残念な楽譜
2018 MAY 25 10:10:37 am by 吉田 康子
最近残念だったもの・・・それはショーソン作曲「コンセール」のサラベール版の楽譜です。
ピアノとヴァイオリンと弦楽四重奏の為の、と副題があるOp.21の曲。
これは2007年に旧奏楽堂でのライヴ・イマジンで取り上げたことがあります。第2楽章のシチリアーノはNHK-FM音楽番組のテーマ曲にも使われたことがあるので、耳にしたことがある方も多いかもしれません。どの楽章もドラマチックでくぐもった美しさがあって、ぞっこん惚れ込んで練習を始めました。いやはやピアノの音が多すぎ!という感じ。しかも増6度とか増3度とか馴染みの薄い和音のアルペジオで譜読みに苦労しました。
当時はインターナショナル版しかセット楽譜が売っていなかったので、それを購入して使いました。そして図書館でフランスのサラベール版をコピー。比べてみると中身はほぼ同じでしたが、やはりフランスのサラベール版は、少し大きめサイズで表紙の文字からして雰囲気がありました。当時共演したヴァイオリニストが発注していましたが、結局は到着が本番に間に合いませんでした。
下の画像の左がインターナショナル版、右がサラベール版です。
もし機会があれば今度は是非サラベール版でと思っていました。ライヴ・イマジン41で演奏出来ることになったので早めに発注。値段を見てビックリ!インターナショナル版は全パートのセット譜¥7650に対して、サラベール版は何と弦楽器のパート譜セットだけで¥6170、別売りのスコアを兼ねたピアノ譜は¥8240もしました。全部買えば倍額近くになります。とりあえずピアノ譜だけ発注しましたが、ゆうに2か月を要してようやく届いたのが、これです。
何これ?!と思わず呟いたほどでした。間違った楽譜を頼んだかと焦りました。コピー譜を綴じたかのようなリング式で間に合わせのような装丁。しかも実際はA4より小さめサイズ。何でこんなに変わってしまったのか?図書館にあった昔の装丁の楽譜を想像して楽しみにしていたのに、子供のスケッチブックのようなもので¥8240は、ぼったくりでしょう?!なんか騙された気分でした。
細かい音が多い曲だけにこのままでは書き込みも出来ず使い物にならない・・と思案した挙句、拡大してB4版にと思い立ちました。先日キンコースに行ってクリーム色の紙を指定して両面印刷、表紙には透明なカバー、裏表紙には紙と同じクリーム色の台紙にしてリング式で仕立て直したら見違えるように。こちらの方が余程綺麗で見やすいです。
下の画像は、上から以前使ったインターナショナル版(ペヌティエとパスキエのサインも)、今回取り寄せたサラベール版、拡大してB4版にしたもの。
まぁこれも通販ですから、実物を見ないで買うというのはこういう事かもしれません。そういえば楽譜店のサイトにも画像が載っていなかった事に今更ながら気づきました。
改めてサラベール版について検索してみると「ドビュッシーやラヴェル、サン=サーンスの作品を出版しているデュラン社は1869年、サラベール社は1894年の創立ですが、現在では独立経営が難しくなったため1907年創設のエシック社と組んで共同経営する形をとっています。出版社が合併・統合を繰り返し次第にそれぞれが持っていた個性を失って行くのはなんとなく寂しい気はしますが、これも時代の流れの中ではやむを得ないことなのでしょう。」という記述があって共感。
学生時代には、ショパンのコルトー版といえばサラベール社から出版されている水色の高価な楽譜でした。ポーランドのパデレフスキー版が¥2000くらいだった時にコルトー版は¥6000くらいしていましたが今では全音からライセンス版が出ています。装丁や紙の質が悪かったパデレフスキー版は、すぐにページがバラバラになってしまっていましたが、これも下の画像の通り今では日本語解説が付いた何の変哲もない国内版になっています。
今では楽譜を売っている店が減り、ネット取り寄せや気に入った1曲だけをダウンロードできるサービスもあり、隔世の感があります。
上の画像は中古で買ったフランスの楽譜で廃版のものばかりですが、表紙の絵や文字に個性が感じられて味わいがあります。懐古趣味ではありませんが、私は旧いものの方に心惹かれます。効率だけを求めて合理化したものも必要でしょうけれど、こういう趣味のものにはそれぞれが持つ味わいを残して欲しいです。
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東 賢太郎
5/25/2018 | 5:20 PM Permalink
吉田さん、まったく同感です。僕のラヴェルの管弦楽スコア、ピアノ譜はDurand社で、あのセンスのいい装丁と表紙の色でないと何となくラヴェルの音が出る感じがしません。EUも英米もベルヌ条約で著作権は死後70年で、2007年にラヴェルが音友社から出ていよいよ来たかと寂しかったのを覚えています。
ショーソンはもっと前に切れてるのでpublic domainでありご存知と思いますがpetrucciで米国のコピー屋Dover版画像が無料で手に入ります。SalabertもDurandも看板作曲家の権利切れで経営が立ち行かずUMPG(ユニバーサル)に買収されてしまいました。この会社はカナダのユダヤ系酒屋とフランスのロスチャイルド系水道屋が元になった世界の楽譜と音源(レーベル)、映像、を牛耳るドンで大阪のUSJも系列です。
