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あれらはどこに行ったのだろう Ⅳ

2018 DEC 1 12:12:38 pm by 西室 建

 日本橋の上を通っていた高速道路が地中を通ることになるとか。橋の上に空が甦るという概ね好意的な報道がなされている。
 御案内の通り、東京オリンピック(前回)の際に都市インフラの整備で首都高速が建設された時に覆われたわけだが、筆者は地元が近いのでその過程を一種の高揚感を持って眺めていた。立体的な構造物は多少なりとも戦後感の残る界隈に対して、未来的な都市の発展の象徴にも見えた。従って橋の上の青空を懐かしむのは70代から上の先輩達で、僕なんかは今更高速道路が消えても大して経済効果はないように思える。
 無論建設当時から『景観破壊』の論説はあったが、その前の高速道路無しのころの風景は覚えていない。日本橋と言えば例の麒麟像を見上げた時に、なんてグロいのかと慄いた感じは残っている。そもそもその頃の川の汚染は当時はすさまじく、得体の知れない泡が時々ブクブク立っていたくらいだった。川面を覗きこんだり上を見上げることなんか誰もしていなかった。
 それで、実際に高速の地中化がなされたら、今から20年後に僕の年代は『昔はこの橋の上を高速道路が通っていてね』等と懐かしむことにならないか心配だ。
 そういった意味では、単身赴任をしていた後に帰ってきて今の渋谷の駅を見たときの衝撃はついこの間のことだった。東横線のホームがない!どうやって自由が丘にいくのか一瞬呆気に取られたが、感想はと言えば、景観が破戒されたわけでもない。に地下深くなったのに驚いた。

 これは最近気が付いた話だが、電車に乗ると『読み終わりました新聞雑誌は網棚に乗せないでお持ち帰り下さい』というようなアナウンスがなくなった。そうか、最近は電車で新聞雑誌を読む人など稀で、スマホだ。
 東京駅の八重洲口あたりには、おそらく新幹線で読み捨てられただろう雑誌を(さすがに新聞はなかった)並べて売っている故買まがいのテキヤがいたことがあった。もはや成り立たないのだろう、捨てる人も買う人もいない。出版不況は構造問題で、ベスト・セラー以外は本屋に並ばなくなるだろう。 

 銀座通りに柳の街路樹があった頃。あるオッサンと何故か歩いていると『あら、久しぶり』と声が掛かった。今はすっかり見なくなった靴磨きのオバさんだった。
 僕を連れていたオッサンは『オウッ』と返事をして『久しぶりだね、一つ頼むか、元気かい』と足を磨き台に乗せて靴を磨いてもらっていた。
 その後新橋の方に歩いて行った時にこういうことを言った。
「あのオバサン戦争直後からあそこで靴磨きをやってんだけど顔の広い人でな。以前はパンパン絡みのトラブルなんかよくさばいていて今でも何かあると刑事が聞き込みに来てるぜ」
「パンパンってなーに」
「ンッ?ああ、パンスケってのはいつも神社でお祈りする時みたいにパンパンと手を叩いてる女のことだ」
 この人は別の機会にクリント・イーストウッドのマンハッタン無宿という映画の看板を指して(昔のペンキ絵の看板)、
「あの『マンハッタン無宿』ってのはオレのことだぜ」
 と言ったこともある。確かに当時そうはいなかったニューヨークに暮らしたことのあった人だったが、要するにウソつきなのだ。
 靴磨きも映画の看板もウソを教えたオッサンも故人となってもう一周忌、つくづく時は過ぎてしまった。 

あれ等はどこに行ったのだろう

あれらはどこに行ったのだろう CM編

あれらはどこに行ったのだろう Ⅲ

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Categories:遠い光景

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