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下田へ 航海(後悔)先に立たず

2018 JUL 11 19:19:56 pm by 西 牟呂雄

 本当はあまり面白くないネタである。
 下田へのヨット航海の話(のはず)だ。私はヤボ用があって帰りのクルーとして乗り込むつもりで週末に陸路下田に向かうことにしていた。
 台風を心配したが早い時期に九州北部から日本海に抜けたので、まあ良かろうと計画通りにヨットは出港した。
 ところが、その台風の影響は相模湾に残り続けおまけに風は強い。航海計画そのものは充分に余裕をみていたが、スキッパーが出た途端に向け先を変更し『一発で下田まではキツいようなの船を伊東に入港しようかと相談している』とのメールがすぐ入り、夜になると『途中の海上で雨に降られたので結局真鶴港に停泊している。あしたには下田に回航して待っている』との連絡だった。私は別の真鶴でも構わなかったのだが明朝判断しよう。
 すでに梅雨は明けていて夏だ。ご承知の通り入道雲がムクムクと頭をもたげてくる季節、この入道雲は傍目には輝かんばかりの夏の風物だ。見た目には。
 丘から見ている分にはいいが、海上でその下あたりを突っ切るのは実は大変で、風は変わるわドシャ降りになるわ。

 そして移動日に自宅から小田原まで行き熱海で特急踊り子に乗り換える。熱海では晴れているが相模湾は霞んでいて、というか例の入道雲がグロテスクな姿を見せていてイヤな予感がした。
 船からは『真鶴出港。本日天気晴朗なれども波高し』と日本海海戦のようなメールは来ていた。
 しかし熱海を出て伊東を経由したあたりから、はっきり言って雨が降り出したのだ。これはマズい。航路から言ってメールは入るはずだから携帯を握り締めながら私は焦った。即ちヤル気を失ったクルーが下田を目指すのを諦める可能性が高い。しかもこの荒れようでは(白波が立っている)安全を確保するためもあって私の都合など問題外でスキッパーは航海を中止できる。それに対して異議は唱えられないルールになっているし、似たような事は何度も起きている。直近は神津島であった。
 

神々が集った島 神津島航海記 後編


 また、熱海港では宴会に参加していた者が出港時間に行方不明になった。その際には荷物積んだまま人は置いて行ったこともある(当人は翌日フェリーで大島に合流)。
 そして伊豆急下田駅に着く頃に『風雨収まらず下田は諦める。悪しからず』と連絡が入った。
 こういうのを仕方ないと言うのだ。せめて稲取にでも入ってくれれば今から移動できるがメールには書いて無い。大島の岡田港かもしれない。恐らく南下するには風が悪すぎたのだろう。実際には直ぐに帰港を決めていて私に行くフリをしていた疑いはあるものの、諦めて旧知の温泉宿に連絡したら運よく泊まれた。

 すると西日本はとんでもないことになっているではないか、気の毒に。
 風呂に浸かってツラツラ考えた。スキッパーの悩みも深かったはずで、おまけに波・雨・風に晒されたクルーの苦労は私が電車でイライラしたのとは比較にならない辛さである。ここでのんびりしている私は感謝こそすれ恨みがましい事を言ってはいけないのだ。各地で被害が広がりその救出に慌しい時に無謀なヨットの遭難などで世の中に迷惑をかけてはいけない。むしろ帰港は英断だ。
 宿は温泉ではあるが民宿よりもマシという侘しさ。湯舟も銭湯より狭いくらいで三人は入れないから足を延ばすことはできるが外は見えない。雨の音が聞こえるだけだった。

こんな感じ

 ところが次の日も雨。そうなるとすることもない。だが本来であれば船に乗っているはずなのですぐに帰るのもナンである。いい機会だからとメシ時に天気を睨みながら外に行き散歩がてらビーチに出た。下田は砂浜は少なく投宿先からは結構な距離だが歩いた。時折ハラハラと降って来る雨粒を受けながら波に足を浸した(ビーサンは宿で借りた)。
 今回このマヌケな顛末でも書いてお茶を濁すつもりだったが、それどころではなくなった。ニュースでは大雨の被害は川の氾濫と土砂崩れで犠牲者も。停電・断水・浸水の大災害になっている。
 降り始めからの雨量が1000mmとは1mもの水量があるエリアに集中したことになる、おっそろしい。陸地に降るからあんな悲劇が起こる、海に降ってりゃどうってことないものを。
 そして、また温泉でふやけていると『数十年に一度の・・』と気象庁予報課長が必至に訴えたにもかかわらず想像を絶する被害が続々と報道されだした。こうしている場合じゃない、と酒も何も止めて自分だったらどうするかを考えてみた。
 さしせまった重大危機からサバイヴするにはまず『これなら助かる』などと考えずに最小限の物を掴んで逃げる事なのだろう、携帯・お金。考え出したらキリがない。
 喜寿庵という山荘で週末過ごす事が多いが、そこは断崖の上に立っているから土砂崩れに遭ったら押し潰されるより流れ落ちていく。逃げだす所はどこだ。
 自宅の場合は広域避難場所が直ぐ近くだが、あそこは原っぱだから雨具・・・危機に当たってはそんな余裕はないではないか。
 事務所は・・・・。

 いてもたってもいられずに東京に舞い戻ったが、目を覆う惨状に言葉も無い。自衛隊・消防・警察の不眠不休の努力に敬意を表するとともに、犠牲になられた方の冥福を祈るばかりである。
 一つだけ。洪水に見舞われた岡山県真備(まび)町の映像の中に『吉備真備(きびのまきび)公生誕の地』という看板が映り込んでいた。遣唐使として派遣され鑑真和上と帰国したあの吉備真備はアノあたりの出身だったのか。それにしては『まきび町』ではなくて『まび町』と読むのは何故かな。
 
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Categories:ヨット

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