英国はどこへ行くのか
2015 AUG 26 13:13:45 pm by 中村 順一
ちょっと古い話になるが、今年5月の英国総選挙の結果として、保守党が勝利して単独過半数の議席を確保した。キャメロン首相は自らの約束を実現して、2017年までに英国のEU加盟継続を問う国民投票を行う可能性が高い。それまでにキャメロン首相は、英国がEUとの間で調印批准した条約について再交渉を行うことになる。
今回の総選挙で最大の問題となったのは、英国が今まで通り、UNITED KINGDOMとしてのUNION(連合)を継続していけるか否かであった。それを破壊するものとして、二つのナショナリズム、すなわちスコットランド・ナショナリズムとイングランド・ナショナリズム、さらに欧州懐疑主義のイデオロギーが浮上してきた。
昨年、北西イングランドの小職の友人の英国人の家に泊めてもらった時、保守党支持の英国人主人と議論になった。「ジョニー(小職の海外でのファースト・ネーム)、英国の人口がとうとう7千万人を超えてしまったのを知っているか?」「この間まで6千万人だったじゃないか。ついに英国もフランスの如く、出生率の向上に成功したか、出生率の向上が人口増に寄与しているなら、めでたい話じゃないか」「残念ながら違う、違う、真の英国人は全く増えていない。すべて移民だ。EU各国から怒涛のように移民が押し寄せている。英国は徐々に英国ではなくなりつつある。昔は旧植民地からの移民が多かったのだが、今はEUからだ。そろそろ止めないといけない。」
キャメロン首相は2013年1月の演説において、2015年の総選挙で保守党が勝利した際には2017年までに英国のEU加盟存続を問う国民投票を行うことを約束した。
キャメロンは次のように言っている。「2015年の総選挙の際の保守党のマニフェストでは、次の会期で保守党政権は欧州のパートナーたちと新しい条件を求めて交渉することを、英国国民に約束することになる。それはその核心において、単一市場に関するものとなるであろう。そして、我々が新しい条件に関して交渉を終えた後に、保守党政権は英国国民に対して、そのまま加盟を存続するか、あるいは離脱するか、を問う国民投票の機会を提供することになる。新しい条件に基づいてEUへの加盟を続けるのか、あるいは完全に離脱してしまうのか。これは単純なYES, orNOを問う国民投票になる。」
イングランド・ナショナリズムである。イングランド・ナショナリズムは欧州懐疑主義とEUからの離脱を志向している。保守党の予想外の大勝は英国のEUからの離脱の可能性を高めた。もう一つのナショナリズムはスコットランド・ナショナリズムである。今回の選挙で保守党以外で大勝したのは、スコットランド国民党(SNP)である。選挙の結果、保守党はスコットランドに議席を持たないイングランド中心の政党となり、イングランド・ナショナリズムを体現し、SNPはイングランドやウェールズ、北アイルランドに議席を持たない、スコットランドのナショナリズムのみを体現する政党になった。この2つのナショナリズムが衝突し、連合王国が分裂に至る可能性が俄かに出てきたのである。
今回の総選挙の結果、保守党やSNP,民主統一党(DUP)、シン・フェイン党のような地域ナショナリズムに根ざした政党が得票率以上の議席を確保し、自民党や緑の党などのユニオニズムに基づいた全国規模の支持者を基礎とする政党が大幅に死票を生んだ。このことによって、次回以降の選挙でも地域ナショナリズムを利用した選挙戦術が拡大する可能性が高い。小選挙区制の宿命である。
保守党と労働党は過去半世紀で党員数が大幅に減少し、得票率も減った。1951年の選挙では二大政党の保守党と労働党の得票率の合計は97%だった。今回の選挙ではそれが67,3%まで減少している。もはや英国は二大政党の国ではなくなってきたのである。
英国は今後、英国内とスコットランド内の二つのナショナリズムにさいなまれ、身動きがとりにくくなっていくだろう。
BREXITとGREXIT
今年はギリシャのユーロ圏からの離脱(GREXIT)のみならず、英国のEUからの離脱(BREXIT)が真剣に考慮され議論される年となった。
