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寒い日のドタバタ

2025 MAR 9 21:21:24 pm by 西 牟呂雄

 オレは今までを振り返って、たまには真剣に悩んだり心底困った事態にも遭遇してはいるが、そういう思いに関わらず全体を通して第三者の目から見れば、ドタバタ・アクション・コメディの主人公ではないかと思われても仕方がないことをやっているのではないか。
 熱心な読者(がいればの話だが)であれば過去のブログからその一端を知ることができるであろう。今を去ること数日前の、あの都心も積雪した日にも忌まわしい目に合ったのだ。
 オレは打ち合わせのために総武線の〇〇駅に降り立ち、先方の事務所に向った。3月というのに真冬の寒さ、こちらにも非のある案件の処理という憂鬱な話だった。堂々巡りの議論の末、かなり譲歩を強いられることになり気分は更に落ち込んだ。暗い気持ちで雪から小雨に変わった坂道をトボトボ下っているうちにハッとした、荷物を持っていない。そしてオレのたよりない記憶を辿ると、事務所を訪問する前から持っていなかった。中身はパソコンだ。いつまで持っていたのかを必死に考えて、電車の座った時の網棚だと確信した。またしてもやらかした訳だ。持ち歩くので、たいして重要なデータは残してはいないのの、公私にわたる今後の成り行きの煩雑さを想像して青ざめた。
 降りた駅の改札で、駅員さんに事のあらましをすがるように訴える。すると手慣れた様子で厳かにこういった。
『今は届けはまだないでしょうね。終点でも折り返し電車は遺失物の確認はやらないのですよ。どの電車か特定できますか』
 奇跡的に待ち合わせ時間を確認して降りた時が10時45分だったのを覚えていた。その時間にここを出た〇〇行だったと答えると駅員さんはしばらく何かを検索していて、慌てて教えてくれた。
『その電車は〇〇で折り返して、あと5分後にここを出る△△行きで戻ってきます。乗って調べた方が早いでしょう。それでなければ逸失届をここに連絡してください』
 何という巡り合わせか。お礼もそこそこに改札を通ると、SUIKAの残高が無くなったらしく通れない。焦りつつチャージしてホームに降り、どのへんで降りたかなと見当をつけていたら電車が滑り込んできた、飛び乗る。そして網棚を探しながら車両を移っているうちに更に驚くべき事実が判明した、逆方向の〇〇行ではないか。探す電車は折り返しだから△△行きで、その時乗るべき電車とすれ違った。何たることか、この慌て者め。
 次の駅で飛び降りて頭をフル回転させる。△△方面の次の電車は3分後である。それに乗って2駅進むと快速電車に乗り換えられる。日中は終点の△△駅でも折り返すはずだから快速電車で3分を縮めれば△△駅で捕まえられるのではないか。行くぞ。オレはトム・クルーズにでもなったつもりで、駅構内を走り車中で15分間ヤキモキし、△△駅では階段を駆け下りて登った。
 目指す電車は出発間際だったが、かろうじて間に合った。そしてまるで犯罪者を追うような目つきで物色していると、オレの遺失物は黄金の様な輝きを放って網棚にあった(実際は黒いリュック)。ひったくるように手に取った時、席に座っていたおっさんがまるでオレを置き引きの様な不振の目付きで見上げていた。
 オレは中身を確認しながら、あの状況で瞬時に冷静な行動ができたことに深く満足し、その優れた判断とスパイ大作戦並の素早いアクションに感動していた。が、冷静沈着な人間は網棚にモノなど忘れ降りたりはしないのではないか、との天の声が聞こえる。
 次に、そうは言っても忘れ物を乗せた電車が折り返してくるタイミングで打合せが終わったことは天佑神助ではないか、と自分のツキに酔い痴れた。が、運のいい人間は降りる前に忘れていることに何かのきっかけで気が付くのではないか、とまた天がささやく。気になってオレは今日の占いを検索すると、いくつかのコーナーではオレの✖✖座は、12星座中最下位、ツキはなかったのだ。
 そしてそれどころではない、苦難は続く。翌日にはさるモノを買い、支払いを済ませて電車に乗った途端にそのブツが消えた。一駅先から折り返し、前日のように必死の形相で店に向った。すると店の人は怪訝そうな顔でオレの差し出した領収書を一瞥し、奥に入るとブツが届いていたらしく持ってきた。顔には『このオッサン痴呆か?』と書いてあった。

 様々なマヌケな事態を収拾するために駆けずり回った大騒ぎを繰り返し、人生の何分の一(寒い日に限って言えば起きている時間の1/8にもなる)を無駄にしているのだ。このペースで行くといずれは人生が100%ムダになるのも時間の問題である。
 せめて酒でもやめなければ(ウソ)。
 ところで、親切にダイヤを確認して折り返しの電車を突き止めてくれた親切な駅員さんを後日訪ねてお礼を言おうとした。行くと窓口には別の駅員さんがいたが、丁寧にお礼を言ってその後のスリリングな展開を話すと『そんなことができたんですか。すごいですね。伝えておきます』と感心してくれた。ここでも顔には『バカじゃねえの』と書いてあったが。

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Categories:アルツハルマゲドン

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