Sonar Members Club No.36

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レイモンド君再び

2021 OCT 14 9:09:36 am by 西 牟呂雄

 赤トンボが増えたなー、という初秋の山荘で道路を掃いていた。何しろ物凄い落ち葉だから今からやっても12月には絨毯を敷いたようになってしまう。
 向こうから大小二つの人影がやって来る。そろそろかな、と思っていたヒョッコリ先生だ。すると小さい方はレイモンド君だろう。だいぶ歩くのが早くなってる。
『やあやあやあ、いい季節になったね』
『紅葉はまだですけど涼しくはなりましたね。レイモンド君上手に歩けてるじゃないですか』
『うん。まだ喋れないけど表情がはっきりしてね』
『ミャミャミャグイー』
 僕はすっかり友達になって仲良しだから、レイモンド君はヨチヨチと寄って来た。抱っこしてやろうとすると、いやがって門の中に入ろうとする。弱ったな。
『なんだ、レイモンド。お庭で遊びたいのか』
 オイオイ、オレのうちの庭だろう。この先生は勝手に入って来るけど。これは・・・。
『そうか。ちょうどいいや。キミ30分ほど見ててくれないか。そこまで行ってくるから』
『(そーら、おいでなすった。いつもの手だ)エート、ちょっと忙しいんで』
『ナニ、すぐ帰って来るよ。どうせ今だけだろ、忙しいの。普段はヒマそうじゃない』
『(勝手に決めんな)はァ、まぁ、ね』
『ホッコンホッコンヨー』
『あっ、コラコラ勝手に行っちゃだめだってば』
『じゃあよろしく』
 やられた。まっ、しょうがないか。久しぶりだし。
 前に喜寿庵に来た時は全くのオギャーだったから庭を覚えているはずはないが、トコトコと入って行ってしまった。ここは崖の上だから放し飼いにはできない。追いかけていくと芝生の真ん中に立っていた。

彼岸花

 そして庭の隅っこに咲いている彼岸花を見ていたと思うと、そっちに突進した。ヤバい、あの花はちょうどレイモンド君と高さが同じだ。『キャ~』とか言いながら花びらを掴んでしまった。『コラコラコラ、ダメー』と駆け寄ったが遅かった。一緒に遊んでいるつもりかケラケラ笑いながら引きちぎってる。口に入れるのはかろうじて止めさせた。
 暫く花びらで遊んでいたが、それに飽きるとネイチャー・ファームの方に行こうとする。あっちのピーマンとナスもまた等身大だからマズい。何しろこんな赤ちゃんに毛が生えた程度のチビでも、その機動力と破壊力は凄い。オトナが気が付かないところで想像もしないようなことをやりたがる、できもしないくせに。しょうがなくて少し離れた公園に連れて行った。

 そしてそこでもレイモンド君の探求心と行動力は怯まなかった。どうも動く物が好きらしく、車が通ると『キャー』と駆け寄り、ブランコにしがみつき、すべり台によじ登ろうとする、いずれもできないのだが。目を離すとトコトコ行ってしまうので、いつも傍にいないとヤバい。これではまるで犬の散歩だ。
 ところがしばらくすると、僕とレイモンド君の間では会話が成り立っていることに気が付いた。『はい、何か貰ったら、ありがとうございます、だよ』というとペコッと腰を折って『あーがあ~~』これが、ありがとうございます、のようなのだ。他にも、どっこいしょ、とか、ヤッター、と言っている(ような気がする)ではないか。
 待てよ、これはテレパシーじゃないのか。口には上手く出せないが、超能力で伝えているのではなかろうか。僕は凡人だたら、ひょっとしてレイモンド君はエスパーなのかもしれない。
 試しに、心の中で『レイモンド君。君はエスパーなのかい』と念じてみると、そうだよと返事をするではないか!
『ダー、ダー』
 これはロシア語の肯定だ!何で僕がロシア語を使うのを知ってるんだ。ん?

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Categories:和の心 喜寿庵

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