再演の手応え
2020 DEC 31 11:11:17 am by 吉田 康子
12/27(日)豊洲でのライヴ・イマジン46公演が終わりました。これはフランクのピアノ五重奏曲の再演の本番でもありました。結論から言えば「やはり再演の手応えは大きかった!」です。前回より全員が各段にレベルアップしたことを実感しました。
当初私は「なにもこの難しい曲を再演しなくても・・」という後ろ向きの気持ちが強く、弦楽器の皆さんより大きく遅れをとっていました。再演を提案した田崎先生もそのあたりを察していて、イケイケ気分の弦楽器の皆さんより先ず私に再演の意思確認をしてきました。私は「この曲をもっと弾きたい」というより「このメンバーでの演奏をもう少し続けたい」という気持ちで折り合いをつけたように思います。要するに「渋々OKした」という感じであり、結論を先送りにしたのかもしれません。フランクのピアノ五重奏曲の再演
そうは言っても弾けないところはやっぱり弾けない。チャイコフスキーのピアノトリオのように音が沢山重なった厚みのある和音、しかも指が届かない10度以上の連続、微妙に変わっていく和声やおびただしい数の臨時記号、目まぐるしく変わるテンポやダイナミクスなどなど、挙げ出したらキリがないです。日本では演奏される機会が少ないようですが、名だたる大ピアニスト達の録音が沢山あり、ドラマチックな曲想も相まって腕自慢にはうってつけだったのかも?とさえ思えました。そして久しぶりに弾いてみた時に「よくぞ譜読みした」と過去の自分に感心する有様でした。「もっと上手なピアニストだったら他の皆さんが楽しめるのに」と考える自分が、逃げ腰であり言い訳でしかないように思えてとても悔しい気持ちもありました。
じゃあどうする?と事態の打開を自問自答した時、私が変わるしかないのはわかりきっていました。これは本来ピアノがリードすべき曲です。リモートでのレッスンのみになってしまった師匠には頼れません。自分で聴いて考えて練習するしかありません。
今回はダネル弦楽四重奏団と共演しているパーヴァリ・ユンパネン(Paavali Jumppanen、1974年7月17日生まれ フィンランド出身 ピアニスト)のCDを規範にしました。演奏を真似するのではなくて、どこが違うのだろう?と楽譜を見ながら何度も聴いて参考にしました。各パートがクッキリと聞こえてくるダネルカルテットとスッキリとした知性を感じさせるユンパネン演奏は、その後に他の演奏を聴いても垢抜けない感じがしてしまう程のクールな魅力がありました。テンポや曲想の変わり目でピアノが前向きに働きかけ弦が応える、「こうしたい」という意志を持って弾けば、必ず伝わります。そして目先の部分ではなく全体を見通して音楽を創っていくことに切り変えました。そうすることで演奏の困難さにこだわるより、音楽の流れを優先するようになりました。練習の仕方も自ずとそれまでとは違うものになります。
私が変われば、すぐにメンバーに伝わります。もう既に師走に入った頃の練習でようやくギアが入って前向きに弾く私に周りも驚くと同時にとても嬉しそうでした。そして皆でどんどん音楽にのめり込んでいきました。
ここまで来れば本番は何の不安も無くワクワクするばかり。自分のソロ部分は普段以上にたっぷりと歌って聞かせると反応するメンバーの表情が見えました。合奏部分では緊張感を持って全体を引っ張っていくと面白いように付いてきてくれます。曲のピークに向かう部分ではリハーサル以上に私が煽れば皆が必死で応える、そんな丁々発止のやりとりが迫力満点でした。心を一つにして演奏するというアンサンブルの醍醐味を体感出来たのは、やはりこのメンバーで、再演ならではの効用と思います。そして演奏者の熱意はお客さんに伝わります。本番ならではの感動をそのまま届けられたと思っています。
今は「この曲から逃げないでよかった」という大きな達成感があります。
そしてもし初回からこれくらい完成度を上げた状態であれば、もっと高みに行けるだろうという欲もあります。やはり基礎的な技術力と曲との長い付き合いが大前提でしょう。年齢的に残り時間が気にかかるようになって、新しいものに対して自分の好奇心を満たす方に重きを置くか、気に入ったものを深化させるのか、その取り組み姿勢を見直す時期なのかもしれません。でもそんな二者択一を迫られる状況であっても私は欲張りなので両方手に入れたいと考えます。その為の努力は惜しまないぞと自分に言い聞かせています。「ライヴ・イマジンの活動はライフワークだね」と言われたことがありますが、まさにその通り。私の人生そのものです。
Categories:ライヴ・イマジン
