Soner Menbers Club No43

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ヴァインベルクのピアノ五重奏曲

2021 MAY 17 10:10:23 am by 吉田 康子

6/5本番のヴァインベルクのピアノ五重奏について、徒然に考えてみた。
今回初めて聴いた名前の作曲家でありタコ(ショスタコーヴィチ)に似たような雰囲気だと聞き、音源と楽譜を見て演奏することを決めた。
当初は「タコになれなかったヴァインベルク」という格下の評価だったけれど、
弾いていくうちにその評価がどんどん格上げされてきた。タコに似た和声を使用しているけど、ひと味違う印象。これは一筋縄ではいかない、と。

大抵のピアノ五重奏はピアノと弦が6:4または7:3くらいの割合のものが多い。両方の手で2つの楽器分と考えれば妥当な比率かも知れないけど、楽譜を眺めるとタコよりもっとピアノの分量が少ない気がする。

前回のフランクは前者の最たるものでずっとソロ曲を弾き続けているようで、体力勝負の協奏曲のような側面も感じていた。それと比較すると休みの部分が多くて明らかにピアノの音符が少ない分だけ弦楽器にとってピアノと対等な配分で難易度が高いように思う。弦楽器を演奏出来ない私が見ても弦楽器パートには様々な特殊奏法も駆使しているようだし、音符を音にするだけでも苦労しそうな音列、音程、リズムが並んでいる。

「聴いただけだと易しい曲だという印象」と言う人もいたけれど、それは音符の少なさからの響き所以だと思う。今は分量より質であり「粋を集めた音」という感じがしている。そして曲想の起伏の激しさゆえに一瞬たりとも気を抜けない。

作曲されたのは、自身が24歳の時だそう。作品番号18だから意気軒高であった若い時代だろうか。類まれなる演奏力を持ちながらも、戦争に巻き込まれ、国を追われ、家族を失い、投獄され、病で他界した波乱万丈の人生。その生涯についての資料はあまりに少ない。どんな気持ちで何を伝えたかったのだろうか?

ただ甘い感傷にかられた色はひとかけらも無く、緊迫感に覆われた儚さ、虚しさ、無常感を訴えてくる。葬送行進曲のような弔いのリズムの反復かと思えば、気が狂ったようなワルツ、どこまでも追跡されるような迫りくる音の刻み、そして時には慟哭が聞こえるような重い和音。そのどれもが厳しく激しい。

もうここまできて立ち止まって見直してみると、タコと比べる事すら忘れてしまうような独自の世界を持っている。

幸いにもボロディン四重奏団と演奏した本人の録音が残っている。初めて聴いた時は、なんて荒い演奏なんだろうと思った。時には叩きつけるような粗いタッチ、力ずくで押し切るような弾き方。破天荒という言葉が思い浮かんだ。伝統の流れを受け継ぐヴィルトゥオーソなだけに技術的には余裕で弾き切る。でも「歌う」という言葉からは程遠く怒りすら感じる。こんなのとても参考にもならない、と思っていた。

今ようやく自分がこの曲の姿が見え始めた時に改めて聴き直すと、もう他の演奏なんて吹っ飛んでしまうほどの強い意志が伝わって来る。以前私は何を聴いていたんだろう?と自問するくらいだ。生ぬるい綺麗なだけの行儀のいい演奏はお呼びじゃない、甘さだけの鈍い演奏は曲の信条を汚すとさえ思える。

畏怖の念すら抱かせるようなこの曲に対して、私に何が出来るんだろう?何もかもが遥かに及ばない自分が伝えられるもの、ほんの1ミリでも表現できるものを探っている。

Categories:ライヴ・イマジン

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