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慟哭のリア 俳優座

2024 NOV 10 0:00:58 am by 西 牟呂雄

 言わずと知れたシェークスピアの名作『リア王』の舞台を見てきました。
 それが一捻りした脚本で、舞台を明治の筑豊炭鉱に置き換えて、女主人と3人の息子の物語に仕立てました。この手は以前にもあって、黒澤明が戦国時代の話に焼き直した映画がありましたが、さて筑豊を舞台にするとどうなるのか興味の湧くところです。
 筆者は北九州に赴任したことがあり、住んだことはありませんが筑豊と呼ばれる田川・飯塚といった旧産炭地にはよく出かけていました。一言で言って激ヤバのエリアであることを肌で感じたものです(人はいいのですがね)。そんな雰囲気を脚本に込められるものかどうか、楽しみに観劇しました。
 リア王の筋立ては周知のストーリーで、それを台本・演出の東憲司さんがいかなる味付けをするか。無論悲劇なのだが、例えばどこに『笑い』を入れるのか、どこから急展開させるのか、が見物です。

岩崎加根子さん

 ところで、リアを演ずるのは岩崎加根子さん御年92才!劇団俳優座養成所の第1期生の舞台歴70年という大ベテラン。そういえば俳優座劇場が今年創立70年ですから、劇場と共に歩まれたことになります。劇場は老朽化に伴い来年閉鎖されますから、将にフィナーレを飾るにふさわしい。
 主人公は亡き夫の後を継ぎ荒々しい環境で炭鉱を経営した女性。片脚に障害のある長男、放蕩息子で粗暴な次男、東京で被れたマルクス・ボーイの三男、というお膳立てには唸らされました。

 さて幕が開くと、なるほど重厚なテーマだけあって硬派な演出、息をつかせぬ展開で、笑いも挟まずセンチメンタルな泣きも入らず、ものすごいテンポで一気呵成にフィナーレまで観客を引っ張っていきました。岩崎加根子さんは背筋も伸びて声も通る。凄い貫録で炭鉱の女主人が滲み出る熱演です。
 そして脚本は元々の本筋を一度バラして組み立てなおすように展開していきます。両眼を失うグロスター伯爵は忠実な下僕である与平に、グロスター伯の私生児エドマンドは何と女主人の亭主が妾に産ませた善治として狂言回しとなり、尚且つ3人の息子を反目させる。
 息子達は年の若い順に死んでいき、善治も最期は死ぬ。その死に囲まれた女主人の慟哭。この『慟哭』がクゼ者で、大声を上げて泣き喚くことはせず、岩崎さんの表情で、うーむ。お見事!
 
 ところで、僕は前述の勤務した経緯からあのあたりの炭鉱弁はネイティヴで使えますが、役者さん達は見事にこなしました。単なる九州弁でないところがミソで、同じ福岡でもタモリや武田鉄矢が喋る博多弁とビミョーに違うのです。遠賀川をはさんで西と東ですね。でもって、東側の言葉の方が荒い、キ・タ・ナ・イのですな。おまけに落盤事故のエピソードがあるなど臨場感満載。感心してパンフレットを読むと演出の東憲司さんは福岡県出身とのこと、ははあ成程ねぇ。

渡辺聡さん

 読者諸兄諸姉に観劇を勧めたいところですが昨日が千穐楽、又の機会になるのは残念。善治役の渡辺聡さんという男優さん、上手いですよ。この人イチオシです。

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Categories:古典

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