欧州の政治は変わってきた。欧州の現代のデモクラシーは、肥大化する国民の不満に対処する能力を欠いてきた。その際には、意図的に外部に敵を作り、それを攻撃することで国民の支持を獲得せんとするポピュリズムが台頭してしまう。
「今日の政党間競争においては政策的な選択肢の差異が縮小し、政治的競争はスタイルやイメージを競うようなものになってきている。他方で、国民の政治的不満は大きく、正規の問題解決能力あるいはみずからの政治的有効性感覚への疑念もまた膨れ上がっている。ポピュリズム勢力は、既成政党を批判し、政治の現状に対する有権者の不満の代弁者として登場する。」(野田昌吾大阪市立大学教授)
ギリシャでは、2012年の財政危機の後に、IMFとEUからの緊急資金を得ることでこれまでつないでいた。しかし、国内の改革が十分に進んでいない一方で、財政再建のための緊縮財政を要求するEUやIMFへの国民の不満が高まり、1月には極左と極右の連立政権が誕生してツイプラスが首相となった。
ツイプラス首相はEUの提案する緊縮財政による財政再建案を拒否して、独自の緩慢な改革案をEUにむりやり押し付けようとしたが、それを拒絶したことによってIMFとEUはギリシャ支援を打ち切らざるを得ず、ギリシャはデフォルト寸前までいってしまった。
英国の場合はEUを外部の敵として、スコットランドの場合はイングランドを外部の敵として、ギリシャの場合はEUとIMFを外部の敵とみなした。その敵を攻撃することで国民の人気を獲得しようとするポピュリズムが英国とギリシャをはじめ、ヨーロッパのあちこちで台頭している。これこそが、今のヨーロッパ政治の混乱の最大の原因である。
英国はどこに行くのか
英国政治は大きな曲がり角に立っている。従来のような安定した組織票に基づいた二大政党制は過去のものとなりつつある。また、ユニオリズムを前提とした連合王国としての一体性も自明ではなくなっている。
今年のスコットランドの独立の是非を問うスコットランド住民の投票の時、小職はイングランドの友人に聞いた。「いくらなんでも、独立にはならないだろう。スコティッシュにも理性があるはずだ。」「ジョニー、これがきわどいんだ。労働党は独立を煽る言動をしているし、今回の投票率は普通の英国の選挙に比べてかなり高くなる。普段は選挙に行かないスコットランドの労働者が独立に賛成してしまうんだ。特にグラスゴーがやばい。深く本当の意義を考慮しないポピュリズムだよ。」結果は独立NOになったが、かなりの接戦だった。
欧州におけるデモクラシーは、より一層ポピュリズムに結びつくようになり、英国においても深刻な危機に直面している。そのようなポピュリズムは英国では、反移民、反EU, 反ユニオリズムと結びつきつつある。
英国独立党(UKIP)の台頭(今回の選挙では得票率12.6%、保守党、労働党に続いて3位)と、国民の移民規制の要望という圧力にさらされて、キャメロン首相は英国のEUからの離脱の方向に舵を切ってしまったように見える。キャメロン自体はEU離脱に反対の姿勢だが、保守党の党内の主流は欧州懐疑派であり、フィリップ・ハモンド外相をはじめEUからの離脱へと国民投票で投票すると公言する閣僚も存在する。
英国のEUからの離脱の可能性は、低くはない。むしろ高くなってきたのではないか。(英国でも離脱論が優勢になってきた)
英国はUNITED KINGDOMを維持していけるだろうか。欧州は激動の時代に入りつつある。
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西室 建
8/26/2015 | Permalink
ユーロ圏のドイツ一人勝ちを見ている英国人が面白かろうはずがない。中村兄のEU離脱シフト説は現実味を帯びてきた。
カタルーニャ・スコットランド・北アイルランドといったエリア・ナショナリズムも当面のヨーロッパの趨勢となるだろう。
歴史的には敵を外に求めて内政引き締めが常道なのだが、このご時勢ではロシアを仮想敵にするわけにもいかないし、I・SはEUのそのまた先だ。
いっそのこと日英同盟を復活させて互いの活路を見出してはどうか。