楽にはなるが豊かにはならない
2017 JUL 12 19:19:58 pm by 西 牟呂雄
人工知能・IPS細胞・ロボットといった技術革新で我々の生活は確実に便利になってきている。我々の若かった頃に比べても生活そのものははるかに便利になっている。それも凄いスピードでだ。
数え上げれば、ネット・スマホ・スイカ・カーナビ・ドローンといったものは50年前には漫画の世界の話だった。自動運転も時間の問題で、もう直ぐ誰もが使いこなすだろう。
本で読んだ話だが、宇宙ステーションを地上とエレベーターで繋ぐことも充分可能で、現段階では材料の選定や空気の圧送を検討するレヴェルに達しているとか。
我々が生きている間にリニアも通り、コリア・チャイナ・サハリンくらいまでは海底チューヴの中を通って行けるようになっているかもしれない。
人間は物凄く便利な生活を安いコストで享受できるだろう。
しかし、現在でさえ”人間はバカになっている”といった言説がなされ、中には本当にそうだと思わせる書物もひっきりなしに出る。最近秀逸だったのは橋下治の『バブルでそれまでの”個人は社会の一部である”という”地動説”が自分の幸せのために社会がある”という天動説になった』という指摘で、ハタと膝を打った。その後に生まれた今の若者などは徹底的に自分主義になっていて、それは上の代がズブズブ転落しているのをソノ目で見ているからだ、社会は守ってくれない、と。
そして天動説になってしまった連中は人の話に耳を傾けないから、早い話『言っても無駄』状態、議論など成り立たないのだ。
そのアナーキーな感覚には父性の欠如を強烈に嗅ぎ取る。
バブルが弾けた後も金融経済は様々に姿を変え、ITバブルを崩壊させリーマンショックに至る過程で中流が崩壊し、それっきりになってしまった。
デフレ続きで巨大企業は合併するか立ち枯れるか。昨今の合併などは規模を拡大する意味ではなく、リストラのためにするようなものだから・・。
格差が声高に言われるが、実態はプチ富裕層がいなくなったのだ(無論少数の超富裕層は存在しているが)。
僕はこの中流崩壊は本質的にグローバリズムの波に飲まれた後遺症と考えている。
上述の天動説型若者は、一般的に給料はロクに上がらず物価は安くなる物だと刷り込まれている。そして一方で生活は便利になり続けていることも自覚しているはずだ。
ここでいきなり話が変わって、上記文脈での”地動説”時代にチンピラだった僕には記憶が蘇る。今の反知性主義的ポピュリズムとは逆向きの様相だった学園闘争とヒッピー・ムーヴメントだ。どちらも結構真面目な人が多かった。
主人公の団塊世代には山ほど言い分があることは知っているからあえて論評はしないが、当時学生運動とヒッピーは同一カードの裏表で、今日の若い人からはわからないだろうが古い体制を変革する起爆剤的に見られていた。
革命を主張する過激派がいて(今もおじいさん達がやっているが)、割と気軽と言っては語弊があろうがセクトに簡単に入り直ぐにヘルメットを被っていた人達を知っている。
敢て苦労を選ぶ、便利さを追求はしない、社会に組み込まれたくない、自由に生きたい、等と主張して長野県の方でコミューンめいた集団生活をしていたグループもあった。無償で農作業を手伝うので有名な「赤カラス族」と言ったか。
このテの輩は姿・形を変えて地下水脈のように続きしばしば地表に噴出す。時にオウムのような狂信集団も生む。
気になるのはこういった集団は構成している連中に、既に述べた『父性の欠如』が見て取られ、変なのが上に立つとどこにでも転がる。
その後一般サラリーマンはいわゆる保守的な方向よりも戦後左派のシンパとなって行きそれなりの生活を手にすることができた。マスとしての大衆社会を形成してきた訳だがこの層が直撃されたのだ、ドロップしてしまった。バブル以前はこの左派のマスがバランサーとして機能していたのだ。
こういう輩がナントカ・チルドレン、カントカ・ガールズ、田中真紀子、ハトヤマ、に投票し、今では新自由主義だグローバリズムだ、の世論を構成していると見たてたが、どうであろう。