資本主義はこういうものです。彼らの目にはクラシック音楽なんてのは版権が切れた「もうからない楽譜」にすぎません。マーラーの復活の自筆スコアは6億円で売れましたが中身の価値はほぼゼロということですから骨とう品としての値段ですね。吉田さんの楽譜への愛着は演奏家として素晴らしいと思います。そういうものが演奏に出るかもしれないし、僕は聴く側の感性としてとても大事にしています。
吉田 康子
5/25/2018 | 6:16 PM Permalink
東さん、共感して頂けるのは嬉しいです。
フランスの楽譜は、DurandやSalabertだけでなく、EschigやJobert、Hamelle、Lemoineなどなど素敵な装丁で曲が伝わってくるようですね。表紙の文字やイラストだけに惹かれて同じ曲の楽譜を何冊も持っていたりします。資本主義的に考えれば、単なる紙切れに過ぎないのでしょうけど。
楽譜は中身の音符さえ伝わればいいのなら、petrucciのコピーで十分です。データ配信の電子書籍で読書というのと同じですね。現行品の楽譜を買うのであれば通販の方がお手軽ですが、単なる買い物であって何の魅力もありません。
中古楽譜を見たり探したりするのは、ささやかな私の楽しみのひとつです。何らかの形で演奏に反映できるといいのですが・・・
西村 淳
5/26/2018 | 4:42 AM Permalink
楽譜ってやはり使う人に寄り添って、ということがなければ失格でしょう。その点では表紙のロゴが変わる前のHenle版は紙の質(反射しない、厚さ、触感、色など)ひとつとっても最高でした。利潤追求のみに走るとコストダウンだけが最大のパラメータとなってしまい、使う人なんかどこかに飛んでしまう。それは疲弊していった日本の製造業にも顕著です。
センスのいいフランスの楽譜は手に取るととても嬉しいですね。手にするだけで音楽が立ち昇る感じがします。ところでショーソンはサラベールとは名ばかり、ユダヤ音楽産業に牛耳られているまでは知りませんでした。みかけがガッカリなら中身もガッカリかもしれません。私達はスラーのしっぽがどこまで伸びているかまで拘らなければならないのに。やはり手に取って、ということが必要でしょうけれどそれが可能なのは本郷のアカデミアくらいしかないというのが現実ですね。
maeda
5/26/2018 | 2:21 PM Permalink
私も、そのスケッチブックのような版を本郷の某楽譜屋さんで購入しましたが、あとで無料サイトでダウンロードできる譜面とまったく同じに見えてがっかりしました。印刷は不鮮明で、自分のパートをやはりB4版にして(自分で製本)みましたが、不鮮明なものは不鮮明。スコアというかピアノ譜も必要だったのでコピーしてページ数が多くて骨が折れましたが自分で製本しました。
普通は譜面は、コピー防止のためか特殊な縦横比で作られていますが、この譜面はA4。出版社がコピーで作成したということ?
ところで、詩曲(Poeme)の方は、ちゃんとした譜面でしたが、最初の解説に、なぜPoemeという題になったかを伺わせる説明がありました。元々交響詩として着想されたためか、最初の自筆譜はPoeme symphonique pour violon et orquestreという題名になっていたのが、Poemeになったという由。でも、無料サイトでダウンロードできる自筆譜には見慣れた題名しか付いていません。複数の自筆譜があるということ??
吉田 康子
5/26/2018 | 10:18 PM Permalink
西村さん
そうですね。ヘンレ版は紙の質も糸綴じの製本も最高でした。
昔、ベートーヴェンソナタの分厚い楽譜とバッハの平均律が
私にとって初めての輸入版でしたが、とてもしっかりとした製本でこれから本格的に勉強するんだという気持ちになりました。
その反面、当時のバッハのインベンションのウィーン原典版の日本版は、カレンダーのようなツルツルの光沢紙で書き込みを消すと跡が残ってしまったり照明に反射して見辛くてとても使いにくいものでした。そのくせ朱色の表紙にはご丁寧にビニールカバーがかけてあったりして、演奏する人の立場になって考えていない、見かけだけ重要視する当時の国内出版社の思考の貧しさを象徴するようなものでした。
今回のサラベール版のショーソンは、ちょうど在庫が無くて比較検討も出来ずにアカデミアで注文した楽譜です。
吉田 康子
5/26/2018 | 10:45 PM Permalink
maeda さん
やはりサラベール版のピアノ譜を購入されたんですね。もう少し早くにご連絡すればよかった。スケッチブック装丁の楽譜は、五線自体がかすれていて不鮮明な印刷だったのは私のも同じです。
他の弦楽器の皆さんには図書館にあったサラベールA4を2ページ縦に並べてA3サイズになったものをA4に縮小する、という手順で一種のミニチュアスコアのような形で人数分を準備しました。全体で85ページを縮小両面印刷で22ページのスコアです。
あまり需要の無い楽譜は注文の度に元の楽譜からコピーして仕立てるのでは?と私も思います。以前に使ったバーンスタインのピアノトリオの楽譜も同じようなスケッチブック仕様でした。「購入する」というのは金額に値するクオリティのものを期待するものですが、どうも出版社本位の資本主義が優先されるのかもしれません。
詩曲については、来歴にはっきりしない点が多々ありますね。これからリサーチの余地が沢山ありそうです。