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インドって国は

2019 SEP 6 6:06:47 am by 西室 建

 インドへ行くのにムンバイとかニューデリーなら直行できるが、僕が行くような奥地はどっちにしろ乗り換えるから、シンガポールやらバンコクでトランジットした方が安い。それが今回選んだのが迂闊にも香港経由だった。
毎週毎週デモがあり、武装警察も介入しそうな勢いにどうなることかとビビッたが、週末の移動は避けたので何とかなった。
 一年振りかな。いや日本より涼しいぞ。
 旧知の友人が
『オレのファームで昼飯にしよう』
と言うので気軽に応じた。ファームならば僕も喜寿庵のネイチャー・ファームをやっているから、その写真をみせてやった、ドーダ。すると奴は
『オー、これはゼン・ガーデンか』
 と聞くではないか、ふざけんな。血と汗と涙の開墾地だぞ。

ゾロゾロ車の脇を

 車で都市部の猛烈な渋滞を抜けたあと、更に3時間もかかるデカン高原特有のロック・マウンテンがあちこち見える丘の上まで連れていかれた。
不気味なことに最後は舗装もしていない一本道で、車がすれ違うこともできない山道だ。
 そこを羊の群れがゾロゾロ。そしてなぜか大袈裟なゲートがあって、中に入ったところで『ウェルカム・トゥー・マイ・ファーム』となり仰天した。

えーっ

『どこまでがお前のファームなんだ』
『あのマウンテンの麓までだ』
『・・・・』
 猫の額のような僕の開墾したネイチャー・ファームからすれば、ここは広大な台地、ポテト・フィールドの写真をせせら笑ったのも無理はない。
恐らく古い古い地層が何千万年もかけて隆起し侵食されたゆえに、岩山は亀裂が入ったロック・マウンテン。その麓はジャングルになっていて、どうやらそのうっそうとした木を切り倒し整地したようだ。
 車を降りた所から少し歩き、もういいだろうと登ったところに家があり、女性が大勢仕事をしている。畑の方にゾロゾロ歩いていっては戻ってきて仕訳をしていた。
『ここには2ファミリィが暮らしてファームの管理をしている』
 あの人数は、おそらく2種類の一族がいる、という意味だと思う。奴のカーストはブラーマン(バラモン)だから自分は手を下せないし、できそうにもない。

 山道を少し登っていった所に瀟洒なコテージがあって、そこでランチになった。驚いたことに普段は誰もいないので、僕たちのためにコックを呼んでベジタブル・カレーをふるまってくれた。
 奴は生粋のベジタリアンなのだが、ベジタリアンの定義は動く生き物の関連はダメなのだとか。魚も虫もダメ、厳密に言えばミルクも卵もダメ(ただ卵に関してはよし、という流派もある)。それではオイスターはどうなのか、と聞くとそれは微妙な所だ、と考え込んでいた。食べたことはないらしい。

 コテージはベッド・ルームが3つある凝った造りで、木の柱には細かい文様が彫りこんであったし、室内に小さなプールまでしつらえてある。子供でも水遊びをさせるのだろうか。かわいらしい。
 窓からだだ広い敷地を眺めていると『あの森の中にはワイルド・エレファントが何十頭もいるんだ』と自慢する。これって訳すと野良象になるのかな。
 そして『聞けよ。風のサウンドだ』等と洒落たことも言った。耳を澄ますと”シャー”というような木々を渡る音がする、亜大陸の風だな。

薄く水を張ったプール 意味不明

『案内しよう』
 と車ではじっこまで連れて行かれた。歩く、と言われたらどうしようと困っていたので助かる。
 巨大なビニール・ハウスが並んでいて、更におくの一画は造成中。水を汲み上げて段々畑の要領で落としていく方式だ。
 それで一体何を作っているのかと見れば、ズッキーニとかカーネーションとかばかり。
 そしていちいち車を止めると、なにやらそのたびにオッサンが寄って来て、聞いたことも無いような現地の言葉で相談をしている。奴はそのたんびにエラソーに指示を出しているように見えた。こんな感じではないか。

『こっちの作付けが遅れてるじゃないか』
『旦那、分かってるでしょう。先月あんなに雨が少なかったじゃないですか』
『嘘つけ、それは西の方の天気だろう。サボッてんじゃないのか』
『まーたまた、冗談よして下さいよ。こっちのカーネーションなんざいつでも出荷できますぜ』
 わかったぞ。奴は僕を案内しているのじゃなくて仕事をしている、即ち昔で言えば小作を監督・管理するために来て、サボってないかチェックし指示を与えているのだろう。
 このファームは奴にとって、他に3ヶ所経営している工場と同じビジネスで、僕がささやかにやっている趣味でも自給でもない。作っているのは商品、いや製品だ。
 そしてファームを拡大経営することでこの小作のおっさんたちの生活も豊になっていくのだが、経営者との格差は絶対に縮まらない。ピケティが主張した r>g はここインドでは更に現実のものであり、目の前にいる形而上に生きることが大好きなインド人は痛痒を感じていない(のかな)。以前に提唱した”分度器理論”のように、富の蓄積の差は縦軸の成長経過とともに広がっていくだろう。

 帰りは日暮れになった。
 すると往路よりもひどい渋滞に(こんな田舎でも)なった。通勤もあるのだろうが、もう一つの要因としてあからさまな過積載のトラックが多すぎる。キャパの3倍くらい積み込んで荷台が膨らんでしまったようなトラックが道幅一杯にノロノロ運転をする。そして例えは悪いがハエのように車列を縫って行くオート・リキシャ(三輪タクシー)。

田舎のシケた繁華街

 ぼんやりしながら田舎の繁華街を見ていると、
『ニシムロ、何を考えている』
と突然聞かれた。少し考えてから言った。
『インドの経済パワーについて感心している。この渋滞の凄さは経済成長にインフラストラクチャーがキャッチ・アップしていないからだ。それぐらい伸びている。私はかつての台北・マニラ・クアラルンプールがこうだったのを知っている。いずれ解消されるだろうが、その後何に投資するかで国の方向がきまると考える。それは教育ではないか。エリートの育成ではなくボトム・アップを図るべきだ。ホラ、そこらに大勢居るあの子供たちのことだ』
 すると工学部出身でエリートの奴は、珍しく神妙な顔になって頷いた。

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Categories:インド

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