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開演前のあんちょこ

2023 FEB 8 8:08:09 am by 西村 淳

ライヴ・イマジン51が終わった。折り返し点から最初の一歩。果たしてどこがゴールなんだろう。
いつも開演に先立ち5分間だけプログラムについてお話をさせてもらっている。たったの5分だが、されど5分。レスター・ヤングだったか忘れたが、「16小節のアドリブで物を言えない奴はいくら長いソロをとっても同じこと」と言っていたのを思い出す。そう、5分で何も伝えられなければ20分喋っても同じこと。だからしっかり準備をしてあんちょこを作り覚える。アドリブは封印しないとどこかに行ってしまう。

「51」のプログラムは、以下のようなものである。
・ ベンジャミン・ブリテン (1913-1976)
シンプル・シンフォニー Op.4(1933-1934)
・ レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ(1872-1958)
「揚げひばり」-ヴァイオリンと弦楽合奏のためのロマンス (1920)
・ ガブリエル・フォーレ(1845-1924)
ピアノ五重奏曲 第2番 ハ短調 Op.115 (1919-1921)

「あんちょこ」に少し手を入れて:
『本日のプログラムは2つの大戦の間、すなわち、第一次大戦の終わりから第二次大戦の始まり迄の25年の間に作曲された曲で構成しました。ここでは「1921年」の前後のお話を進めます。
どんな芸術も音楽もその時代から逃れることができません。時代の子であるということ。従ってそれを知ることは理解を助けます。この頃の世相を見てみましょう。今以上に不安定な状況だったことがわかります。
それには3つの大きな理由があります。
まず、その1。戦争から。1914年、 第一次世界大戦が勃発し、1000万人の兵士が戦死したと伝えられています。人類史上最初の世界大戦です。まだ幼かったブリテンは勿論、高齢者のフォーレは戦場には行きませんでしたが、従軍した42歳のヴォーン・ウィリアムズは砲兵隊の隊長として戦場で散々辛酸を舐めて帰国します。一方戦争がはじまるとサン=サーンスは、ドイツの作曲家の音楽をフランスで演奏しないことにしようと騒ぎ始めました。フォーレはその書類のサインを拒否しましたが。
2つ目。疫病です。1918年11月に大戦は終結したものの、ちょうどスペイン風邪が流行りはじめ、この史上最大のパンデミックで世界全人口18億のうち5億人が感染し5000万から1億人が亡くなったとされています。
そして3つ目はお金の話。戦争はインフレーションを招きます。敗戦国ドイツはそれに加え、途方もない賠償金を課せられ、1923年には1年間で例えば1000円が1兆円になるという事態が起きています。こうなると預貯金も年金も紙屑ですね。
歴史は繰り返すと言いますが、100年前の戦争、疫病、そしてインフレーションの3点セットは今の世界の状況と大変良く似ていると思いませんか?
一方、戦勝国たるフランスは、好景気に沸き返り、戦争が存在したことすら忘れてしまう有様。大気にはシャンパンの香りが漂い、街ではストラヴィンスキーが、ピカソが闊歩する中、コンサートではワーグナーとベートーヴェンが演奏され、「ここの支払いはドイツがするんだ!」と大騒ぎでした。
そんな中、1921年5月には「揚げ雲雀」、6月にはフォーレの五重奏曲2番が初演されました。前者はヒバリを通じ、自然と心の平安を謳いあげた作品です。イギリスのクラシックFMのリスナー投票で11年連続、栄光の殿堂第1位を獲得、イギリス人がもっとも愛する曲として知られています。またフィギュアスケート、韓国のキム・ヨナがこの曲を使って華麗に舞い上がりました。とてもいいセンスをしています。
フォーレの五重奏曲は仄暗いハ短調から始まり、晴朗なハ長調で堂々と締めくくった大曲です。私は第一楽章の終結部のコーダに教会で盲目の老婆に導かれて無心に小さなオルガンを弾くフォーレ少年の姿が目に浮かび、そこには教会の鐘の音も聴こえてくるようです。同年、7月ヒトラーはナチス党党首になり、そしてブリテンのシンプル・シンフォニーが作られた1933年にはドイツの首相になっています。もう次の戦争の足音がすぐそこまで迫っています。
そんな中で、1921年がほんのひと時の平和を味わっていた年であったと思います。』
・・私たちの今もほんのひと時の平和を味わっているだけなのかもしれない。

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