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梅雨の合間に伊東まで

2025 JUN 15 17:17:17 pm by 西 牟呂雄

 朝、八時に船を下す。湾内は微風で、やや雲があるものの雨はなさそうである。今日は恒例の油壷ー伊東レース。ところが、我が艇は幹事になっているため、スキッパーは本部詰め、ボースンも伊東待機となり、僕は別の僚船に乗ることになった。
 それが普段の自分の船とは違う船に乗るとスイッチ一つ分からない。舵を取っても感触は微妙に違う。これは車の運転よりも深刻だ。レンタカーだろうが新車だろうがハンドルを握ってアクセルを踏めば動くことは動く。ところがクルーザーの場合はまっすぐ行くのも感覚が違って、車で言えば『車庫入れ』のような操船は難しい。おまけに乗せてもらった船は今どきのハイ・テク船で、セールの上げ下ろしまで電動。凄い船だった。

デジタル

ラットもデカい

 エントリーを済ませ、本部船と黄色いマークを結んだ線がスタート・ラインなのでその線に沿うようにポジション取りが始まった。風は南西の吹上で、伊東はほぼ真東である。いわゆる片上り(かたのぼり)というやつで、余計なタックはかけずに行ける、というのがスキッパーの作戦だ。5分前・4分前(エンジンストップ)、風に向かうかたちで進み、スタートのホーンと同時に大きく舵を切った。ヨシ!ナイス・スタート!
 いい風を拾った。だがそれは他の船も一緒だから一斉に50杯もクルーザーが出ていく。一部の船はコースの北側、江の島方面に舳先を向けている。追い風に乗る作戦のようだ。この場合距離が長くなる分とその後の向かい風のハンデを計算するのだが、風が変わると読んだのかも知れない。
 しかしこのハイテク艇はレース仕様ではないのにさすがに早い。船団はバラけてきた。
 イイカンジで進んで行くので、スキッパーにお願いして舵を取らせてもらった。
 おぉッ、すごい切り上がりだ。風を受けるとセールがしなって船は必然的に風上に向きを変えようとする。それを強引に舵を切って目一杯風を孕むとグーッと船速が上がる。
 先を行っている船に近づいた。『あれ抜けるだろ。どっちからにする』とスキッパーが聞いてきた。風上側(この場合進行方向に対し左側)を抜けるか風下側からか。この際風上側を走って右側に相手に悪い風を送って一気に抜こうかと考えた。
 ところがあと少しのところで先に出られない。どうしたことか。すると百戦錬磨のスキッパーがイラついたように『舵の切りすぎだ』と怒鳴った。船の進路を固定しようとするあまり滑らかな走りができていないのだ。先行艇を交差するように右舷に出てやや角度を落としていくと、なるほど抜けた。
 熱海沖の初島北側を通り伊東港へ針路を向けると同じクラスの船が数杯競っていた。ここまでくれば順位を落とすことはないだろう。舵をスキッパーに返して入港のビールを空けた。
 ずっと風に当たり続けおまけに薄曇りが時々晴れる紫外線MAXを浴びたようでヒリヒリする。温泉に入るtとゴッツく染みた。

 翌朝は当然ゾンビ状態で船に乗った。レース・スタッフの部屋に空きがあるというので、しめたともぐりこんだのだが、なんとその部屋が宴会部屋になってしまい、入れ代わり立ち代わり見たこともない人がやってきて眠れない。中途で自己紹介があったような気がしたが覚えていない。大浴場に行った記憶もないのにメガネもタオルもどこかに消えた。
 さて帰りの風はというと、湾を出ると水平線も分からないほどモヤッてしまい風もない。トロンとしたベタ凪なのだ。

 風も波もなく汽走で帰る。
 舵を取るでもなくオート・パイロットでぼんやり鏡のような海を見ていると、様々なことが胸に去来する。
 先日のあった小学校の同窓会のこと、亡くなった身内、会えなくなった外国のパートナー、昔の上司、楽しかった仲間、好きだったサウンド、夢中になった映像、大嫌いだった奴、あのときこうしていたら、死にそうになったこと、子供だった頃、とても悲しかった話、あの人はどうしてるだろうか。
 こうしてみると、普段ふざけ散らしているくせにやたらと物悲しいことの方が浮かんできてしまう。はしゃいでばかりいるからそっちの思い出はあまり残らず、ピンポイントで寂しかったり悲しかった思い出が湧き上がってくるのだろうか・・・。
 待てよ、そう先でもなくなった死ぬときに、そんなことばかりが脳内に残るのはいやだなぁ。

 イルカが群れでいる、遊んでるんだな。あっ、油壷に着いてしまった。

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Categories:ヨット

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