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開発の蹉跌 かっこいい本庶先生

2018 OCT 9 19:19:38 pm by 西 牟呂雄

 ノーベル賞ですか、本庶佑(ほんじょ・たすく)特別教授はカッコいい。
 あのIPSの山中先生のゴルフの師匠でもあり、エイジ・シュート(現在76才)が目標だと知って、おっかなそうな表情にもかかわらず大好きになってしまいました。
 その本庶先生は、この受賞は足元の科学技術の成果ではなく、各研究資金を削りまくる前の環境で生み出された成果であることに警鐘を鳴らしておられます。
 レンホー聞いたか!一番目指さなきゃ開発競争で負けるんだよ。
 一般に薬剤開発では激しい競争があり、最先端の開発が成功してもすぐに新規参入者、或いは同業者がマーケット・インしてきて、いかに特許で守ろうとしても中々独占的にはなりません。そして排他的特許が成立しても、商品化・量産化に時間とコストがかかり、どうしても初期価格はベラボーになり勝ちです。
 オプシーボを製造している小野薬品も治験のパートナー探しに苦労して本庶教授側に中断を申し入れた経緯があるといいます。PD-1が発見されてから20年をかけて開発し、1本何十万円もの価格からのスタートでした。株が上がって今後の開発力が確保できれば何よりです。
 一方で同じノーベル賞組でも大村智先生のように基本特許を解放してしまえば、他研究機関も企業も特許化できず機会均等でリード・タイムは縮まるかもしれないですが・・・・。
 20年はかかり過ぎと思われるかもしれませんが、発見・開発されてから量産・実用化プロセスに至るまで、例えば研究所のビーカー実験でのデータをいきなりトン単位の設備に反映しようとしても、外部要因が多すぎてそう簡単には行かないのです。量産段階では設備・エネルギー・歩留、といったものが大きく違ってしまって狙い通りにはいきません。
 もう一つ、実験というものは個人の職人芸的なところがあって、センスの問題と言ってしまえば身も蓋も無いのですが、良い結果が出ても下手な人がやると再現しなかったりします。
 この20年間、最もお金がかかったのは評価装置や治験の人件費でしょう。
 本庶教授の研究成果とともに中堅薬品企業の小野薬品の根性に敬意を表する所以です。
 
 開発競争はゴールのないマラソンで、直ぐに陳腐化してしまう。しかし民間の研究機関では不況下でスポンサーが直ぐに収益に直結させたいゆえ、基礎研究部門が開発費の削減を求められやすい。すると交わることの無い神学論争が始まります。
「革新的なイノベーションは普段からの根気のいる基礎研究の延長線上にある」
 ここまではいいでしょう。ですが・・・。
「いや、効率は上げられる。対人数比での特許件数はココはこれくらい、アソコはこれくらい」
「もっと顧客のニーズに近い開発をしろ。明確な商品設計スケジュールがない研究など意味がない」
 この線引きは難しい。確かに第三者的に効率を評価をするといっても特許件数・論文提出数くらいしか数値化できる物はありません。その特許にしても、上記オプシーボの開発に20年も費やされると基本特許は切れてしまいます。そういう長い目で見ることはスタート時点では不可能でしょうね。
 特許件数に至っては、一つ特許が通ってしまえば枝葉末節をいじるだけで10~20くらいは連続して出せますし、多けりゃいいってもんじゃありませんね。ドクター中松の特許件数を見よ。こういった特許はそ開発者がテーマにのめり込むあまりに、この特許も成立する、あの数字も特許になる、とばかりにジャカスカ書いているうちにどんどん商品から遠ざかり、役に立たない特許の塊になりかねません。

 ある知り合いを思い出すのですが、僕達は陰で「幻の天才」と呼んでいました。若い頃にあることを思いついて電子レンジで実験し一定の結論を得ました。ところが当時は注目を浴びず無視されたので、個人で特許を取ったのです。
 時は流れて、今日その技術は実用化していて関連特許も幾つも出ていますが、基本特許についてはその人の特許が先行しており、それも20年を経過したため既に公知の技術になっていました。ある面、社会的な研究コストを下げたといえなくはないですが、本人には一円も入っていません。むしろ特許の維持費を持ち出していたかと推察されます。しかし、
「もう公知の技術だから誰も基本部分の特許が書けない」
 とのたまってクックックと嗤ってみせました。私には何が可笑しいのかサッパリ分かりませんが、本人は他に先行していたことに無常の喜びを感じるらしくケロッとしていましたね。尚、この人は酒乱でしたが。

 それはさておき、本庶先生の言葉に『教科書に書いてあることは全て疑え』にはシビれました。私も物理の教科書の記述に『これは嘘だ』と怒ったことがありましたが、それは単に理解が浅かっただけで意味が違うでしょうね。

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Categories:製造現場血風録

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