厄災後のパラダイムシフト
2020 MAY 6 10:10:39 am by 西 牟呂雄
人が動かない。物が買えない。ブツが作れない。所得が落ちる。
格差は広がる。グローバル化が止まる。
ストレスはたまる。
厄災が去った後の世の中はとんでもない不況だろう。2~3年は低迷が続くのではないだろうか。失業者は増え、消費は増えない。ただ、世界同時進行のため、為替は安定して推移する。そこに猛烈な金融緩和と財政処置がなされるため、株価は終息後にジワジワ上がるが元に戻るのはもっと先。
しかし日本は他国に比べてみればまだ救いはあるのではないか。
九月入学というシステムが話題に上がっている。かねてからそのメリットが言われていたが、政策の俎上に乗ることはなかった。あるいはテレ・ワークを導入するインセンティヴは殆ど無かったが、否応なくせざるを得なくなった。
一種の外圧によってアジャストする羽目になったが、日本人はそれをきっかけに成長のバネに変えるのに長けていた。維新、敗戦・・。
具体的には先進国最低のホワイトの生産性の上昇になるかもしれない。私はこの生産性の低さは幹部が機関決定をするためにセレモニーとして行われる会議の異常な人数と長さだと考えている。関係ない人間まで集めるため時間がかかりすぎている、すなわちコストが高くついているのだ。しかも会議前段の世間話に毛が生えたような前振りがハンパないのである。
無駄な会食、意味のない挨拶、訪問が仕事だと思っている営業、本質と関係ない質問、行かなくてもいい出張。テレ・ワークが一般化すると今までいかに無駄が多かったかに気付くはずだ。
一方でAIは厄災にも不況にも関わらず発達する。人は余る一方だ。企業も役所もどんどん減らしていくことになる。失業者は増えるのか、さにあらず。
日本は労働人口が今後減り続けるのだ。
厄災脱出の暁には、ホワイトが兼業をするようになる、むしろそれを勧められる。普通のサラリーマンが自宅で複数の仕事をこなす、そんな働き方ができるようになる。企業側は単価を落とすことができ、個人は収入が若干上がる。ただ、機密保持や知財の扱いが問題になるので透明性をいかに管理するかの課題はある。同業他社との兼業禁止といったルールは必要になる。
そもそも農耕民族と考えられている日本人の集中力が突然飛躍的に上がることなどない。天候を気にし、水に気を使い、それでも毎年のように災害に襲われながらシコシコやってきたのだから。企業の競争力があったのも、世界中でそんな民族はいないから異常な生産性(特に事務方の)の低さにもかかわらず低コストと規模拡大ができたからだと思う。様々な圧力により休日を増やさざるを得なかった所以であった。
一方でグローバル化も進展していく、いかざるを得ない。今日の経済活動水準からみて止めることは不可能だ。それにしても厄災以前とは違ってくる。
中国発の風土病が瞬く間に広がるのを何度も経験すれば、さすがにリスクは分散しなければ。そしてその中国は一帯一路に血道をあげ南シナ海の野心を隠そうともしない。その中国にセッセと投資してきた日本の企業に限って言えば、競争力を確保するため安い労働力を求めて殺到したのだ(2000年代)。それからもう20年も経って現在では意外と安くはなくなっている。
中国の立場は決定的に悪くなった。
観光産業の打撃は計り知れなく、当面回復もない。しかし京都などは押し寄せる観光客で市民の生活に支障があるくらいだったではないか。どうであろう、厄災後の立ち上がりの際には思い切って値上げしてはどうなのか。無論人数は減るが売り上げはそれなりのものになり、落ち着いた観光が甦ると考えては。価格競争はもうしない、と。
サラリーマンはこのチャンスに短時間で働き、兼業に精を出し、無駄にウロウロするようなことを止める。東京一極集中も緩むだろう。不況を横目に巨大IT企業は空前の利益を稼ぎ出すが、納税というスタビライザーとは無縁のため、便利ではあるが少しも豊かにならない。
それどころかこの調子で格差はどうにもならないところまで拡がりそうな勢いだ。いささか厭世的な気分で、行くところまで行かなければ先の展望も開けないとさえ思う。先述の通り、日本は維新・敗戦といったものをバネにした。
問題は拡がったがった格差により中流から転落しそうなゾーンがどういう意識か、だと見ている。この差が政策だの何だのでは手が付けられないほどになった時、調整機能は戦争か革命であった、とピケティは数字により実証してみせた。20世紀まではそうだったのだ。
それでは日本はどうなるのか。今更革命でもあるまい。金融戦争では既に負けている(アメリカに、だ)。上記『転落しそうなゾーン』の投票行動はあまり当てにならない。
ただ、今後はそういう輩も『稼ぐ力』よりもっと内に向かっていく方向に舵を切るのではないか。いくつかの前提があるのだが、少しそれを整理して考えてみたいと思う。日本はまだ救いがある、と書いたのはそのあたりのことなのだが、まだ練られた言葉にならない。
ところで『お前はどうなんだ』の声がする。僕?僕は普段と何も変わらない。
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Categories:2021年の安寧