定点観測の妙味
2022 MAY 1 9:09:20 am by 西 牟呂雄
喜寿庵のネイチャー・ファームの畔に植えてある枝垂桜が4月の初めには蕾をつけた。
3月一杯はほとんどこちらに籠っていたのだが、新年度になってさすがにテレ・ワークも飽きて山から下りようとした時に撮ってみた。
やけに赤いというか、咲いた時の色に比べて毒のあるような強烈さを感じた。
ところが途端にコロナが増えてしまい、ノコノコまたやってきてみると満開だった。
蕾の時とは似ても似つかない、淡く気高い花を咲かせていた。
ソメイヨシノが連なって咲くのも見事だが、この桜はポツンと立っている。
僕はこの桜が好きで、まるでペットを可愛がるような気持ちで眺めている。
するとおかしなことに、犬や猫にそうするようにこの枝垂れにも名前を付けてやりたくなり、それも例えば『フォーリング・チェリー』とか『マリリン』とかいった軽薄な横文字ではなく、漢字一文字にすると何がいいかとあれこれ思い悩み、『玲』という文字を選んだ。玉の鳴る音をあらわし、玉のように美しいことを形容する文字である。
そう名付けて眺めていると、涼やかな微風にたなびく姿はかすかに鈴の音がきこえるように揺れ、尚且つ輝くように奇麗なのだ。
思うにこの見事な色合いになるために、冬の厳しい寒さの中を耐えて何とかあの煮詰めたような蕾を付けてこその満開なのだ。そういえば蕾の色はフト血の色を連想させなくもない。
こういう変化を眺め続けるのも定点観測の醍醐味である。
ネイチャー・ファームには、同じくこの半年寒風に晒され20cmもの積雪の中を(ほったらかしにされつつも)生き延びたスーパー・ニンニ君達が健気にも育っている。ニンニ君は同じところでの連作は、こまめに追肥してやらなければならないから僕のようなシロートには無理なので、ネイチャー・ファームの中を転々としているが、これも長い目で見れば定点観測だ。
で、突然ここで自分という人間を定点観測てみたらということを思いついた。
例えば長いことここに立っている桜の『玲』が、頻繁にやって来る僕のことをどう見ているのか。
いかにも明るい都会の坊ちゃん、ジーッと蟻の行列を半日見ている少年、背中まで髪を伸ばしたバンド屋、遅まきながらのリーゼント・ボーイ、夕日が落ちるまでたたずむ詩人、負けてばかりいるギャンブラー、独り言をしゃべり続けるアル中、契約に思いを巡らせるビジネスマン、まったく腕の上がらないゴルファー、国籍不明のヨット・マン、じょうろで野菜に水やりする素人ジェントリー・ファーマー、古希にならんとするスノー・ボーダー、・・・止めた。
振り返ると水仙が花を開き桃の花が咲いた。この桃は源平と言って白とピングの花が一緒に咲くのだが今年は白ばかり。
定点観測をしていると、自然も姿を変えていくのか。ましてや生身の人間においておや。
我が身の変遷を振り返ってみて、一つ気が付いたことがある。この半世紀を通じて興味の趣くままに暮らし、それなりに精進したつもりではあった。しかし、風体は多少変われども、例えばIQが上がったとか品格が増したなどという事はない。だが、その間の様々なチャレンジが全部無駄だったかと言えばそう簡単には言い切れない。多少の役に立ち、多大な迷惑を振りまきはしたが、そこには存在していたことは確かで、その(中身は変わらないとしても)果実を味わうのはこれからに違いない。というどうにも爽やかでないオチになってしまった。
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Categories:和の心 喜寿庵
S.T.
5/2/2022 | Permalink
ファームもお庭もすてきですね。
そういえば過去の「ケムラー」の記事、いつか読ませていただいたのですが、あれはオオミズアオという蛾の1齢幼虫かなとおもいます。成虫を「神々しい」と書かれていましたが、旧学名は Actias artemis ですからそんな印象の蛾ですよね。指に乗っけると、なんと言うか、命の重さです。
西 牟呂雄
5/2/2022 | Permalink
アルテミス、アポロンの双子の妹で月の女神。
ケムラーが女神はチョット・・・。
今年も出たら踏み殺しますが。
S.T.
5/3/2022 | Permalink
昆虫は痛覚がない可能性が大きいようですので…踏んで殺しても……。花も虫も人間も、とても不思議です。