不思議な事にアメリカのような排外主義的な運動にならないのは(無論極端なヘイト・スピーチ等は散見されるが)ダウンしたのが既に述べたプチ富裕層だからで、格差は無くならなかったが今の段階では階層を成すに至っていないからである。
むしろこれから更に社会の少子化が進みその崖っぷちにいる我々より若い人達が『格差』とか『人口減少』といった問題に直面した時には、グローバル・スタンダードにノーを突きつけるかもしれない。
そうすると近いうちに反文明主義、あえて便利さを追求しない知的集団が必ず現れて来るだろう。そしてその集団は今で言うポピュリズムとは一線を画すはずだ。
ましてや今日のSNSの発達によって表には出てこない秘密結社のような集団が必ず、いや既に存在しているかもしれない。ネットにより地域を選ばずに簡単に結びつけるご時勢であるから。そういうネット・ワークがないか検索してみたがなかなか出てこない。
おそらくクレバーな人達だろうから目立たず・騒がず・秘かに潜んでいることだろう。様々な職業をカヴァーにしてアンダーグラウンドで繋がっているに違いない。
その新たな特徴は経済に重きを置かないものになる。現在こそ、特に今年になって随分景気はいいようで、工場稼働率や物流は回復したが。
僕からすれば若い、バブルを知らないが故に、金融が飽和した後は必ず崩壊することを聞かされ続けた人達は、これからも中国ショック・円高ショック(となるかどうかは中国と日銀次第だが)が来る事に備えて考えをめぐらせているだろう。
トランプ現象や英国EU離脱が表層を覆うようになって世界中が”天動説”化しているかに見える中で、シニカルでアナーキーな集団が深く潜行するようになっていく。
そうすると中間のあたりのオッサンのオレはどうすればいいのか・・・。チョット海外にでも行って考えてみるか。
「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」
Categories:潮目が変わった
Tom Ichihara
7/13/2017 | Permalink
Discovery チャンネルによれば、アメリカではこの時代の生き方に疑問を持ち、アラスカやカナダの原野に家族と共に移り住み、まず、丸太を切り倒し、家作りから初めて、野生動物を食料として生きていく人達が増えています。
現代人は何処かの時点でその便利さを見つめ直さなければならないのではないかと考えます。
赤土直下のカピンガ島の人達もソーラーなどが入って常時無線が使えるようになって、少しの電力は使えるようはなりましたが、現代の食事は船が入ったときだけで、1ヶ月後には元の自給自足に戻ります。
携帯電話も、車、冷蔵庫も、あの何もない、我々から診ると便利さからは遠くかけ離れた生活、小生もあこがれます。
夢想するに1年間住んで頭をからっぽにしたらどうなるだろうと思ったりします。
有志をつのって行ってみませんか?
西室 建
7/14/2017 | Permalink
トムさん、
有志をつのったら恐らく生活が成り立たなくなりますよ(笑)。
一番いいのは一人で。
二番目は男と女。
その次に男二人。
僕は男二人派ですね。もしくは僕一人と女性四人かなぁ(二人・三人だとケンカになる)。
西室 建
7/2/2018 | Permalink
このブログをかいて1年が経ったのだが、少し様子が変わっている。
文中の『バブルでそれまでの”個人は社会の一部である”という”地動説”が自分の幸せのために社会がある”という天動説になった』の部分が好景気の元、別の様相を見せてきている。
まず採用の現場が今年はとにかく凄い。内定率は順調だ。失業率もミラクルな数字である。
人手の足りないのに、一方で金融だろうが製造だろうが企業のリストラは厳しい。
表題の便利にはなる、は全員にかかる。しかし豊かにはならない、はおじさんが一手に引き受けることの様なのだ。
上記論述のバランサーと表現したおじさんクラスは活力を失い、天動説の若者等は昨今の情勢から相対的に右傾化してうねりを起こすかもしれない。