私が選ぶ「5人のピアニストによるベートーヴェンのピアノ協奏曲全集」
2013 OCT 19 5:05:09 am by
先に記述させていただきました「9人の指揮者によるベートーヴェン交響曲全集」の続編です。
ルールとしましては、「ピアニストの重複は不可」、「指揮者の重複も不可」(但し、次点の名盤としては、ピアニストも指揮者も、何回でも登場はOK)、そして、「ピアニストとして登場した人物が、他の協奏曲で指揮者として再登場するのはOK」とさせてください。
また、正直申し上げまして、私はベートーヴェンのP協について、交響曲ほどには幅広く聴き込んでおりませんので、今回は「5曲全曲」について一度に記述させていただきます。
☆ピアノ協奏曲第1番ハ長調
◎ベスト・1
ピアノ:バーンスタイン、指揮者もバーンスタイン(つまり弾き振り)演奏:ニューヨークフィルハーモニック
次点に挙げました演奏と、どちらをベスト1にするか随分と悩みましたが、こちらにしました。1960年録音で若かりし頃の健康的なエネルギーに満ちたバーンスタインの長所が十二分に現れた名演と思います。バーンスタインの弾き振りですので、ピアノの演奏とオケの伴奏が密接かつ有機的に結合し、特に第1楽章の展開部冒頭の色濃く描かれた箇所などは聴きどころと思います。
○次点
ピアノ:グールド、指揮者:ゴルシュマン、演奏:コロンビア交響楽団
たいへん速いテンポの第1楽章が特に魅力的です。グールドのベートーヴェンのピアノ協奏曲全集、無意味に遅いテンポの3番、4番、5番については、私個人は、全く魅力を感じませんが、この1番と次の2番は、大変気に入っております。1番については、この速いテンポと軽妙なタッチが曲想にも合っており、また、第1楽章のグールド自作の「カデンツア」も大いに注目すべきと思います。
☆ピアノ協奏曲第2番変ロ長調
◎ベスト・1
ピアノ:バックハウス、指揮:イッセルシュテット、演奏:ウィーンフィルハーモニー
正直申し上げまして、この曲につきましては、私の聴き込みの幅が狭く、自信を持って推薦出来るものでなく、申し訳ございません。無難なところで、この演奏かな、と思っております。
○次点
ピアノ:グールド、指揮者:バーンスタイン、演奏:コロンビア交響楽団
この演奏をベスト・1として推薦したかったのですが、指揮者バーンスタインが1番と重複してしまいましたので、やむなく次点とさせていただきました。ただ、この曲については聴き込みの幅が狭いので、自信を持って推薦している訳ではありません。特にグールド自身の言葉ですが、「私がある演奏会でこの曲を引いた時、演奏後に貴婦人が楽屋にやって来て、《あなたは、なんて素晴らしく、モーツアルトを弾いたのでしょう!》と言われたことが大変、うれしかった」と言っているようにモーツアルト的な演奏です。しかし、早めのテンポの軽やかなタッチが魅力的ではあります。
☆ピアノ協奏曲第3番ハ短調
◎ベスト・1
ピアノ:バレンボイム、指揮者:クレンペラー、演奏ニューフィルハーモニア管弦楽団
1番、2番も名曲ですが、3番以降、俄然、深みのある名曲になって行きます。その「曲の深み」を最も良く体現したのが、この演奏であると思います。この演奏の立役者は、指揮者のクレンペラーであると思います。
○次点
上記の演奏と比肩し得る演奏は無いように、私個人は思います。
☆ピアノ協奏曲第4番ト長調
◎ベスト・1
ピアノ:ハンゼン、指揮者:フルトヴェングラー、演奏:ベルリンフィルハーモニー
伝説となっている歴史的名盤ですが、協奏曲が「ソリストと指揮者の掛け合いから生まれる」という原点を思い出させてくれる、という意味で、正に貴重な記録であると思います。ソリスト、指揮者の双方が、互いの「アドリブ表現」を真剣に聴き入り、相手の表現から得た「閃き」を直ちに自分の表現に取り入れて投げ返す、という「丁々発止の呼吸」は、凄まじいの一言であると思います。フルトヴェングラーの未亡人の話によれば、フルトヴェングラーは、ソリストの演奏を引き立てる能力に異常なほどのプライドを持っていたとのことです。
○次点
ピアノ:バレンボイム、指揮者:クレンペラー、演奏:ニューフィルハーモニア管弦楽団
この両者の組み合わせによる全集の中では、この4番の出来が最も良いと思いますが、3番で推薦してしまいましたので、やむなく、次点といたしました。軽妙な表現が横行する4番の演奏の中で、正に異彩を放つ、極めて遅いテンポでじっくりと構築された演奏ですが、その「深い呼吸」は半端ではなく、たいへん感動的な名演奏です。
☆ピアノ協奏曲第5番変ホ長調「皇帝」
◎ベスト・1
ピアノ:ルービンシュタイン、指揮者:バレンボイム、演奏:ロンドンフィルハーモニック管弦楽団
この演奏をベスト1に挙げたくて、「ピアニストとして登場した人物が指揮者として再登場するのはOK」という不自然なルールを無理矢理、提案させていただきました次第です。
私個人は、ルービンシュタインというピアニストは余り好きではありません。彼のショパンを絶賛する人は多いですが、私個人は、マズルカについては、まあまあ好きですが、その他のショパンの演奏は「洒落てはいるが軽すぎて(そして、バラードに至っては下品な感じさえして)」、それほど気に入っておらず、愚直に真摯に弾いたアラウに、とても好感が持てます。
かようなイメージを持っていたルービンシュタインに対する悪印象が、一挙に変わってしまったのが、この演奏です。
言葉でコメントするのが野暮になってしまう、別格的に素晴らしい演奏です。指揮者バレンボイムも、クレンペラーの元でピアノを弾いた経験が大いに役立ったと思われます。ルービンシュタインのスケールの大きな曲作りを見事に支えていると思います。
○次点
不思議なもので、上記ルービンシュタインの演奏を聴いてしまうと、他の演奏が物足りなくなってしましました。よって次点は無しとさせていただきます。
花崎 洋
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東 賢太郎
10/20/2013 | 1:05 AM Permalink
花﨑さんのお好みが良く出ているご選択と大変楽しく拝読しました。協奏曲というジャンルは元来歌手の代わりを独奏楽器が務めるというコンセプトに発していますからベートーベンが後期の世界へ到達するメディアとしてはやや困難があったようです。モーツァルトこそ向いていのたがピアノ協奏曲ですね。だから交響曲とは違って彼が高い壁としてそびえます。僕はハ短調の3番は比較的好きですが、これは先輩の同じ調の24番を意識してまったく及んでいません。交響曲で起きたことがこのジャンルでは起きなかったのは自作自演が求められたのに耳の問題で困難だったこともあるかもしれません。
花崎 洋 / 花崎 朋子
10/20/2013 | 11:06 AM Permalink
早速にコメントをいただきまして、誠に有り難うございました。また、ベートーヴェンの後期作品の中に、協奏曲が全く無い理由も、東さんのコメントのお陰で、初めて良く理解できました。モーツアルトのピアノ協奏曲は、20番ニ短調を真剣に聴いた以外は、未だ未開拓分野ですので、楽しみがまた一つ拡がり、うれしく思っております。花崎洋