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オリンピックへの道、日本のお家芸、三段跳三連勝

2013 NOV 10 18:18:22 pm by 中村 順一

織田、アムステルダム五輪優勝

織田、アムステルダム五輪優勝

田島、ベルリン五輪優勝

田島、ベルリン五輪優勝

南部、ロサンゼルス五輪優勝

南部、ロサンゼルス五輪優勝

かつて陸上競技の三段跳が、「日本のお家芸」と言われていたことさえ知っている人は少なくなった。だが三段跳は、陸上競技で日本人が唯一オリンピックで三連勝し、圧倒的な強さを誇っていた種目なのである。織田幹雄の1928年アムステルダム五輪、15M21での金、南部忠平の1932年ロサンゼルス五輪、15M72,世界記録での金、田島直人の1936年ベルリン五輪、16M00,世界記録での金である。

 

織田は広島県出身、広島一中時代に全国中等学校陸上競技大会の走高跳と走幅跳で優勝。その後も順調に記録を伸ばし、広島の天才として有名になり、1924年のパリ五輪で6位に入り、日本陸上初の入賞を果たす。アムステルダム五輪の金は日本人初の偉業であった。織田はアムステルダムに出かける前、歌舞伎座に6代目菊五郎の踊りを見に行っている。「あの踊りにはすばらしい動きがある。これを跳躍に生かせないか、と考えたのです」と後に言っている。あの時代にすごい余裕、と感心させる。

 

南部は北海道、北海中学出身、雪が多く、走る環境としては適していない。しかし南部は雪かきされて雪が少ない市電の線路を、トラックのコースに見立てて練習した。後にジャンプの金メダリストで同じく北海道出身の笠谷幸生が、「冬はハンディでしたね」と尋ねると、「問題ないよ。冬はね、札幌市が最高の練習走路を用意してくれたのさ」と語ったという。南部は走幅跳で1931年に7M98という当時としては驚異的な世界記録を樹立した。この記録は相当にレベルが高く、その後も長く日本記録として残った。破られたのは東京五輪後の1970年に山田宏臣が8M01を跳んだ時である。この時山田は「南部さんの記録を超えることができた」と泣いて喜んだ。この記録なら現在でも日本選手権優勝も可能だろう。

 

田島は山口県岩国中学、山口旧制高校から京都大学に進学した秀才。ロサンゼルス五輪代表の陸上選手、十倉麻と結婚、日本初のオリンピック代表選手同士の結婚として話題になった。田島が三段跳をはじめたのは織田の影響である。田島の兄も跳躍の選手で、織田は広島から岩国に時々遊びに来ていたのである。当時、”裸足で大学生選手に勝つ天才麒麟児” が田島直人少年の体に火をつけたのである。ベルリン五輪の田島の16M00は当時の圧倒的な世界記録で、2位の日本人の原田に30センチ以上の差をつける圧勝だった。田島はベルリンでの三段跳決勝の開始前に、競技開始を待っていた際、ポカポカ陽気のグラウンドでウトウトと居眠りをしてしまった。そして競技開始のアナウンスにびっくりして目をさまし、その直後の跳躍で世界記録を樹立した。その日の調子は最高だったそうだが、正に余裕を感じさせるエピソードである。

 

この3人の友情はその後も長く続いた。織田と南部は同学年で、早稲田に進学している。早稲田を出ると織田は朝日新聞、南部は毎日新聞に進んで新聞記者になった。2人は同じ取材で時には互いにそれぞれの記事を融通しあったりした。東京五輪の時は、織田が日本陸上チームの総監督、南部が監督、田島がヘッドコーチを務めた。金メダルトリオの豪華な揃い踏みである。3人共、もちろん日本陸上界の英雄であるが、3人の特徴は異なる。南部は3人の跳躍を評して「織田は数学的、南部は直感的、田島は哲学的」と述懐している。戦前の良き時代の日本を代表する、世界に誇れる日本人、と言えよう。

 

ところが、その後の日本跳躍陣は振るわない。世界記録の樹立は、戦後の1956年のメルボルン五輪前に小掛照二が三段跳で16M48の当時の世界記録をマークしたのが最後である。残念ながら小掛は本番前に足首を痛め、メルボルンでは8位に終わっている。しかし、その後はいくつかの五輪の陸上監督、日本陸連の強化委員長等に就任し、陸上競技の発展や底辺拡大に大いに貢献した。

 

現在の三段跳の日本記録は、山下訓史が1986年に記録した17M15で、世界記録である英国のジョナサン・エドワーズの18M29からは1メートル以上の差をつけられている。現在では日本人が三段跳や走幅跳で世界記録を樹立するシーンを想像するのはちょっと難しい。時代が変わったということだろうか。

 

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Categories:オリンピック

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