Sonar Members Club No.26

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ウィーン・フィルについて考える

2013 MAY 2 9:09:52 am by

「ウィーンフィルはネコ型オーケストラ」という、たいへん鋭い切り口で、東さんが投稿されました。

大変大きな刺激を受けましたので、急遽、投稿させていただくことにしました。

確かに、他のオーケストラと比較しますと、ウィーン・フィルは、たいへん「ユニーク」な面を多々持ち合わせています。

1:ごく僅かな例外を除き、団員達が全て、生粋のウィーン人であること

世界中の腕利き達をスカウトしているアメリカのオーケストラの例を持ち出すまでもなく、今のご時世においては、極めて稀少な話です。(私が以前群馬県に住んでいた頃、地元の群馬交響楽団の定期演奏会員になっていましたが、当時(約20年前)、地元群馬県出身の楽団員は、コンサートマスターの他、ごく少数だと聞いておりました)またオーケストラに限らず、日本の高校野球のケースでも、甲子園の常連校は、全国から優秀な生徒をスカウトしているようです。

さて、メンバーの殆どが生粋のウィーン人であることにより、ウィーンの伝統的な奏法を、恐らくは共通の師匠から学び、ウィーンという街の文化や風土に触れて育ったメンバーが奏でるハーモニーに独特の個性が出ない筈はありません。

ウィンナワルツに象徴される独特の3拍子にリズム(2拍目が微妙に長く、強く聴こえる)も、他のオケがけっして体現し得ない、地に足の付いたウィーンの体質そのものと思えます。

 

2:私有楽器の使用を認めず、楽団所有の楽器での演奏を義務づけている

昔からの古い楽器を裏方の人たちが丁寧に手入れをして、使いこなしているそうです。ウィンナホルンなど機構的な古さから、近代の複雑な曲を演奏するには極めて不利だそうですが、伝統重視の姿勢は、ここでも貫かれています。

ウィーンフィル独特の響き、特に弦楽器奏者が奏でる、艶やかな光沢を持つ流麗な響きは、この楽団所有の楽器に起因するものと、以前私は思っておりましたが、どうやら、そんな単純な話ではないようです。

あの伝説の指揮者、フルトヴェングラーが、若い頃、ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団の指揮者だった時、ウィーンフィル独特の弦の響きを手に入れようとして、関係者に掛け合い、ついに、ウィーンフィルと全く同じ弦楽器(ヴァイオリンからコントラバスまでの5部編成)を手に入れて彼の楽団に演奏させたそうです。

結果は悲惨なものだったそうです。極めて地味で、それどころか、くすんだ冴えない響きになったそうです。

ウィーンフィルの独特の響きは、古くからの伝統の楽器の良さを活かし切る、伝統の奏法、つまり楽員一人一人がDNAとして持っている「独特の技法(アート)」から生み出されるものと思われます。

 

3:ピッチ(基本音程)が、他のオケよりやや高い

演奏会が始まる前に最も音程が狂いにくいオーボエの「A」の音の先導で調律が行われます。その「A」音、他のオケでは、440ヘルツですが、ウィーンフィルは、445ヘルツと複数の楽員が証言しているそうです。

私個人の意見ですが、ピッチが高いと、やや派手に華やかに聴こえるようになり、ウィーンフィル独特の響きの一因になっていると考えます。

この高めのピッチが生理的に大変気になり、カラヤンやマゼールが少しずつ下げようとして、失敗に終わった話(最後は喧嘩別れ)を聞きましたが、どんな世界的な権威者に言われようとも、頑固に伝統を守る姿勢、もしくは、自分たちの信念に忠実で、有力者に対しての素直さなど一切無い「ネコ的な姿勢」は、まさにウィーンフィルの風土です。

 

4:つい最近まで「女人禁制」で男性のみの楽団だった

人権団体等からの批判を受けて、最近では女性団員の姿も見えますが、かつては伝統だからという理由で男性のみでした。

 

5:プライドが異様に高く、指揮者によっては極めて難しい団員達である

客演に来た指揮者が不勉強だと観ると、指揮者の言う事を殆ど聞かない。

あるいは、練習好きな指揮者が大嫌いで、あの巨匠トスカニーニを「トスカノーノー」と言って嫌がり、謹厳実直で真面目な指揮者サヴァリッシュとの練習中にパンを食べていた楽員がいたとの噂を聞いたこともあります。

また、岩城宏之氏の体験談ですが、ハイドンの交響曲を演奏する時には、「昨日は若者が多かったので、あのテンポで丁度良かったが、今日の聴衆は年寄りが多い上に、ジトジトと雨が降っているので、第1楽章と第4楽章のテンポを思い切って落としてごらん!」などと、演奏前の指揮者の楽屋に、主席奏者が指示を出しに来ることもあるそうです。

しかし自分たちが心から尊敬する指揮者との演奏会では、「ネコ型気質」の良い面が出て、丁々発止のスリル満点、閃きに満ちた素晴らしい演奏を成し遂げる。

他の楽団では、到底考えられない話です。

花崎洋

 

 

 

 

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