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ZOOMの向こうの悲しげな眼

2022 MAR 16 0:00:59 am by 西 牟呂雄

 顔はカメラの向けられず俯いていた。
「何てことをしてくれたのだ」
「皆さんに恥ずかしい」
「我が国は世界の信用を失った」
「何て事をしてくれたのだ」
「私があやまってもしょうがないが申し訳ない」
 憔悴し切った声には生気がない。
 相手はエカテリンブルグにいるロシア人。10年に渡るパートナーである。来日時には我が喜寿庵にも来て、たまたま来ていた学生たちと交流したこともある。
 大学工学部を卒業してエンジニアとしてスタート、ソ連が崩壊した。その後ジョブ・ホッピングした後に起業してあの国有資産のブン取り合戦のさなかで経営してきた。まじめでロシア人にしては珍しく酒が飲めない。個人的にはいかなる状況下でも、彼との友情に応えたいのだがやれることは狭まりつつある。手仕舞いか凍結か。日本は非友好国認定された。
 耳障りのいい情報だけに頼ってプッツンした大統領が悪い。クラスター爆弾、病院・学校空爆、次はマスタード・ガスか・・・限定的な核。
 核が使われたらNATOは黙っていない。核に対して核が使われなければ抑止理論そのものが破綻する。プーチンはそこまで狂ったか。もう他人事ではない。モスクワの地下ではすでに凄まじい情報戦が繰り広げられていることだろう。
 今もモスクワにいるさる日本人は侵攻直前まで、そんな心配はない、いったい何の大義があってキエフを攻めることができるのか、議会も機能している国でそんなことが始まるはずはない、西側報道はヒステリーだと断言してメンツを失った。現在は、これ以上経済制裁を受けてもっと酷いことをしでかさないか、と恐れている。
 街は警察官の数が目に見えて増え、おかげで治安は保たれているらしい。デモの光景が今までは放映されていたが、今後は見ることはできないだろう。報道規制が凄いことになりつつあるからである。あのロシアのスキンヘッド国連大使など、仕事とは言え全くの嘘っぱちを読み上げさせられているのは気の毒にさえなってくる。世界はカティンの森を忘れはしない。
 ロシア国内にはフェイク・ニュースが入り乱れ、国営テレビでは傭兵まで使うロシア軍は平和のために戦っているのだそうだ。ネットの統制も時間の問題だろう。ウクライナではお家芸である略奪・殺人・暴行が始まるに違いない。
 悲惨さ、非情さ、残酷さ、不条理さは今更ブログで私が書くどころではない。
 翻って、21世紀になってまでもあのような愚行が現実に起こり、それは我が国周辺でいくらでも可能性を秘めているという事実だ。前期高齢者である我が世代はイザという時に備えなければ。人間の盾にしかなれないだろうが、海に囲まれたわが国では子供がボート・ピープルになってしまう。
 無論プーチンは言語道断である。しかし、まともなロシア人も多いのだと付け加えたい。既読の読者もいるかも知れないが、あくまで冷静に思い出を記しておく。

「ワタシの名前はアリョーナです」
「こんにちわ。日本語が上手ですね」
「・・・・」
 同行のアレクサンドルが慌てて何か言った後、教えてくれた。
「彼女、『じょうず』がわからなかったんだよ」
 訪問先のマネジャーが『ウチの娘が日本のアニメが好きなんだがセリフは吹き替えだ。ところがテーマソングは日本語で流れて日本語の字幕が映る。それを覚えたくてネットで日本語講座を見つけて勉強しているんだが、日本人とナマの日本語を話したことがない。電話するから話しかけてやってくれ』と言って受話器を取ったのだった。
「おとなになったら日本に来てください。待っています」
 あれから10年。きっと飛び切りの美人になっていることだろう。

 気が重い。平常心を保ちつつウクライナの安寧を祈る。

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Categories:ロシア残照

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