飲むかと野外の蛇口からジョウロに水をくんで来た。少し撒いて、手ですくって飲んで見せた。
「ギ、ギ、ギ、ギ」
 と言った。そしてジョウロを触ろうとする。
「くりとん、水が欲しいのか。」
「ギ・ジ・ブ・ロ、ギ、ギ、ギ、ギ」
 これは会話が成り立っているのように思える。取り合えず『くりとんちゃん』を奴の名前だということにした。そして奴がジョウロを手に取ろうとするので渡してやった。奴は小さいので大丈夫か心配したが上手に右手で持って左手に水をかけた。
「ギ、ギ、ギ、ギ」
 どうもこの”くりとん”は薄い何かを纏っているようで、良く見ると細かいウブ毛のようなものに覆われている。そういえば”口”がない。喋っているように聞こえるのはその纏っているものの中で何かが擦れた音のようなのだ。
「ギ・ジ・ブ・ロ、ギ、ギ、ギ、ギ」
 この”ぎじぶろ”は『にしむろ』と言っているのかも知れない。そして”ぎ、ぎ、ぎ、ぎ”は笑っているのではないか。試しに
「くりとん。はははは。」
 とやると。奴も
「ギ・ジ・ブ・ロ、ギ、ギ、ギ、ギ」
 そうだ、写真に撮って置こうとゆっくり後ずさりして携帯を取りに行き、急いで戻ってきて慌てて映したが何と言う事だ。写っていない。そして目を離すともう姿が消えていた。どこに行ったのか!

写ってない

 そして翌日、庭の一角を覗いてみると何とまたいた。ただ、昨日より明るく光っているような透き通っているような、ちょっと違う。
「くりとん。おはよう。」
「ギ・ジ・ブ・ロ。・・ギエルゴ。」
 声も違うようだが、昨日同様会話できている(意味は不明だが)。
 今日はもしかしたらと携帯を持っていたので、しゃがみこんで向けてみる。逃げないでくれよ、とシャッターを切った。すると、
「ギ、ギ、ギ、ギ。」
 と笑っている。
「水はいるかい。」
 とジョウロを指さすと聞いてみると、
「グ、ラ、デ、ン、ゲ。ギ、ギ、ギ、ギ」
 今度は意味不明だ。喜ぶかもしれないと取りに行ってやった。が、振り向いたらまたいない。どうやって移動するのだろう、空中に気配も無く飛んだというのか。
 じょうがないな、と携帯の画像を見ると!何も写っていない。
 いや正確には冒頭で言ったモクレンだかコブシの挿し木が写っていただけだった。そういえば、くりとんちゃんと話していた時にはちゃんと刺さっていたのだろうか。待てよ・・・・。

 薄気味悪くなった僕はその枝を掘り起こし東京に持って帰って花瓶にさしている。この写真がそうなのだ。良く見るとなぜか蕾は一方だけを向いている(上記写真の時もそう)。何か意味があるのか、くりとんはその後出てはこない。『ギッギッギッギ』が又聞きたいのだけれど。
こっこれは

ルンバ君(仮称)


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