Sonar Members Club No.36

日: 2016年4月23日

ロシア東方シフトは本物か

2016 APR 23 0:00:29 am by 西 牟呂雄

 北富士総合大学国際関係研究所特別講義
 
 現在のロシアのスコルコボ科学技術大学(スコルテック)の学長はアメリカ人科学者のエドワード・クロウリー氏だ。スコルテックは2011年にモスクワ郊外にある新しい教育機関であり、MITの教育プログラムを取り入れた大学院大学である。使用言語は英語。
 そのクロウリー学長はロシアの東方シフトに尽力している。
 中国にも足繁く訪問しているが、日本にも数回に渡って訪れ大学と協議した。その目のつけどころが興味深い。主に北海道の大学や東北大学との意見交換をしているのだ。
 ここにロシアの東方シフトの芽が隠されていないだろうか。

 ロシアの東方シフトについては遺憾な事だがクリミア・ウクライナ問題がその動きを加速させた事は否めない。
 日本はG7構成国の立場があるため、まずプーチン大統領が接近したのは中国だった。多くの経済協力プランが調印された。ロシアとしては”孤立していない”ことを演出する必要もあったのであろう。しかし中身はエネルギー関連が中心で、中には既に50年ほど前にも名前が上がっていた鉱山開発なども含まれていた。

 地図を良く見て欲しい。中国は日本海に面してはいない。樺太の近さは言うまでも無く、実効支配されている問題の島は肉眼でよく見える。 
 ロシア語で中国のことを『キタイ』と言うが、契丹からきている。契丹=モンゴル系で、ロシアのスラブ人は潜在的に『キタイ』に対する恐怖感がすりこまれているらしい。アッチラ大王やチンギス・ハーンに散々蹂躙されたせいだという説がある。
 更に国境を挟んでの人口は中国黒龍江省に対して全シベリアで半分、国境あたりは百分の一くらいかと思われる。これに対峙するプレッシャーは相当あるだろう。国境は一応川だが、厳冬期にはガリガリに凍結してしまい往来自在だ。
 前述のクロウリー学長は無論偏ることなく、韓国や台湾の大学との提携も視野に入れている。しかし戦略的に双方のメリットをマックスにするにはやはり日本ではないか。
 先日はチョットしたきっかけでベラルーシ大使館に行った。かつてのソ連の地図に『白ロシア共和国』と表記されていたエリアである。現在もユーラシア関税同盟としてロシアとは密接な関係にある。挨拶代わりに
「日本と最も遠いと思われますが、日本に最も近い外国の一つであるロシアをはさんで隣の隣りの国ですよ。」
とにこやかに言われて成る程と思った。
 現在中国が西方回廊計画を打ち上げるので、ロシアもインフラには力を入れだした。
 これには補助線があって、憂慮すべき事態だが温暖化によって北極海ルートの海路が開拓されてしまうとアジアとヨーロッパの輸送コストが劇的に安くなり、極東エリアを飛び越えてしまいかねないからだ。

 余談であるがベラルーシ大使館は大崎の高級住宅街の民家にある。ドアをノックして気軽に入れる個人邸宅(借り上げか買い上げかは分からないが)で、ロシア関係の重々しい感じとは全く違う。国を挙げてIT産業育成に力を入れており「シリコン・バレーで解決できないことはインドに頼め。インドでも解決できないことはベラルーシに頼め」と言われる程になった(本当かどうか知らないがそう自慢していた)。

 実際にロシアで仕事をする場合、意思決定は日本の方が遅い。
 ロシア企業はオルガリヒが経営する巨大コングロマリットは別としても、ソ連崩壊後にスピン・アウト或いは起業した連中は強烈にトップ・ダウンで物事を決めてしまう。従って事業については短期的に成果を挙げたがる傾向がある。償却による拡大再生産といった絵より、キャッシュフローのみを追いたがる。要するに日本型の経営計画を知らない、と言ったほうが実態に近いだろう。
 更に国際情勢の目まぐるしい変化、主に中東をめぐってのプーチン大統領の立ち位置の変化がロシアとの共同プロジェクトを遅らせてもいる。安部ープーチン会談に期待したいところだ。筆者のインテリジェンスにはプーチン大統領は一時冷めていた領土問題解決への意欲が復活し、日本訪問を望んでいると伝わっている。
 更に、上記スコルテックを運営するスコルコボ財団はウラジオストック沖のルースキー島に連絡事務所を開設する。ルースキー島は2012年にAPECの首脳会議が行われたところで、その設備に極東連邦大学が誘致された。
 筆者の長年の構想である『環日本海経済圏』のロシア側の中心地である。これに呼応して新潟空路、秋田・境港航路を充実させると東方の地方活性にも有効だ。

 難しい所だが、日ロ関係は双方に強い政治家がいて暫く権力基盤が継続する時でないと進展しないだろう。
 ゴルバチョフは来日し当時の海部総理と会談した際資料を一瞥し『ここに書いてあることは全て知っている事だ。付け加える事はないか。』と凄んで海部総理の外交力を見極めたとされる。
 エリツィンー橋本の時はいいところまで行っていたにも拘らず、共に国内の政権維持が不安定かつ健康問題もあって日の目を見なかった。
 してみると安部ープーチン体制が維持できそうな現在はタイミングとして最良の時期ではないか。
 来るべき会談においてロシア東方シフトへの協力姿勢を鮮明にし、領土問題解決・平和条約締結の弾みをつけて欲しい。
 ロシア外務大臣ラブロフ氏の「プーチン大統領と森元総理大臣が2001年にイルクーツクで会談した際に、四島の帰属を含むすべての問題について対話を続けることで合意した。ロシアは、これを拒否するわけではない」という発言は重要なシグナルを発したものと思われる。

 安部総理の来月の訪ロも決まったようだ。

日露ビジネス・ダイアローグより  

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