Soner Menbers Club No43

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ファウスト&メルニコフの演奏会

2021 JAN 24 13:13:36 pm by 吉田 康子

ヴァイオリンのイザベル・ファウストとピアノのアレクサンドル・メルニコフのリサイタルに行ってきました。
 
年明け早々の緊急事態宣言発令で次々と来日公演が中止となる中、開催自体が無理ではないかと半ば諦めていました。この2人の公演は毎年のように王子ホールで行い、チケットは発売日に完売するほど人気があります。今回も予約開始の時点では電話が繋がらなくなるほどで、あっという間にチケットは売り切れて入手できませんでした。

ところが、たまたまネット検索をしていたら、2人は既に入国して、予定通りの公演を行っている!しかも川口のリリアホールの公演は残席がある!と判り、すぐに電話をかけて予約をしました。ギリギリセーフのタイミングでの滑り込み。こんな時に、いつ、どうやって来日したんだろう?!などと考えている間もありませんでした。因みにファウストは、王子ホールは勿論のこと2月12日のNHK交響楽団の演奏会にも出演します。

プログラムは;
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ短調 op.105
ウェーベルン:ヴァイオリンとピアノのための4つの小品 op.7
ブラームス:クラリネット・ソナタ第2番(ヴァイオリン版) 変ホ長調 op.120-2
***休憩***
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第2番 ニ短調 op.121

本来ならホルン奏者も来日予定だったのが、この状況で難しくなったとのこと。プログラムも当初のものが変更になっていたようですが、むしろシューマンたっぷりの曲目に惹かれました。

いつもCDジャケットで見ている本人達がステージに現れただけで、何ともいえない感激でした。1曲目のシューマンのソナタの最初の音から、いつもCDで聴き慣れた確信に満ちた音がホール後方の席にもしっかりと届いてきました。あの有名な「スリーピングビューティ」のストラドでしょうか。高音は甘く柔らかく軽い、中低音は芯のある深い音、そして淀みのないテクニックに幅広いダイナミクスを加えて自在な表現が伝わってきました。音楽を全て自分のものにしている、そんな感じがしました。2曲目のウェーベルンの最弱音やピッツィカートでさえ何かを語ってくれます。3曲目のブラームスのソナタは、元々は私が好きなクラリネットのソナタ第2番。作曲者自身のヴァイオリン版があるのを初めて知りました。

メルニコフのピアノも当たり前のように自然に息の合ったさすがの演奏。主張するところはしっかりと聴かせ、ヴァイオリンを支えるところは鉄壁の安定感。後半のシューマンの2番のソナタは大曲の迫力に圧倒される素晴らしい演奏。小柄なファウストのどこにこんなエネルギーが?と思うほど。心からシューマンを堪能できました。

蛇足ながら2人のお辞儀の様子も人柄が出ますね。舞台マナーというのでしょうか、演奏同様にファウストにピッタリとタイミングを合わせているメルニコフ。2人とも偉そうな感じが微塵も無いけれど確信を持っていて自然で誠実な印象が更に加わった感じがしました。

アンコールにはシューマンの「幻想小曲集」。最初の曲だけかと思ったら、拍手喝采の後に2曲目も。それなら終曲もと贅沢なサービスに客席も全曲演奏に納得のスタンディングオベーションのうちに終演となりました。

リリアホールは初めてでしたが、都心から川口までは思いのほか近く、駅前というロケーションはとても便利。

ホールは600名定員ですが前後左右を空け、かえって目の前の座席が空いているのは快適でした。竣工は1990年のようで一時代前の雰囲気。当時どこのホール競うように設置したパイプオルガンが舞台後方にあり、その下部が迫り出しているのが中途半端な感じで音響面の疑問も。舞台上のスタインウェイのフルコンも少しこもった感じの立ち上がりの鈍い音だったのは、公共ホールの管理の結果かもしれません。武蔵野市民文化会館のピアノもこんな感じだったと。休憩時間に調律師の姿を見かけなかったのも今にして思えば納得です。

加えて言うなら会場で配布されたプログラムには演奏曲目と奏者のプロフィールだけ。他に何の説明や文章も無いものだったのには呆れました。クラリネット・ソナタのヴァイオリン版なんて聴く機会は絶対と言っていいほどないはずだし、これが公共のカルチャーなんでしょう。
 
それにしても本当に久しぶりの本格的な演奏会でした。世界でも最高峰の2人の演奏をこんな時期でありながら思いがけず聴けた幸運をかみしめて雪交じりの雨の中を帰途につきました。ありがとう!ファウストさん、メルニコフさん!!

Categories:演奏会

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