西村 淳
1/1/2021 | 6:18 AM Permalink
この曲のピアノパートの困難さはリストやショパンの大変さとはまた違う物だと何かにありました。横には旋律が絡むし縦には分厚く取りにくい和音が。再演に葛藤があったにもかかわらず、それを乗り越えて突き抜けて下さったことに敬意を表します。
フランクは弦のほうは技術的に比較的易しいのですが、お互いを聴くという解っていてもなかなかできないことも今回は出来ていました。今までのライヴ・イマジンの中でも白眉ではないでしょうか。ヴァイオリンやピアノの感じ切ったルバートに心を寄せて弾くことができ、お客様のアンケート読んでもブラボーが溢れました。
大変な年でしたが、最後に大きな収穫を刈り取りましたね。
西村 淳
1/1/2021 | 6:36 AM Permalink
ダネル四重奏団に反応です。
この団体は日本ではほとんどスルーされていますが、年明け早々にロンドンのウィグモア・ホールでショスタコーヴィチとヴァインベルクの四重奏曲を演奏しますね。
一時期、彼らのヴァインベルクの全集を電車の中で聴いていました。
フランクの五重奏曲と言えばリヒテル+ボロディン四重奏団ばかりがクローズアップされますが、範をここに置かないところが流石です。
吉田 康子
1/1/2021 | 1:30 PM Permalink
フランク自身がオルガニストだったせいでしょうか、ヴァイオリンソナタにも10度以上離れた音を同時に弾く箇所が散見されますね。無理を言ってもなぁ・・という感じで弦楽器の皆さんを諦めムードにさせた自分が情けない気持ちでした。何とか一気に加速して本番に滑り込めたのは、皆さんとの相乗効果も大きく作用したと思います。満足はしていませんが、今の時点での精一杯の結果を得られたと納得しています。
吉田 康子
1/1/2021 | 1:47 PM Permalink
日本では入って来る情報が少ない上に、自分で聴いて判断せず、お偉い評論家推しの「お墨付き」に頼って右に倣えの傾向が見受けられます。茶器の箱に書いてある能書きを真に受けるのと同じです。リヒテルはムラがあるので参考になりません。ダネルの前には、クレーメルVnとカティア・ブニアティシビリPfの演奏を聴いていましたが、ダネルの後だと浪花節っぽく聞こえたのに加えてカルテットの精度が落ちるように思えました。日本でウケるようなスターが入っていなくても、手堅い知性溢れる演奏が出来る団体は沢山あると思います。ヴァインベルクやタコの弦楽四重奏曲全集を出せるほどの実力者揃いを正しく評価して紹介できるような土壌が無いのは、やはり音楽の中心からアウェイな立場なんでしょうね。
西村 淳
1/1/2021 | 4:06 PM Permalink
アウェイどころじゃない、ここはガラパゴスです。
maeda
1/3/2021 | 9:33 AM Permalink
最近、質が向上してきたと思います。長年の努力の賜物と感じます。プログラムも、初心者向けより内容重視になったと思いますが、お客様には通じていて、本物の音楽が生まれる貴重な場になっていると思います。演奏者にとっては厳しい炎に焼かれる命の舞台。理想的ですね。これからも更に磨き上げていただくことを期待しています。
吉田 康子
1/3/2021 | 9:01 PM Permalink
maedaさん、コメントをありがとうございます。ライヴ・イマジンも今年で18年目になり、ようやく会のスタイルが確立されてきたように思います。採算重視のプロよりも好きなものを追求できるアマチュアの立場は自由度が大きいですが、音楽への熱意を伝えられる技術的裏付けや知識も必須です。様々な立場のお客様に楽しんで頂ける姿勢が大切だと思います。
maeda
1/3/2021 | 11:25 PM Permalink
アマチュアの良い面をクオリティに活かしていくことが大切ですね。音楽そのものの魅力や音楽の世界の奥深さを伝えることを重ねて、理解者を増やしていくこと、これが王道で、採算とか名声とか教養とかクラシックの世界に付随しがちな余計なことを脇に置くことが理想と思います。演奏者は音楽を純粋に表現し提供すること、音楽の僕となり可能な限りの能力を捧げお客様に楽しんでいただくこと、これは私自身の目指すところでもありますが、ライヴ・イマジンの活動は、そういう意味でも良い刺激を受けます。
吉田 康子
1/4/2021 | 5:21 PM Permalink
共感して頂ける点があるようでしたら、大きな励みになります。
毎回の公演を通して少しでも向上していけるよう取り組んでいきたいと思っています。